東京・湯島、燗酒嘉肴『壺中』の燗番・伊藤理絵です。

立秋を過ぎても、太陽が燦々と照りつく今日この頃。呑みも食べも冷たいのに限る!

いえいえ、燗酒はいかがでしょう?

夏バテで弱った体の血行をよくして、呑むペースに合わせて酔いがまわり、呑みすぎを防いでくれる。
本日はそんなお燗に向く酒と、お燗番についてお伝えします。

“いかに醸されたか”がポイント。

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「お燗酒は、ちょっと…」。盃に顔を近づけると、鼻につく強い香りが苦手、という方もいらっしゃるのでは?なぜでしょう?その理由は、まず、お酒そのものの“造り”にあります。

酒造りのプロセスひとつひとつで手間を惜しまず、適切かつ充分な時間をかけて醸された純米酒は、完全発酵され旨味に満ちています。常温で匂いを嗅いでみてください。人工的な果実香や、接着剤のような異臭はありません。

これならお燗にしても大丈夫。有機酸の中でも、旨味とコクの元となるコハク酸、穏やかな酸味を伴う乳酸が大半を占める日本酒は、熱を加えると、深みが増し、膨らみのある味わいになります。その醍醐味を楽しめるのが、燗酒です。「夏でも燗酒」は、そこにあります。

精米歩合は、お燗の向き不向きに関係ありません。「大吟醸をお燗にしたら勿体ないのでは?」。いえいえ、精米歩合が60%以下(吟醸)や50%以下(大吟醸)も、お燗でどうぞ。濁り酒も、です。

しっかりと醸された酒は、「燗映え」します。旨味が引き出され、膨らみがでます。口に含むとふんわりと味が広がり、後味はすっきりクリア、キレがある。甘重い残留感がなく、気分が悪くなる、頭が痛くなるなど、悪酔いの心配も一切なし。

一口、さらにもう一口と盃が進むはずです。

・竹鶴 (竹鶴酒造/広島)

・睡龍&生酛のどぶ (久保本家酒造/奈良)

・辨天娘【べんてんむすめ】(太田酒造場/鳥取)

・日置桜(山根酒造場/鳥取)、玉櫻 (玉櫻酒造/島根)

・独楽蔵【こまぐら】(福岡/杜の蔵)

などは、夏でも常温で保管(暗所)しても劣化しない強さをもち、暑さと闘い、旨味を蓄えます。もちろん、お燗をしても味が崩れたり、いやな香りがたつこともありません。

 酒とにらめっこ。“燗番”という仕事。

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「燗酒のむせるようなアルコール臭がつらい」。 もうひとつの理由は、熱の加え方にあります。酒は生き物。季節や保管環境で、コンディションが変わります。そこを見計らい、どのようなスピードで何度まで熱を加え、1口目の温度を何度にするかなど、それぞれの酒に適した状態で仕上げる。まさに、酒、そして燗の番人。お燗の出番です。

10人のお燗番がいれば、その方法も10通り。ひとそれぞれですが、急激に温める方法は避けたいもの。ぐらぐら煮立った湯煎、電子レンジは、不快な匂いが立ちやすくなります。

私の場合、お燗器にお湯を張り、チロリで温め、徳利と盃にもお湯を張り、仕上がりの温度を調整しています。

たとえば、有機酸が豊富で熟成感があれば、チロリに入れたお酒を、“順当なペース”で60度まで温めて、徳利と盃に入れたときも同じ温度になるようにし、重厚感を出しつつキリっと仕上げます。同じタイプでも、60度まで温度をあげながら、徳利と盃の温度をぬるめにし、55度前後まで下げる場合も。

すっきりと軽やかなタイプは、55度までに仕上げて、こちらもまた、徳利と盃をぬるめにしておき、やや温度が下がった状態でお出ししています。ほか、敢えて、徳利も盃も温めず、一気に10度近く下げるときも!? お酒の状態に加えて、肴やお客様の召し上がり具合をみながら、温度を決めています。

「ぬる燗」が40度前後、「熱燗」が50度前後と言われる中、なぜ、55〜60度まで温めるのか、驚かれる方もいらっしゃるでしょう。しかし、そこまで温度を上げても”耐えられ酒”ならば、むしろ、しっかりとした輪郭が浮かび上がり、開きます。「竹鶴 純米にごり原酒・酸味一体/竹鶴酒造」、「生酛のどぶ/久保本家酒造」などの濁り酒は、70度まで温めることもあります。

燗をすると旨味が増し、温度が下がっていく過程それぞれで、味わいの違いを遊べる。これぞ燗酒の魅力です。動物性油脂を含む肴の場合、油分をほぐし口の中で優しく馴染ませるにも、“温める”がお薦めです。

酒を温めて味わう。お燗は世界でも珍しく、日本ならではの伝統的な手法です。同じお酒を常温や冷酒で召し上がり、味比べをするのも愉し。日本酒の世界を広げてみてはいかがでしょう。

 

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