企業理念に「豊かなくらしの創造」を掲げる新潟・菊水酒造。モノが溢れるこの時代、もはや高品質の酒(モノ)をつくるのは当たり前。日本酒を通じて、楽しい・うれしい顧客体験(コト)を生み出すことこそ酒蔵の使命である──。そんな決意が込められています。

この「モノづくり」と「コトづくり」、双方に大きく関わっているのが、菊水酒造の研究開発部です。"研究開発"というと理系の研究をイメージすることが多いと思いますが、菊水酒造の研究開発部には、日本酒文化の研究を行う文系社員も所属しています。 「ふなぐち菊水一番しぼり」や「菊水の辛口」といった人気商品から、発売されたばかりの「十六穀でつくった麹あま酒」まで菊水酒造の多彩な商品と、"顧客体験"という提供価値を支える研究開発部。この知られざる部署を取材しました。

理系・文系が混在するチーム!研究開発部の役割って?

研究開発部に所属しているのは現在7名。生産研究室、商品開発室、文化研究室の3チームに分かれています。もっとも歴史のある生産研究室は"研究開発"のイメージに近いもので、成分検査や分析、研究を行っています。

商品開発室はラベルやパッケージなど、商品の"外側"を担当するチーム。商品イメージを伝えるデザインを模索し、それを形にしていく仕事です。

文化研究室はもっとも独特かもしれません。敷地内にある「菊水日本酒文化研究所」で、収蔵品の管理や研究を行っています。研究所には全国から集められた酒や食文化に関する書籍・専門書が収蔵されており、ここで酒の歴史や文化の研究をする、文系職種です。

3つの役割を担う研究開発部ですが、どのような経緯でこのような形の部署となったのでしょう?

「モノづくり」だけでなく、「コトづくり」も担う部署として再出発

研究開発部は発足当初、検査分析などを行う理系の部署だったそうです。部署の歴史について、研究開発部の統括マネージャーを務める宮尾俊輔さんにお話をうかがいました。

「現在のような部署の形になったのは、約10年ほど前です。ちょうど『菊水日本酒文化研究所』ができた頃ではないでしょうか。当初は理系の人間だけで、いわゆる『モノづくり』に携わっていました」

その後、時代の変化が、研究開発部のあり方を変えていったそうです。

「ひと昔前は、酒(=モノ)が美味しければ売れていました。しかし、モノがいくら良くても、それだけで売れる時代ではなくなってきた。日本酒を通じて、暮らしの楽しいこと、おもしろいことを増やそうという『コト』まで伝える必要が出てきたんです」

菊水酒造の理念は「より良い酒を追求し、豊かなくらしを創造する」「『良い酒(モノ)』は手段であって、ゴールは『豊かなくらし(コト)』」だと明文化されています。研究開発も、モノだけを見ていてはいけない。そこで現在の、3つの役割を担う部署に形を変えました。

「理系・文系はアプローチの違いにしか過ぎません。菊水酒造のゴールは『お客様を楽しませる』ことです。そこが共通しているので、ブレることはありません」

商品開発はもちろん、ボトルやパッケージデザインまで

では、これまでに研究開発部が行ってきたことを具体的に教えていただきましょう。

まずは「味覚チャート」。商品パッケージに、五角形のレーダーチャートが記載されています。チャートの軸は商品によって異なり、たとえば「ふなぐち菊水一番しぼり」なら、甘味・旨味・コク・酸味・アルコールの5つ。一般的な清酒のグラフも載っていて、比較することで商品の特徴がわかる仕組みです。「コク」に振り切れているのが「ふなぐち」の特徴のようですね。

「酒の表現って『コクがある』『すっきりしている』『辛口』『フルーティ』などと、主観的だったり、どれも似通った表現になったりしがちなんですよね。はじめて飲む方に、より客観的でわかりやすい指標がないかと研究を重ねてできたのがこのチャートです。いずれは全商品に記載したいと思っています」

先日 SAKETIMES でも取り上げたスマートパウチも、研究開発部が形にしたものでした。酒量の減少、エコ意識の高まりなどにより一升瓶へのニーズが落ちている中で、「新しい容器はないのか」という問いから開発された商品。開封しても風味が劣化せず、軽くて持ち運びやすいという利点だらけの容器です。

研究開発部は、中身だけでなく、外側も含めてあらゆる観点から日本酒を見つめている部署なのですね。

「今では『酒』にも限らないですけどね。2月に発売したのは『十六穀でつくった麹あま酒』です。これは当社のカフェ「KURAMOTO STAND」のメニューとして開発したレシピを進化させたもの。桃色がきれいでしょう。白い甘酒は世の中にありますから、わざわざ似たようなものを出す必要はないと思ったんです。それと、健康志向をさらに高めたくて十六穀を使うことにしました」

こちらは想像以上の人気で、増産体制を整えているところだといいます。こうした新商品が発売される際には、文化研究室が研究してきた甘酒の歴史や文化も併せて発信するのだそうです。まさに「モノ」と「コト」ですね。

菊水酒造独自の「研究開発」の意義とは?

改めて、宮尾さんに研究開発部についてうかがってみましょう。

「酵母や遺伝子など、基礎的な研究に力を入れることももちろん大切です。ただ、これだけ技術が進歩していますから、それだけで素晴らしい何かを生み出すことは難しいでしょう。それなら、お客様が求めているものをとことん模索し、今ある技術を活用してそれを形にしていけば良いのではないでしょうか」

あくまで「お客様」がゴールなんですね。

「そうです。ゴールから逆算するというのは、理系特有の考え方でもありますし、菊水酒造の企業姿勢でもあります。たとえば『ふなぐち菊水一番しぼり』は"旨い生酒を多くの人に届けたい"というゴールに向かってひたすら進み続けて生まれた商品です。その姿勢があったから、ほとんど使われていなかった"缶"という容器に目が向いたのです。この姿勢はこれからも変わることはありません」

"お客様"ありきなので、研究とはいえ、論文をまとめるなど、内向きの作業は一切頭にないのだそうです。「どうしたらお客様が喜んでくれるか」をひたすら考え続けているのですね。

「歴史を知る意義はもうひとつあります。アイデアって、ゼロから生まれるものではないと思うんですね。古いものと新しいものの組み合わせとか、古いものを復刻するとか、そういうことがモノづくりの根幹のはずです。江戸時代の人は、日本酒を心から楽しんでいました。その楽しみ方を現代風にアレンジして、伝えていきたいですね」

文化伝承、そして日本酒の楽しさを若い世代へ伝える活動として、地元大学での課外授業も予定しているそうです。酒造りを知って「日本酒=楽しい」というイメージが湧けば、日本酒を好きな人が増えていきそうですね。

理系・文系、さまざまなアプローチで、日本酒の魅力を探る部署

「研究」というと、どうしても数字やデータに没頭するイメージが付いてきますが、菊水酒造の研究開発部にはそういう印象はまったくありませんでした。きっと、数字やデータはお客様にとって”直接の価値”ではないと分かっているからなのでしょう。

菊水酒造の方にお会いすると、必ず「いかにお客様に楽しんでいただくか」というお話になります。今回の研究開発部でも同じでした。営業職のように直接お客様と対峙する仕事ではなくても、常にお客様が目の前にいるかのように仕事を行っている…。菊水酒造のブレない企業姿勢をここでも感じることができました。

(取材・文/藪内久美子)

sponsored by 菊水酒造株式会社

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