冬場に造り貯蔵したお酒の熟成具合を、夏場に確認する「初呑み切り」。日本酒を造る酒蔵の風物詩とも言える行事ですね。

通常は杜氏や蔵人、酒造りの指導者など、関係者のみで行われるものですが、それを広く一般に公開するとともに、呑み比べたお酒の人気投票を実施し、1番になったお酒を「こだわりの厳選酒」として販売している酒蔵があります。

栃木県佐野市にある「開華」醸造元・第一酒造株式会社です。

参加者が年々増えている人気イベント「こだわりの厳選会」が6月中旬に開かれました。その模様をレポートします。

約90人が決めるナンバーワンのお酒

"厳選会"と呼ばれる初呑み切りの会、今年は約90人の日本酒ファンが参加しました。半分近くは女性で、幅広い年齢層の方が集まっていたようです。地元・栃木の人が過半数ですが、都内から駆けつけた人も少なくありません。

会の冒頭は、呑み切りの実演から始まります。

お酒を貯蔵するタンクの底よりもやや高いところに、お酒を汲み出すための「呑み」という口があります。その口から貯蔵しているお酒を汲み出す作業を「呑みを切る」と言い、略して「呑み切り」。そして、酒を貯蔵した後に初めて行う呑み切りを「初呑み切り」と呼ぶのです。

この日はタンクにお酒...ではなく、水を入れての実演でした。

続いて、さっそく呑み切りに移ります。参加者が多いので、あらかじめタンクから汲み出したお酒を瓶に入れて、並べてありました。

この日は、精米歩合が50%台の純米吟醸酒5種類を呑み比べました。いずれも美酒ですが、使っているお米も酵母もバラバラなので、味わいはまったく異なり、楽しい呑み比べになりました。

参加者は5種類の中から気に入ったお酒を2点選びます。さらに、上位2点のお酒を参加者がもう一度呑み比べて、最終的にナンバーワンが決まりました。

結果がすべて決まった後、お酒のスペックが公表され、杜氏からそれぞれのお酒についての説明がありました。お酒は嗜好品ですから、好みはいろいろ。杜氏は決戦投票に残れなかったお酒が1番好きだと話していました。

さて、1番になったお酒は「こだわりの厳選酒」として7月上旬に発売(四合瓶のみ、税別1,500円)になります。ユニークなのは、ラベルの裏貼りに投票に参加した全員の名前が印刷されることです(記載辞退も可能)。

購入するかしないかは自由ですが、自分が審査したお酒ということで親しみがわくのか、多くの参加者がお酒を購入するそうです。もちろん、会に参加しなかった人でも買うことができますよ。

目指すは"開かれた酒蔵"

厳選会は2010年から始まりました。第一酒造は蔵元社長の島田嘉紀さんの方針で、多くの人が蔵へ足を運んでくれるような"開かれた酒蔵"を目指しています。

造りのある冬場には酒蔵見学も企画していますし、蔵の中でコンサートを催したこともあります。

そして、造りのない夏場にも蔵に来てもらうことはできないかと考えて浮かんだのが、貯蔵しているお酒を呑み比べて、その中から1番好きなお酒を選んでもらうという企画でした。さらに、1番になったお酒を瓶詰めして提供すれば、より喜んでもらえるのではということになったのだそう。

「それって我々(蔵人)がやっている初呑み切りと同じですね」という声があがり、初呑み切りの一般開放という形をとることになりました。

1年目の参加者は50人程度でしたが、ここ数年で参加者が増えており、いまでは定員の100人に迫る勢い。

島田社長は「常連さんも多く、皆様が楽しそうに投票している様子を見ると、これからもずっと続けようという気持ちになります。現在は純米吟醸酒に限っていますが、今後は純米酒や本醸造酒、大吟醸酒などもラインアップに加え、より幅広いお酒で、初呑み切りを楽しんでもらおうかなと考えています」と話していました。

厳選会への参加は無料です。ぜひ来年、参加してみてはいかがでしょうか。

(取材・文/空太郎)

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