一般には手に入らない幻の銘酒

廣木酒造は、会津と越後を結ぶ越後海道沿いに栄えた宿場町で、江戸時代後期の文政年間(1804~1830年)に創業しました。一時は廃業も考えていた蔵ですが、現在の生産石高は約1600石。地酒蔵としては中堅クラスですが、人気が高騰し、一般には手に入りにくい幻の銘酒のひとつとなりました。

今や全国屈指の銘醸の地となった会津地方ですが、現蔵元の廣木健司氏が蔵に戻った平成5年(1993年)当時、会津も大量消費の時代の流れに抗えず、醸造アルコールや甘味料などを加えた三増酒の生産地となっていました。廣木酒造も同様だった中、杜氏が高齢のため引退し、先代の父が他界しました。社員不在の中、平成8年(1996年)、廣木健司氏27歳の時、母と2人で酒造りを始めたといいます。

母子2人の造りから生れた起死回生の「飛露喜」

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公共放送のテレビ番組で、母子2人の酒造りが紹介されました。これを観た東京の有名酒店から声がかかり、その2年後、搾りたての生酒を送ったところ、好評を博し商品化されることになりました。

当初は、地元で知られている銘柄名「泉川」で一升瓶換算、約30本の仕込みでスタートしました。当時はラベルを印刷する余裕もなく、蔵元のお母さんが手書きしたものを貼っていたのは有名な話です。

「泉川」もプレミアがつくほどの人気となっていますが、同蔵の名前を一気に広めたのは、1999年以降の銘柄「飛露喜」です。家名「廣木」をなぞりつつ、「喜びの酒(露)がほとばしる」という意味が込められて「飛露喜」と名付けられました。

現在のように「無濾過生原酒」などの言葉も広まっていない時代でしたが、そのジューシーでフレッシュなスッピンの味わいはインパクト十分で、少しずつ人気が高まっていきました。

最高の晩酌酒!落ち着いたいぶし銀の銘酒

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まさに起死回生だった「飛露喜」の生酒ですが、健司氏は通年の定番酒となる火入れ酒にも力を入れます。それが「特別純米 生詰」です。生酒とはことなり1度加熱殺菌し、飲み頃になるまで蔵で熟成させてから出荷します。基本的には2月と9月に出荷するのですが、季節など状況により、造りを細かく変えています。

同酒は麹米を山田錦50%、掛米を55%まで磨いています。香りは非常に穏やかなバナナのような果実香。口当たりは軽く、綺麗な味わいですが、芯にしっかりとした米の旨みと酸味を感じ、福島酒らしい膨らみもあります。切れ味も申し分なく、派手さのない落ち着いた品のある味わいです。呑み飽きしないお酒の代表とでも言えます。和食との相性は抜群で、山菜の天ぷらや白身魚のお刺身などは特に、お互いに引き立て合う味わいになりそうです。「飛露喜」は純米吟醸など複数銘柄がありますが、気づくとこのお酒に戻っているといういぶし銀”のような銘酒と言えるでしょう。

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