酔鯨酒造」の代表銘柄「酔鯨」は、いまや東京ではコンビニやスーパーで買えるほどメジャーな高知の銘酒です。

酔鯨酒造へは、高知駅からタクシーに乗り、運転手さんの土佐弁を聞きながら20分。静かな住宅街のなかに酔鯨酒造はありました。

限られた空間を活かした蔵

蔵を訪ねたのは、2015年9月。造りの始まる前の設備チェックのタイミングです。営業の中平氏の説明をお聞きしながら、酒蔵を案内していただきました。(以下、「」内は中平氏のコメント)

sk_g_suigei_01

-精米は外部委託なのですね。

「はい、現在、精米は外部に委託しています。過去に精米用の機械がありましたが、騒音等の問題があり、現在は行っておりません。同じ理由で、蒸し作業も朝6時から7時開始に変更しています。
洗米、吸水は、米の吸水率がわかる設備を導入しています。仕込み水は、もともとは地下水だったのですが、地下水が枯渇したため、土佐山地区の湧水を汲みにいっています。洗米の水は冷蔵庫で管理しており、常に同じ温度にし、安定した給水が可能となりました」

sk_g_suigei_02

-仕込みタンクは何本あるのでしょうか。

「仕込みタンクは22本。小さいサイズは900kgが7本あります。2014年度は200本分造りました。蔵人は10人。時期としては6月まで行っています。ですが、6月になると気温が暖かくなり、空調ではカバーしきれません。そこで冷水をタンクの周りにまわしたり、氷を当てて温度管理します」

-なるほど、そのためにタンクの真横に製氷機があるのですね。不思議な光景と思っていました。

sk_g_suigei_03

-この形の貯蔵タンクは初めて見ました。

「氷温貯蔵用に、密閉の温度管理可能なタンクが10本あります。関連会社で使っていたものをもらってきたものです。-2度で氷温貯蔵して熟成できます。これは蔵の自慢ですね」

sk_g_suigei_04

「貯蔵した酒は、火入れ後3ヶ月~6ヶ月熟成させてから出荷しますが、昨年、貯蔵タンクを換えました。タンクを増やすのがもっとも簡単なのですが、どうにも場所がなく、タンクの高さを高くすることで、1本当たりの貯酒量を約1.8倍まで量を増やすことができました。なお、大吟醸、吟醸は瓶に詰めて冷蔵庫貯蔵しています。1升瓶から四合瓶への詰替えはしません」

sk_g_suigei_05

-こちらでは瓶詰め中ですね。

「在庫の少なくなった酒を瓶詰めしています。火入れ後は約25度まで一気に冷やします」

東京でも人気の高い土佐の地酒「酔鯨」

つづいて「酔鯨」を試飲しつつ、酒造りのお話を伺いました。

sk_g_suigei_06

-すっかり東京では有名になりました。何がきっかけなのでしょう。

「今から二十数年前に、大吟醸酒を1,000本、東京で販売していただいたのが、販路が広がったきっかけと考えています。あっというまにすべて売れ、続けて松山三井で1万本、純米吟醸 吟麗を造り、それが売れ、業績が伸びていった二十数年です。最近では、一部の商品はコンビニエンスストアや量販店でも販売しています」

-やはり地元よりも県外のほうが需要があるのですか。

「弊社の商品構成は特定名称酒中心となっており、8割以上県外で売れています。逆に高知では、地元のみ販売している普通酒を中心です。
販売の割合ですと、東京が4割で、次が高知。3位は意外にも北海道です。東京で認知された後、北海道の販売が伸びていきました。ただ、逆に北陸や東北ではお取り扱いが少なく、売れていません。現在、販路拡大のため営業活動中です」

-蔵を見学させていただいて、実にうまく設備や空間を利用しているなという感想です。

「東京で売れるようになり、生産量が1,000石から3,500石に増やしました。新たに設備を置こうとしても場所がなく、蔵の面積を広げるわけにもいかないので、それまで酒造りのスペースではなかった場所も使いました。いかにうまくスペースを使うかという点では、苦労しています。また、生産量を増やすために6月まで酒造りをしています。高知は暖かいので、酒造りのためにも空調が必要になります」

-今年も売れ行きは好調のようですね。

「12月が販売のピークです。売れすぎて出荷調整をかけ、ご迷惑をおかけしていることもあります。一昨年は11月で品切れになってしまい、社員も買えない状況もありました。蔵のキャパシティがもう限界ですので、どのお酒をどのくらいの量で造るか、毎年悩みます。特に昨年は全国新酒鑑評会に出品する酒は造らず、その分を市場に回るお酒造りに充てました。
鑑評会用に仕込む時は集中するために、他の仕込を行いません。その期間は通常の造りが止まってしまうのです。やはりお客様に飲んでいただきたいので、そのような選択をしました」

