どぶろくを造った千葉県の鮨屋の店主をご紹介します。
鮨屋がどぶろくを造るのは日本で初めての挑戦です。
香取市の「まこと屋」という鮨屋を経営するかたわら、コシヒカリを作っている“半農半鮨”の小堀真市さんです。
2015年9月に製造免許を取り、11月初旬から自作のコシヒカリを原料にどぶろくを造りお店で提供しています。

香取の恵みを受けて育った自然栽培の米

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小堀さんがどぶろくを造るに至った経緯の出発点は、自然栽培の米作りにあります。
農家の長男として生まれた小堀さんは、若いころから「自分で作った米を自分で売りたい」と思い、
和食店や市場で働き、1996年に「まこと屋」を開業しました。
自分で作った米をシャリに使う」という目的は達成したのですが、その後、農薬や肥料を使わない農業の話を聞き、
「自分でもやってみたくなった。自然栽培の米をうちのシャリに使って、お客さんにより喜んでもらいたい」との思いを強くしたのです。
その農法は、冬場に田んぼに水を張り、しかも耕さずに田植えをし、農薬や肥料を使わないというもの。
10月に田んぼに米ぬかをまいて水を張ります。
すると、まず植物性プランクトンが発生、続いて動物性プランクトンが増殖します。
これを餌にしてイトミミズやドジョウが増えると、それを求めて野鳥がやってきます。
野鳥のフンがさらに田んぼの栄養価を高める仕組みです。
そのまま5月に不耕起で田植えをするのだそうです。

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訪れた日に、湛水している田んぼまで案内していただきました。
周囲の田んぼが乾燥している中で小堀さんの田んぼだけは水が湛えられていて、緑色の藻も発生していました。
畔を歩くと、たくさんの鳥が驚いて飛び立っていきました。
「近くの山の湧水を引いてこれるので冬場にも田んぼに水を張れるのです。香取の豊かな自然の恵みです」と小堀さん。

1年目は試験的に所有する水田の一部(約0.1ヘクタール)で挑戦しました。
すると予想を超えた収穫になったのです。
冬場の湛水で地力がついたのは明らかで、2年目には面積を0.4ヘクタールまで増やしました。
昨秋6回目の収穫が終わったところです。
店で使うシャリのお米はすべてここで育ったコシヒカリです。

自分のお酒を提供したい!香取市を「どぶろく特区」に

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自然栽培が軌道に乗ったこともあって、小堀さんは「シャリだけでなく、お店で出すお酒も自分で造りたい」という気持ちを募らせます。
そこで、香取市に「どぶろく特区」の国への申請を働きかけました。
市も前向きに対応し、国に申請、2014年11月に「香取市どぶろく特区」の認定を受けています。

通常、どぶろくを製造する場合、年間の製造見込み量が6キロリットル(一升瓶換算で約3300本)以上でないと酒類の製造免許が取得できません。
しかし、それでは小規模な事業者が参入できないので、規制緩和策として、
6キロリットル未満でも製造免許の取得を可能にする「どぶろく特区」の設定が2003年から可能になりました。
ただし、誰でも製造免許を申請すれば取得できるわけではありません。
旅館や飲食店など酒類を提供している農業者で、自ら生産した米を原料としてどぶろくを造ることが条件になります。
小堀さんはぴったりでしたので、早速、製造免許を取得したというわけです。

寺田本家をお手本に自然派な酒造りに挑戦

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さて、免許を取れば、次は造りです。
文献を読みながら自己流でやるのも手ですが、やはりプロに学ぶことにして、隣町の神崎町にある銘酒小蔵寺田本家さんに頼みました。
寺田本家は依頼に快く応じて、小堀さんは酒造りの細かい部分まで指南を受けました。
「こんなに教えてくれてもいいの?」というぐらいノウハウを提供してもらったそうです。
特に甘さの加減の調節が参考になったようです。
寺田本家が使う酒米は全量無農薬米。かつ、人工の乳酸を添加しない生酛造りです。
さらに、酵母は添加せず、蔵に棲みついている天然酵母で発酵。
麹米造りに使う麹菌(もやし)は自社の田んぼの稲穂に発生したものを採取して使っています。
まさに徹底した自然酒造りで、小堀さんの自然米造りと同じ方向を目指す“同志”ということで、寺田本家が前向きに対応してくれたのかもしれません。

仕込みは13リットルのタンクで造ります。
天然の乳酸菌の力を借りる生酛造りで、40度弱と通常の清酒よりも高い温度で醸します。発酵が盛んに行われるため、およそ7~10日間で仕込みは完了します。

アルコール度数は10度前後。
「初めて仕込んだ時は自分のイメージした酒質になるか心配でしたが、造ってみるとびっくりするぐらいに狙い通りになりました」

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生酒で提供しており、造ったどぶろくの在庫がある程度減ると、次の仕込みを立てるという循環です。
お客にも評判は良く、「おかわりする人が多い。滑り出しは上々です」

鮨と相性抜群!優しい甘さと酸味のアクセントがあるどぶろく

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小堀さんが狙うのは甘味があるものの、酸味もあって、自らの鮨と相性がいいどぶろくです。
その場で頂いたところ、甘味はほんのりで、しっかりとした旨味に酸味がからまり、そこに気泡の破裂感が加わってセミドライ系の印象で美味でした。
おまかせ握り12貫(3000円)をいただきながら何回もおかわりをしてしまいました。

店では商品名としてどぶろくに「真由美」と名付けています。

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小堀さんの名前の”真”と、奥様である由美子さんの”由美”を合わせたのだそうです。
お値段は1合で650円と手ごろです。
当面はお店でのみ提供する方針ですが、容器を持っていけば、それに詰めてくれるので、自宅に持ち帰って飲むこともできます。

都内からだと電車で2時間余りかかるので、いささか遠いのですが、白濁系のお酒に目がない人にはぜひ、おすすめします。

(空太郎)

◎まこと屋
住所:千葉県香取市八日市場792-1
TEL:0478-83-5055
営業時間:11:30~14:00,17:00~21:00 月曜定休

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