旅に出かけたら、その土地の銘酒を味わうのも楽しいですよね。

訪れた証に、"御朱印"ならぬ"御酒飲"を。ということで、今回は奈良県大和郡山市への旅で訪れた酒蔵を紹介します。

城下町として発展した大和郡山市

筒井城跡

大和郡山市は奈良盆地の中央部に位置し、1565年~1568年の3年間に渡って、筒井順慶と松永久秀(弾正)が筒井城の戦いが繰り広げられていました。1580年に筒井氏は居城を郡山城に移します。現在は畑地になっている筒井城跡ですが、周囲には曲輪などが一部残っています。

筒井順慶の死後、豊臣秀吉の弟・豊臣秀長が領主として郡山城に入城して城下町を発展させ、江戸時代には松平氏・本多氏・柳沢氏が居城して城下町の整備を進めました。現在も、石垣や堀の多くは往時の姿を留めています。

復元された筒井城の櫓

復元された追手門、追手向櫓、多聞櫓では、毎年2月に盆梅展が行われています。

歴史学的に重要な「環濠集落」が現存する街

大和郡山市には、周囲に濠をめぐらした環濠集落が点在し、中でも「稗田(ひえだ)環濠集落」はその代表例として有名です。

稗田(ひえだ)環濠集落

自衛のために濠と土塁を設けたのが起源とされ、江戸時代以降、濠は主に灌漑用の水路・貯水池として使われていたようです。

売太(めた)神社

稗田環濠集落の中にあるのが、売太(めた)神社。古事記編纂に携わった稗田阿礼(ひえだのあれ)を主祭神として祀っています。

稗田阿礼は天武天皇の舎人として仕えていた人で、記憶力が優れ、元明天皇の時代に誦習したものを太安万侶が書き記して編纂し、古事記を完成させました。大和郡山市では稗田阿礼にちなみ、記憶力大会(記憶力日本選手権大会)が行われています。

環濠集落の中にある酒蔵「中谷酒造」

中谷酒造の外観

環濠集落のひとつ、「番条(ばんじょう)環濠集落」の中にあるのが、中谷酒造。創業は1853年で、代表銘柄は「萬穣(ばんじょう)」と「奈良吟(ならぎん)」です。

1995年には、中国に関連会社の天津中谷酒造有限公司を設立して清酒醸造を行い、そこで造られた「朝香(あさか)」は中国における日本酒市場でトップシェアを占めているとのこと。

中谷酒造 六代目当主の中谷正人さん

奇数月の第一土曜日には予約制で酒蔵見学会を開催し、番条の歴史や醸造工程などの講話、酒蔵見学、試飲販売の三部構成で、六代目当主の中谷正人さん自らが行っています。

中谷酒造の蔵内部

積み重ねてきた詳細なデータを利用し、ブレのない酒造りを行っています。

中谷酒造の「萬穣 三日踊(みっかおどり)」

2015年に発売されたのが、「萬穣 三日踊(みっかおどり)」。

三段仕込みの「添」と「仲」の間の「踊」に着目し、通常は何も手掛けない日である「踊」を1日間だけ設けるところを、2~3日間に増やすことで、当主曰く「力強い発酵で、酵母の力を存分に発揮した酒」に仕上がるそうです。

この旅の「御酒飲」では、メロンのような香りを感じる「萬穣 三日踊 特別純米 無濾過生原酒」(写真左端)と、甘酸っぱい味の奥に米の旨みが感じられた「萬穣 三日踊 純米吟醸 山乃かみ酵母」(写真中央)をいただきました。

「山乃かみ酵母」は、日本最古の神社で酒の神が鎮まるとされる大神(おおみわ)神社(奈良県桜井市)の境内に咲くササユリの花から分離・抽出された酵母だそうです。

古代から続く歴史ある街を散策した後、趣ある蔵で"御酒飲"やお土産を購入してみてはいかがでしょうか。

(文/天田知之)

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