落語の世界にお酒はつきもの。さまざまな噺(はなし)の端々にお酒が登場し、お酒にまつわる演目もたくさんあります。数ある噺の中から、本日は「試し酒」というお話を紹介します。

落語の「酒呑み」は5升呑んでも酔わない!?

お酒が大好きな尾張屋の主人の家へ、酒呑み仲間で大酒家である近江屋の主人が、使用人を連れて遊びにやって来るところから話は始まります。

近江屋の主人から、今日連れてきた使用人が「5升呑んでも酔わない酒豪」であると聞かされ、半信半疑の尾張屋の主人は余興を兼ねて、この男が本当に5升の酒が呑めるのか目の前で呑ませながら賭けを楽しむというお話です。5升というと1升瓶で5本分。ちょっと信じられない話ですが、そこは落語です。マネしてはダメですよ。

ちびちび呑んでいては埒が明かないということで、賭けを持ちかけた尾張屋の主人が大切にしている、1升入る大盃で5杯呑むことになります。

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1升の大盃が「武蔵野」と呼ばれる理由

さてここからはこの使用人が、酔っ払いながらも5升の酒を呑みきれるか、否か。おもしろおかしく語られるわけですが、

今回は尾張屋の主人自慢の”大盃”に焦点を当ててみます。尾張屋の主人の自慢話の中に、この1升入る大盃を江戸(東京)の方では「武蔵野」と呼んだという話が出てきます。

なぜ、武蔵野と呼ばれたのでしょうか?

今でこそ武蔵野という土地は栄えていますが、昔は何もなく、ただただ野原が広がっていたそうです。ただただ広い野原。見尽くすことのできない野原。

「野を見尽くせない」

「野、見尽くせない」

「の、みつくせない」

「呑み尽くせない」

となるので、1升入る大盃を「武蔵野」と呼んだそうです。

どうでしょう? なんとも粋な言葉遊びですね 「駄洒落かい!」というツッコミも聞こえてきそうですが、純粋に洒落てるとも感じませんか。

このように昔の日本人は味だけでなく、酒器、言葉遊び、季節などにこだわりながら、お酒を楽しんでいたようです。現代的なおしゃれな空間で、日本酒を楽しむのもいいですが、古典芸能をお供に粋にお酒を嗜んでみるのもよいでしょう。

さて、この使用人さんは5升の酒を飲み干すことができたのでしょうか?
続きが気になる方は落語「試し酒」を聞いてみてください。

※本記事で紹介した話は落語の中でのお話です。危険な飲み方はおやめください。

(文/久野惣司)

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