年間26万石という膨大な量の日本酒を製造しながら、高い技術力を生かし、消費者のニ−ズにあった商品を生み出し続ける月桂冠。日本が誇る大手酒蔵メーカー「月桂冠」に宿る酒造りへの情熱に迫る本シリーズでは、これまでに5名の技術者にインタビューし、それぞれの熱いスピリットをお伝えしてきました。

今回は月桂冠の醸造総責任者である、製造本部 醸造部長・山中洋祐さんに日本酒造りへの情熱をお伺いします。

山中さんは、1988年月桂冠に入社。研究所に配属後、93年に米国月桂冠・2代目現場責任者として渡米し、7年弱にわたり米国月桂冠の立ち上げに努めました。その後日本へ戻り、大手二号蔵にて多岐にわたる製品の品質管理・生産管理とその製造現場を直接担当した後、2014年に現職に就き、月桂冠の醸造に関わるすべてを指揮しています。

様々な経験の中で月桂冠を先導してきた山中さんは、日ごろどんな想いを胸に酒造りと向き合っているのでしょうか?

「時代に合わせた味を提供する」月桂冠マインドを形にした超特撰

様々な商品を手がけてきた山中さんにとって、思い出深い商品は「超特撰・特別本醸造」だといいます。超特選は、昭和の時代に高級酒として売り出していた看板商品であり、月桂冠の歴史になくてはならないもの。先輩たちが品質にこだわって真摯に超特選を造る姿から学び、その教えが今も山中さんの根底に流れています。

「月桂冠は、時代に合わせた日本酒を造っていこうと、日々研究を重ねています。超特撰も、当時は甘くて優しい味わいでしたが、今は以前に比べればすっきりとしたキレのある味わいとなり、その時代に合わせて変化しています。そんな中でも、根底にある “お客様に常に愛される商品を造り続ける”というマインドは変わらず持ち続けています」

このように語る山中さんの目には、月桂冠が培ってきた「歴史を受け継ぎ、更により良くしていく」という決意が表れていました。月桂冠を担う山中さんは、どんなキャリアを歩んできたのでしょうか。

人を育て、技術を伝承するための挑戦と改革

山中さんは、29歳にして2代目現場責任者として米国月桂冠に赴任しました。そこで酒米選びから買い付け、製造から貯蔵・出荷まで、現場のすべてを担当したそうです。

「当時の米国月桂冠は立ち上げ期。やはり “人の差”がかなりありました。日本では長年、先輩から後輩への伝承を継続してきたため、技術者一人ひとりの仕事が丁寧でしたが、アメリカでは従業員の皆さんが酒造りに慣れていなかったため、洗い物仕事ひとつをとっても困難が続きました…。しかし酒造りの基本である“丁寧”や“清潔”という考えはとても重要です。一 つひとつ教えるのは根気が必要でしたが、徐々に形にすることができました」

山中さんが赴任中に立てていた目標は、"月桂冠として恥ずかしくないものを造ろう"ということ。
「当時は技術的に未熟な部分もあり、すべて上手くはいきませんでしたが、この気持ちは決して忘れませんでした」と山中さんは語ります。

その後、3代目・4代目と現場責任者が受け継がれていく中で、品質も生産量も向上していきます。

「自分たちが到達できなかった品質も、この気持ちを次世代が受け継ぎ、皆で頑張って徐々にレベルを上げていっています。これからも受け継いでいってほしいですね」

米国月桂冠で7年弱勤めた後、日本へ帰国した山中さんは、今度は “逆カルチャーショック”を受けることになりました。本社では分業化が進むあまり、技術が十分に受け継がれていないのではないかと感じたそうです。

“技術をどう伝えるか”という課題に対し、山中さんはふたつのことに取り組みました。

ひとつは部署間での交流です。これにより、自分が担当する仕事だけではなく、前後の工程の流れを把握し、お互いがどのような気持ちで酒造りをしているかを意見交換をすることは、技術者一人ひとりの酒造りに対する当事者意識を向上させたそうです。

そしてもうひとつは、若い技術者に酒造りを学ぶ機会を増やしたことです。例えば、山廃仕込みの研修を行ったり、麹蓋(手造りで麹を造る際に使用する昔ながらの用具)を使用した麹造りを行ったり、現場によっては普段経験しない技術を、研修を通して学んでいるそうです。

山中さんは、技術向上において大切なことは “入り込む気持ち”と言います。

「酒造りの技術は奥深く、実際に自分が責任を持って取り組んで、初めて理解できることがたくさんあります。そのため、“心から良い酒を造りたい”と造りにぐっと入り込む気持ちが本当に大切。その気持ちをどうやって持ってもらうかを常に考えています」

製造責任者として、月桂冠の酒造りで絶対に守ること

月桂冠の酒造りにおいて山中さんが最も大事にしている考えは、“真面目に造ること”です。瓶詰されるまで手を抜かず、真摯に向き合って美味しいものを造ることが、月桂冠を支える思想だと山中さんは言います。

「月桂冠の長い歴史の中で、美味しいものを造るために、絶えず前向きに良いものに変えていこう、というマインドが社員の間に受け継がれています。例えば、たまたま訪れた飲食店で月桂冠を飲んだとき、満足する味に到達しているものを飲むととても嬉しいですが、まだまだ美味しいものが造れる、と感じることもあります。そのマインドの根底にあるのは、“いいものを手頃にお客様に届けたい”という想い。そのためには、真面目に品質を追求し続けるしかないんですよね」

そして、絶えず良いものを造るために必要なことは、"科学的な裏付けを感覚に変えていくこと"と山中さんは続けます。

「月桂冠の強みは、技術的な研究に基づく多くのデータを持っていることです。しかし、データの数値だけでは到底良い造りはできません。造り手は、実際に自分の目で毎日見て判断し、データを照らし合わせることで、感覚の精度を上げていくのです」

より良いものを真面目に作り続ける、という月桂冠マインドを絶えず実行し、次世代に受け継ごうとする山中さんに、酒造りの醍醐味をお伺いしました。

「日本酒は造り手の気持ちの入る余地が大きいと思います。米や水はもちろん、“どんな酒にしたいか・どんな味わいにしたいか”という気持ちによって造りの工程にも違いが出ます。造り手の想いが一つひとつのボトルに濃縮されるのが、日本酒の醍醐味ではないでしょうか」

山中さんの今後の目標は、世界最高品質を追求し続けること。「商品の美味しさを求めて、改革し続けていきます、まだまだ頑張らないといけませんね」と笑う山中さんの胸には、数々の経験と思考を経た、山中さんだからこそたどり着いたプロフェッショナルな想いがありました。

月桂冠の酒造りマインドに迫ってきたこのシリーズ。月桂冠の技術者は、一貫して「より良いものを造り続ける」という思想を持ちながら、自らが考え行動していました。

一見完成された日本酒企業に見える月桂冠。しかし造り手たちは、「まだ発展途上。もっと美味しいものを造りたい、まだまだ出来る」という気持ち一心で、今日も酒造りに真摯に取り組んでいます。

(取材・文/石根ゆりえ)

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