年間27万石という膨大な量の日本酒を製造しながら、消費者のニ−ズにあった商品を技術力とスピード感を持って生み出し続ける月桂冠。連載第一回では、月桂冠・革新の歴史を振り返り、 “世界最高品質”を目指す月桂冠の理念に触れました。

その理念は、製造の現場にいかに根づいているのでしょうか?月桂冠が誇る技術者たちの、プロフェッショナルな仕事観と日本酒造りにかける想いに迫ります。

まずは、月桂冠株式会社・醸造部の大手一号蔵責任者・高垣幸男さんにお話をうかがいました。

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年間製造量約11万石の一号蔵に込めるプライド

月桂冠で稼働する4蔵のうち、大手一号蔵・二号蔵は最新機械を兼ね備え、四季醸造が可能な大規模蔵。高垣さんは大手一号蔵の責任者として、十数名のスタッフとともに年間11万石を超える日本酒を製造しています。大手一号蔵では、パック製品を中心とする普通酒製造と、「鳳麟 純米大吟醸」「伝匠 純米吟醸」に代表される吟醸酒・大吟醸酒製造の2つのラインを備えています。

なかでも「伝匠」は、酒米の王様とされる山田錦と、京都の雄大な自然が磨いた名水・伏水(ふしみず)で醸造しており、酒造りの"匠"ともいえる造り手たちの技術・酒造りへの想いを結集させた逸品。食中酒として真価を発揮するこのお酒は、1杯目から食事の最後まで、どんな料理にも合うように設計されているそうです。

吟醸造りでは、1度の仕込みに使われる白米の量は、最大でも1トンから数トンほどですが、大手一号蔵での普通酒造りでは、さらに規模が大きく最大で80トンほど。この規模の発酵管理は至難の技なんです。

「市場価格で1,000円前後のパック詰め日本酒は、その価格の安さから"どこか手を抜いているのではないか"と言われることがあります。しかし、80トンを仕込むとなると発酵管理の難易度は著しく高くなり、逆に細心の注意を払わなければなりません。杜氏の経験と技を、杜氏を越えるさらに高いレベルで再現できるような設備を積極的に導入し、仕込みや発酵など一般的な造りにおける品質管理はもちろん、常温流通でも高い品質をできるだけ保持する工夫など、細部にまでこだわっています。造りに対する姿勢や情熱は、大吟醸酒も普通酒も決して変わりません」

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一方で吟醸酒・大吟醸酒造りの製造ラインでは、若手技術者の教育の場ともなり、原料処理から仕込み、発酵管理、酒搾りまで一連の造りの過程を、五感を駆使して経験できるようにしています。ここではデータ管理を徹底し、基本的なポイントに関して数値化・マニュアル化しています。基準となるデータと現場での造りを対比させて学ぶことで、若手の応用力も磨かれていきます。もちろん、予想外のことは起こります。特に発酵は、なかなか理屈どおりにはいきません。数字では分からない局面で、若手技術者にどうすべきかを考えてもらうそうです。実際の造りの現場で、試行錯誤しながら判断を重ねていくことで技術が磨かれ、造りの現場そのものが成長の場になると高垣さんは言います。

「分業だと、ある工程のプロフェッショナルにはなれますが、商品に対する誇りが薄れる気がするんです。若いうちは、『自分が造った』と胸を張って言える商品を形にし、“ものづくり”の楽しさや嬉しさを味わい、自分の仕事に誇りを持てるような働き方をして欲しいと思っています」

高垣さんは、消費者に変わらぬ味を提供するため造りのマニュアル化を推し進めると同時に、杜氏の持つ技術レベルを後世に伝えるという、ともすれば相反する両者を実現するため日々努力を惜しみません。

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技術者でありながらMBA取得…「お客様目線」を実現するための姿勢

高垣さんは月桂冠に入社して25年。そのキャリアを紐解くと、技術者としてだけでなく、ビジネスマンとしてのプロフェッショナルな仕事観がうかがえます。

高垣さんは1999年〜2006年にかけて米国月桂冠に出向し、品質向上や組織づくり、製造の効率化などに努め、現地にて1万石から2万石への製造量増を実現。その後も着実に数量は増加し、現在では年間3万石を造るようになっています。日本とは文化も環境も違い、一筋縄ではいかない中、日本食レストランでお客様が月桂冠を美味しそうに飲む姿を励みにしていたそうです。「米国月桂冠の製造責任者は前任者のやり方を踏襲するだけではなく、そこから工夫を凝らして、ひとつでも品質向上を成し遂げることが責務です」と高垣さんは語ります。

