四季に彩られる日本。季節はそれを24に分けた二十四節気、さらに節気をそれぞれ3つに区切り七十二候に分けられます。その中で、私たちの暮らしには昔から伝わる習慣や風習がさまざまにあり、「食」と結びつきも強く、行事によっては特定の食材を食べることが慣例となっているものもあります。庶民が暦になじむ良いきっかけとも言えますね。

さて、「半夏生(はんげしょう)」をご存知ですか。七十二候のひとつで、夏至から数えて約10日目、太陽の動きによって差異が出ますが今年は7月1日だそうです。この頃は田に植えた苗がいよいよ伸びていこうという時期。農家では、苗がタコの足のようにしっかりと根をつけるようにと願いを込めてタコを食べるという習わしがありました。それがいつしか庶民にも広がったという、主に関西など西日本での風習のようです。
そもそも、筆者にそれを教えてくれたのは馴染みの居酒屋のおやじさん。お通しの一品にタコがあり「半夏生だから」と一言。なるほど、そんな美味しい風習なら大歓迎と、以来「半夏生にはタコ」と刷り込まれているのでした。いかにも庶民的な発想で恐縮です。

北の海で獲れたてのタコを味わう

北の海では夏を迎えタコ漁も盛んになります。美味しいものは美味しいうちにと、半夏生には早いですが港の直売所に買いに行きました。

sake_g_tako_1こだわりの晩酌、呑むなら作るべし –酒と良縁な活ホタテのカルパッチョ風 –」でも訪れた北海道小平町の漁港です

この時期、近海で水揚げされるのはミズダコ。直売所では獲れたてを大釜で塩ゆでにして販売しています。客は好きな足や頭を選ぶことができます。茹でたてを買ったら帰宅早々、知人を招いてタコパーティーの開宴です。

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保温バッグのおかげでまだほんわかと温かいタコ足の、根元の方を厚目に切りました。茹でたてならではの、柔らかな弾力ある食感。噛むほどに旨みが口に広がります。ほんのり塩味が効いているので醤油はいらないとさえ感じます。わさび醬油では味が濃すぎて、うっかり付けすぎるとせっかくの旨みを楽しめません。
ということで、塩味と酸味でタコの旨みが引き立つ、カルパッチョ風の料理を仕立てました。

吟醸酒と良縁なタコ刺身

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タコ足をスライスしたものを皿に並べ、軽く塩を振り、粗びき黒コショウ、ピンクペッパーなどのスパイスを控えめに効かせます。グレープフルーツの果肉と刻んだミントを散らせたらオリーブオイルを回しかけて完成。
タコとグレープフルーツの組み合わせは、近頃多くの料理人がこれを認めているところ。レモンでは酸っぱすぎ。酒との相性を考えたらグレープフルーツが実にちょうど良いですね。

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夏らしいひと皿に用意した酒は文佳人「夏純吟」(アリサワ酒造)。お酒のおばけが描かれたラベルが楽しいですね(おばけ解説書のオマケ付き)
旨みあるタコにグレープフルーツの甘酸っぱさが調和する料理。まずは吟醸酒、きっと響き合うこと間違いなし。できるなら互いの爽快感がシンクロするような酒がいい。そんな思いを込めてチョイスしました。
甘いフルーツ香、そして発泡感を含んだ鮮烈な口当たり。端麗を思わせたその瞬間、ほんのりと語り掛けてくる米の旨み。この一連の流れはまさに期待通り。オイルと相まって甘酸っぱく変身したタコの美味しさを難なく引き出してくれました。
この相性はとにかく面白く、楽しかったです。酒と肴の、互いに似ている性格が一致したということでしょうか。

もう一品は、深い味わいのニンニクと

7月にタコを食べる理由には他にもあります。タウリン説です。タコを食べると疲労回復に効果があるという経験則が、暑さが増し疲労が高まる時期と結びついた、という考えです。風習にまつわる食事は縁起だけでなく、栄養摂取にも一役買っているとよく言われますね。
もう一品は、より疲労回復に効きそうなニンニク炒めにしてみました。タコのサッパリ感にニンニクが加わりました。ニンニクというと香りの強さが印象的ですが、やんわりと料理すれば滋養ありげなふくよかな味わいに。これも夏らしい肴です。

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夏純吟は、すっきり感を抱きつつ同時に程よいコシもあるように感じます。つまり食中酒としてもよい仕事をするのではと期待していましたが、見事的中。グレープフルーツ、オリーブオイルに続き、今度はニンニクという性質の違う食材ですが、その独自の旨みを酒はカバーしました。冷えているうちはポテンシャルがかなり高いと感じました。
仲間とワイワイ、夏の味覚を味わうような宴会で存在感を発揮しそうです。

◎タコのニンニク炒め

<材料>
・ゆでタコ  200g
・ニンニク 3かけ(食べやすい大きさに切っておく)
・オリーブオイル 適宜
・塩コショウ 適宜
・酒 大さじ1
・ブイヨン顆粒 小さじ1
・香草(パセリや大葉) お好みで

<作り方>
イ)オリーブオイルでニンニクを炒める(弱火でゆっくり)
ロ)ニンニクが柔らかくなったら(つまようじが刺さればよい)タコを投入
ハ)塩コショウを振り、酒、ブイヨンを加える
ニ)タコが熱くなったら完成(ゆでタコなので火を通す必要なし)
ホ)好みで香草を飾る

(文:KOTA/編集:SAKETIMES)

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