世界最大規模のワインコンペティションである「IWC(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)」に、SAKE部門が誕生したのは2007年のこと。世界中のワイン関係者からの注目度も高く、日本酒が海外進出する際には大きな影響力を持つコンペティションです。
そのSAKE部門の最高賞「チャンピオン・サケ」に選出された「勝山 純米吟醸 献」(仙台伊澤家勝山酒造/宮城)をはじめ、各カテゴリーの上位入賞酒に与えられる「トロフィー」受賞酒や、優れたコストパフォーマンスを発揮した銘柄に与えられる「グレートバリュー・チャンピオンサケ」受賞酒がそろう試飲イベント「IWC2019受賞プレミアム日本酒試飲会」が、YUITO日本橋室町野村ビルのホールにて10月19日(土)に開催されました。
日本橋で極上の日本酒を楽しむ
今年で9回目を迎える「IWC2019受賞プレミアム日本酒試飲会」の主催は、YUITO日本橋室町野村ビルの運営を担当する野村不動産。不動産業が主な事業である野村不動産が日本酒イベントを始めたのは、どのような理由からなのでしょうか。
野村不動産 都市開発事業本部の神谷聡さんに、お話を伺いました。
「YUITO日本橋室町野村ビルは2010年に開業しました。翌年、オープン1周年のイベントを開催しようという話が持ち上がったタイミングで、IWCと出会ったのがきっかけです」
YUITOのコンセプトは、"上質な大人の空間"。大人が楽しめて日本橋という土地柄にも合うイベントとして「IWC受賞プレミアム日本酒試飲会」はぴったりだと話がまとまり、企画が立ち上がりました。これまで9年間続けてこられたのは、「なによりお客様に楽しんでいただけているから」だと神谷さんは話します。
「『IWC受賞プレミアム日本酒試飲会』を通じて、多くの方にYUITOのことを知っていただけました。ビル内にあるレストランにも足を運んでもらえるようになり、イベントを通じて新しいお客様と知り合うこともあります。お客様が笑顔で楽しんでいる姿を見るのは、本当に嬉しいですね」
IWCは日本酒と海外の架け橋
「IWC2019受賞プレミアム日本酒試飲会」では、トークセッションも行われました。
パネリストは、酒サムライコーディネーターの平出淑恵さんと仙台伊澤家勝山酒造の伊澤平蔵さんのおふたり。進行はSAKETIMES編集長の小池潤です。
仙台伊澤家勝山酒造の「勝山 純米吟醸 献」は、IWC2019で「チャンピオン・サケ」に輝いた銘柄です。
「以前から、食事と合わせるための酒として造っています。この米のうまみが、世界の舞台で認められたことがうれしいです」と、伊澤さんは語ります。
「『勝山』は、まさにチャンピオンにふさわしい酒」と話すのは平出さん。「チャンピオン・サケ」の影響力は大きなもので、IWCが開催地であるロンドンから世界中のマーケットへ発信されます。
平出さんは、「IWCのディレクターは、毎年『チャンピオン・サケ』を受賞した蔵へ出向くのですが、伊澤さんは最初から最後まで英語で対応してくれて、とても心強かったですね」と続けます。日本酒の手本となる酒であり、英語でのプレゼンテーション能力が高いことも評価していました。
それでも、「海外の方々に日本酒を伝えるのは難しい」と語る伊澤さん。
「海外の方にはワインの文脈に乗せた方が伝わりやすいのですが、そこまでのコミュニケーション能力はまだありませんし、ワインの勉強もさらに必要だと感じています。日本酒が彼らの生活に入っていくために、IWCのバックアップはとても心強く感じています」
日本酒が海外で受け入れられるには、まだ時間がかかると考えているようです。
「世界に日本酒を広めるためには、市場をひとつひとつ作っていかなければならない」という平出さんは、「umami(うまみ)」という日本語が海外で定着したように、海外にある和食店が日本酒の市場拡大のための大きな足掛かりになると話します。
また、伊澤さんは「フードペアリングの考え方は、和食だけでなく洋食にも使えます。ワインとの違いを伝え、日本酒にしかできないペアリングを提案したいですね」と、これからの展開も話してくれました。