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米国月桂冠時代の高垣さん(左)

また、高垣さんは技術者でありながら、MBA(経営学修士)を取得するという異例の経歴を持っています。

きっかけは、造りを経験する中で、技術を用いてより市場を切り開き、ブランドを築いていく方法を模索するようになったことからでした。持っている技術をどのように製品に反映し、それを市場に浸透させ、さらに経営に紐付けていくのがを体系的に学ぶため、仕事後と週末を利用して大学へ通い始めたそうです。

「月桂冠というブランドを外側から客観視することは有意義でした。現状の造りに満足するのではなく、お客様のニーズや市場の評価をとても意識するようになりました。一方でお客様への価値提供は、言葉を尽くして魅力を伝えるより、より良いものを造り続けることが大切だと実感しました。手にとって美味しいと感じていただけることが最も近道だと思いますね」

高垣さんは、他の蔵との技術交流も積極的に行っています。日本酒造りは技術や方法を教えてもらっても、環境やお米・水など前提条件が違うので同じ造りは絶対にできません。あまたある方法論の中から自分たちの造りにあった情報をピックアップし、それを月桂冠の酒質コンセプトに合うようにアレンジして取り入れることを意識しているそうです。

ただでさえ身につけるのが難しい日本酒造りの技術。その上に知識を磨き 、“お客様最優先“のものづくりにこだわる高垣さんの姿に、仕事への誇りと情熱を感じます。

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高垣さんが考える“月桂冠らしさ”

高垣さんに「最も月桂冠らしい酒はなにか」と尋ねたところ、「普通酒です」と即答されました。高価格なお酒を例に挙げるかなと思っていましたが、高垣さんは「最も多く造られる商品にこそ、その企業の特徴が現れる」と語ります。

高垣さん考える“月桂冠らしい”というお手頃な価格の普通酒は、なめらかでクセがなく飽きがこない味わい。また、どんな保存環境・流通環境でも耐えうる変わらない味を実現しています。

「ビールと発泡酒は使い分けがされ、どちらも受け入れられていますよね。しかし日本酒はいわゆる地酒が人気で、普通酒は手を抜いているんじゃないかという印象を持たれています。しかし決して『安い=手を抜いている』わけではありません。安く手頃な理由は、日常の晩酌に日本酒を選んでほしいという想いから。もちろん高い品質で製造していますし、常に技術革新も行っているんですよ」

また、消費者のニーズを汲み取り、技術力とスピード感を持って商品化を実現しようとする姿勢も月桂冠ならではだと言います。例えば糖質ゼロの日本酒は、食生活やカロリーは気にするけれどお酒は飲みたいという消費者のニーズに答えて開発され、業界ではじめて商品化に成功しました。今ではそのすっきりとした軽快な飲み口を好まれる人たちにも支持を広げています。

「月桂冠に伝承しているものづくりマインドは、“お客様の顔を見る“ということ。100年以上前に美味しいお酒を造るために研究所を設立し、年1〜2回行われる社内研究発表会は今年で172回目を数えています。『いつの時代もお客様にもっともよい日本酒を届ける』ことをモットーに、設立当初から創造と革新を意識していたのでしょう。このマインドを形にし、後世にも伝えていくのが私の役割です」

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多くの蔵が特定名称酒を重視する中、普通酒も含めて大切にし、「高品質でいて手に取りやすい価格」を貫くのは、自らの造りに誇りを持っていないとできないことだと感じます。少量仕込みの吟醸ラインが美味しいのは当たり前として、それ以上に、たくさんのお客様が接する商品に心血を注ぎ、満足してもらえる酒造りを追求する。これこそが、月桂冠の基本理念のひとつ「Quality」で体現であり、月桂冠の目指す“世界最高品質”のかたちなのでしょう。

月桂冠のお酒は、日本はもちろん、世界40カ国以上で飲むことができます。それはすなわち、様々な流通経路を経るために、必ずしもメーカーの望んだ状態やシチュエーションで飲まれるわけではないことを意味します。「月桂冠のお酒は、1年365日、さまざまな保存環境・流通環境を経て、どう飲まれても、いつもの月桂冠でいられます」と自信を持って話されていた高垣さん。気さくで親しみやすい人柄の中に、情熱を秘める高垣さんの仕事観や想いは、心から酒造りへの誇りをもち、消費者のニーズに答えていくという月桂冠の姿勢そのものでした。

(取材・文/石根ゆりえ)

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