全国新酒鑑評会がはじまったわけ

明治40年(1907年)に発足した「全国清酒品評会」の主催は、醸造試験場の外郭団体である日本醸造協会。運営は国立醸造試験場が行っていました。全国清酒品評会の審査員は日本醸造協会から選ばれ、国立醸造試験場の技師たちは審査に立ち会うだけでした。

そこで、明治37年(1904)の発足以来、速醸酛や山廃酛による酒造りをはじめ酒造業界の技術指導に大きな成果を上げてきた国立醸造試験場が主催となり、自分たちの技術開発、指導、鑑定、評価を世に問うために、明治44年(1911年)に「第1回全国新酒鑑評会」を開催しました。目的はその年の新酒の品質傾向を探ることと、各酒蔵の醸造技術の修得・向上を目指すことでした。

第1回目の出品蔵は17蔵、出品点数は27点で、第1位が京都の「月桂冠」、第2位が広島の「菱百正宗」でした。

全国新酒鑑評会の出品基準

平成12年酒造年度の「全国新酒鑑評会」から、主催者が国立醸造試験場から独立行政法人酒類総合研究所へ移り、出品基準が変わります。

平成12年酒造年度以前は、全国2000社の中から各地域の国税局主催の鑑評会が予選会のような形で行われ、その中から選ばれた800社が「全国新酒鑑評会」に出品していました。各蔵元が鑑評会に出せるお酒の数は酒造免許を持つ製造場(蔵)につきひとつで、大きく複数の蔵を持つメーカーは複数の酒を出品でき、小さな酒蔵は1点しか出品できないシステムになっていました。

sake_g_seisyuhinpyoukai03_01
全国新酒鑑評会(出典:片山酒造)

現在は、酒類総合研究所職員・国税庁酒類鑑定官・都道府県醸造試験場の技術関係者・日本酒有識者(学識者、酒類関係者などで各酒造組合などから推薦のあった人物)が、香味の調和などの品質内容について、規定項目を人間の五感をもって審査し、他に酸度や香気成分に関しての化学分析も行われています。

審査基準に関しては毎年少しずつ変わるので、各都道府県の技師の指導のもと、鑑評会用の出品酒が各蔵にて造られています。

sake_g_seisyuhinpyoukai03_02
全国新酒鑑評会 審査の様子(出典:米田酒造株式会社)

鑑評会で開発された技術による酒造りへの効果

鑑評会や品評会で連続して優秀の成績を収める蔵があると、醸造試験場はそのお酒を研究し、酵母を分離し、造りのマニュアルとともに配布し、日本酒の造りの技術の向上を図ってきました。ここから出た酵母を協会酵母と呼んでいます。

1号酵母が櫻正宗、2号酵母が月桂冠、3号酵母が酔心、4号酵母は不明(広島系)、5号酵母が賀茂鶴、6号酵母が新政、7号酵母が真澄、8号酵母が6号の変異株で協会分離、9号酵母が香露、10号酵母は明利小川酵母と呼ばれていて出所不明、11号酵母が7号の変異株で協会分離、12号酵母が浦霞で、以下17号まであります。蔵から分離されたのは12号酵母までです。

鑑評会用の出品酒の造りと一般酒の造りは異なりますが、鑑評会用の造りから各蔵が新しい技術を習得する機会を得ていることを考えると、鑑評会は日本酒造りの規格(フォーミュラー)を定める場といえるでしょう。自動車の世界でもF1グランプリで培われた技術は市販車に活かされています。酒造りにおいて「全国新酒鑑評会」の果たしてきた役割は非常に大きいと考えます。

(第4回に続きます)

(文/石黒建大)

前回の記事

日本酒の魅力を、すべての人へ - SAKETIMES