日本酒は、日本では歴史が長く、馴染みのあるものですが、世界から見たら新しい分野。日本酒を海外に広めていくためには、まだまだできることは多いようです。そのなかで、ワインのトレンドを生む人たちが関わるIWCは、とても重要なポジションにあると感じました。
IWC上位入賞蔵の喜びの声
イベントの後半は、IWC上位入賞酒の試飲会です。会場は、初めて参加したという方から、毎年この会を楽しみにしているという方まで、大勢の人で賑わっていました。
それでは、上位に入賞した蔵元や蔵人の声をお伝えします。
「宮の雪 山廃仕込 特別純米酒」(宮﨑本店/三重県)
通称「キンミヤ」の愛称で親しまれる亀甲宮焼酎を醸してる宮﨑本店。「関東に来ると、日本酒を造っているんですか?ってよく聞かれるんですよ」と笑いながら話しますが、2018年のIWCでは大吟醸部門でトロフィーを獲得している実力蔵です。山廃で仕込まれた純米酒はまろやかな口当たりとふくよかさがあり、きれいな酸が印象的です。
「日本酒で受賞できたのはとても自信につながります」と話してくれました。
「釜屋 特別本醸造 古酒」(釜屋/埼玉県)
古酒部門でトロフィーを受賞した「釜屋 特別本醸造 古酒」は、高めの酸ですっきりしつつ、コクも十分に感じられ、まとまりのある味わいです。
「実は、ねらって造ったわけではないんです。25年間タンクで眠っていて、あらためてテイスティングをしてみたらとても美味しかったので販売することになりました」
当時の酒造りに携わった蔵人は残っていませんが、25年の時を経てIWCという大舞台でトロフィーを受賞するとは、とてもドラマチックなエピソードだと感じました。
「初孫 冬のカノン 吟醸酒」(東北銘醸/山形県)
昨年は本醸造部門、今年は吟醸酒部門で2年連続受賞した喜びを語る東北銘醸。
「うちの生酛造りを評価してもらえたことが自信につながりました。今後も、さらに生酛造りを追求したいですね」と、今後の意欲を見せてくれました。
「菊正宗 しぼりたて ギンパック」(菊正宗酒造/兵庫県)
普通酒部門と「グレートバリュー・チャンピオンサケ」のW受賞となった「菊正宗 しぼりたて ギンパック」。IWCでパック酒が上位に入賞することは快挙です。
「パック酒でも、米のうまみを残す造りを理解してもらえたんだと思います。安い酒は悪酔いするというイメージを持っている人がまだ多いなか、安くておいしい酒があることを証明できたのではないでしょうか。ご自宅でもぜひ味わってほしいですね」
「秀よし 純米大吟醸」(鈴木酒造店/秋田県)
純米大吟醸部門でトロフィーを受賞した「秀よし」。スッキリした香りと切れ味は、秋田の名産品である地鶏やハタハタと抜群の組み合わせです。
「地元料理との相性を一番に考えて酒造りをしています。この受賞によって、郷土料理も評価してもらえたような気がして、とてもうれしいです」
「紀土 純米大吟醸 Sparkling」(平和酒造/和歌山県)
「紀土」は、意外にも今回が初のトロフィー受賞。瓶内二次発酵から生まれる繊細で細やかな泡は口の中で心地よく弾け、爽やかな香りとドライな後味は、乾杯に最適なスパークリング日本酒です。
「今までは一歩及ばずというところでした。やっとトロフィーをいただけて、本当にうれしいです」と、受賞を素直に喜んでいる様子が伺えました。
「勝山 純米吟醸 献」(仙台伊澤家勝山酒造/宮城県)
「チャンピオン・サケ」受賞酒ということで、一際賑わっていたブースが仙台伊澤家勝山酒造です。
「多くの方に興味を持ってもらえました。飲み手の方から『おいしい!』という声を実際に聞けたことがありがたいですね」と、伊澤さん。
「IWC2019受賞プレミアム日本酒試飲会」を終えて、主催した野村不動産の神谷さんは、「このイベントを通して、YUITOのある日本橋のことを知ってもらい、日本酒と日本橋がともに発展していけたらうれしいですね」と話してくれました。
IWCの上位入賞酒を一度に味わえる、貴重なイベント。日本酒ファンとして、これからも続くことを願っています。
(文/まゆみ)