-酔鯨は香りが穏やかでキレがよく、華やかというよりは落ち着いた印象があります。

「酔鯨は料理を引き立たせる食中酒を目指しています。なかでも、高知の郷土料理といえば皿鉢料理です。刺身から天ぷらまで、海のものも山のものもどちらにも合い、杯を重ねられるお酒に仕上げています」

-こだわりのポイントを教えてください。

「品質が高いお酒を目指しています。例えば、純米銘柄、本醸造銘柄でも精米歩合は55%です。精米歩合が60%以下であれば『純米吟醸』を名乗れますが、あえて『純米』として販売しています。
また、少量の普通酒、本醸造を除きほとんどが純米、純米吟醸酒を造っています。酵母は全て同じ。熊本酵母のみを使っています」

-味がこれだけ違うのに、全部同じ酵母とは思いませんでした。

「みなさん驚かれるのですが、造りに使う米の種類と精米歩合だけでのみ、商品を分けています。例えば、酒米名(品種登録の出願時名称)が付いている『酔鯨 純米吟醸 高育54号』は、高知県産の酒米『吟の夢』を使った、純高知産のお酒です」

-最後に、どのような方に飲んでいただきたいでしょうか。

「日本酒の需要は下がる一方ですが、特定名称酒、なかでも純米、純米吟醸酒の需要は伸びています。つまり、『日本酒は美味しい』と思ってもらえているのではないでしょうか。また、飲食店けでなく、お家で手料理と一緒に飲んでいただきたいです。若い人、特に女性に飲んでもらいたいと思っています」

-ありがとうございました!

努力と思いが詰まった、すぐそばで出会える本気の食中酒

東京ではスーパーやコンビニでも買えるお酒「酔鯨」

都内ではあまりにもメジャーであったため、どれだけ大きな蔵なんだろうと想像していたところ、古くからの住宅街に溶け込んでいる蔵が酔鯨酒造でした。

限られた敷地で、いかに美味しいお酒をたくさんの人に届けることができるのか。タンクを置く場所がなければ、高さを伸ばせばいけるのでは。どのお酒をどのタンクでいつ造るのか、パズルのようなスケジュール。蔵人に負担をかけないために、三交代制や機械を導入。お酒を待ってくれるお客がいるならば、鑑評会も諦めよう。純米にこだわり、品質を高め、高知の酒を旨いと思ってもらいたい。

さまざまな問題や制約を創意工夫で乗り越え、それらを突き詰めた企業努力の結果、今の状況が生まれたのだと思います。

努力とお客への思いが詰まった、すぐそばで出会える本気の食中酒。

ご近所のコンビニやスーパーに置いてあるかもしれません。
今晩は酔鯨で一献いかがでしょうか。

 

◎酔鯨酒造株式会社のご紹介

土佐の高知は、四国山脈の連峰を背に、黒潮おどる太平洋に面する豪快な酒の国です。
緑と海と太陽と、豊かな自然に恵まれた南国土佐は、維新の英傑・坂本龍馬をはじめ幾多の偉人を育ててまいりました。
なかでも、酒をこよなく愛し、自ら「鯨海酔侯」と名乗った幕末の土佐藩主、山内豊信(容堂)公は、
昨は橋南に飲み、今日は橋北に酔う
酒あり飲むべし 吾、酔うべし
と謳い、その見事な鯨飲ぶりは、外出の際、赤ひょうたんを腰から離したことはなかったと伝えられ、
紫紺の紐に銀口の付いた頼山陽の逸品『赤ひょうたん』は今日も尚、山内家に残されております。
土佐清酒「酔鯨」は、この容堂公の雅号「鯨海酔侯」に因んで命名され、
ラベルには山内家の家紋「三葉柏」を頂いております。
太平洋の大海原を悠々と泳ぐ海の王者、巨鯨のようにおおらかに飲み干していただきたく、
日本酒好きの皆様に心を込めてお届けいたします。

酔鯨酒造株式会社
〒781-0270
高知県高知市長浜566-1

(文/鈴木将之)

【関連】酔鯨 純米大吟醸 旭友(酔鯨酒造/高知県高知市長浜)
【関連】久礼をくれ!高知最古の蔵「西岡酒造店」体験レポート!

日本酒の魅力を、すべての人へ - SAKETIMES