みなさんは「月桂冠」という酒蔵をご存知でしょうか?

月桂冠は、業界TOP3の一角を占める日本有数の酒造メーカー、年間27万石を製造しています。しかし「知ってはいるが、飲んだことはない」という方もいらっしゃるかもしれません。

にわかに日本酒ブームと言われる昨今において、大手メーカーは“大量生産をしてきた”存在であり、その“品質”には注目されない傾向があるように感じます。しかし実際は、品質へのこだわりは理念、人、技術、設備のレベルで徹底されており、その裏にあるのは“消費者に喜んでもらいたい”という真摯な想いに他なりません。

大手である月桂冠が、日本酒に注目が集まる今、何を考え、どこを目指し、どんな日本酒を造っているか、気になりませんか? SAKETIMESでは、月桂冠の実績と功績、そして未来を追いながら、そのブランドを形作っている造り手たちの姿を特別連載でお伝えしてきます。

連載の第一回は、"技術研究"に重点をおいた結果、商品・醸造システム・海外展開において革新を起こしてきた月桂冠の歴史を振り返ります。

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“科学的アプローチ”で画期的な商品を次々開発

月桂冠が創業したのは1637年(寛永14年)、初代・大倉治右衛門が宿場町としてにぎわっていた京都伏見で酒造りを始めました。古くから酒造が盛んで、様々な歴史が詰まった伏見は、現在でも多くの酒蔵が立ち並び、月桂冠のシンボル・月桂冠大倉記念館のごく近くには、坂本龍馬襲撃事件として有名な寺田屋の史跡も存在します。

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月桂冠大倉記念館に隣接する内蔵酒造場

月桂冠が大きく進歩したのは11代当主大倉恒吉の時代でした。1886年(明治19年)にわずか13歳で当主となった大倉恒吉は、母親の教育方針により幼いころから酒造りの現場で経験を積みます。蔵人らと寝食を共にし、製造や販売に携わり、実地作業の中では酒の腐造などの苦労も重ねたそうです。その経験から芽生えた問題意識が、その後の事業の創造革新につながります。

調査のために蔵を訪れた大蔵省醸造試験所の技官とふれあう中で、醸造技術改良の必要性を痛感した恒吉は「酒造りは科学により成り立っている」という結論にいたり、1909年(明治42年)に「大倉酒造研究所(現・月桂冠総合研究所)」を創設、酒造りに科学的技術を導入するのです。

初代技師には、東京帝国大学卒の濱崎秀を採用。専門技師を雇用し研究所を設けることは、もちろん清酒メーカーで初めての例。日本酒業界に科学が導入される第一歩を築きます。

gekkeikan_story001_0311代当主・大倉恒吉

当時の日本酒は樽詰めが主流。しかし樽詰めには、洗浄がしにくく、酒を腐らせる火落ち菌などを充分に殺菌できなかったという難点がありました。そこで月桂冠は、いち早く壜(びん)詰め酒の商品化に力を入れます。結果として、11代当主の時代で酒の生産量は500石から50,000石まで100倍にも拡大。酒造メーカーとして確固たる地位を築きました。

また、明治時代初期ごろの日本酒には、酒の腐造を防ぐために防腐剤のサリチル酸が使われており、人体への影響が懸念されていました。そんな中、月桂冠は日本で初めて「防腐剤なしの清酒」の開発に成功。1911年(明治44年)に発売したその商品は、サラリーマン層を中心に好評を博したといいます。これも月桂冠の研究の成果のひとつです。

gekkeikan_story001_04 現在の月桂冠総合研究所

その後も、月桂冠は確かな技術に基づいた画期的な商品を次々と生み出しています。

1910年(明治43年)には「コップ付き小びん」を駅売りの酒として発売しました。鉄道の長時間移動でも日本酒が楽しめるようにコップがついていて、さらに汽車で揺れてもこぼれないように猪口がスイングする置台も備わっているという画期的なパッケージの商品です。これは飲みやすさ・持ち運びやすさから人気を博し、鉄道網の広がりと共に全国に広まっていきました。

その容器を復刻した「レトロボトル吟醸酒」は、月桂冠大倉記念館の限定商品として発売されています。

gekkeikan_story001_05 駅売りのコップ付き小びんを復刻した「月桂冠レトロボトル吟醸酒」

さらに、パック商品や小型容器など、時代のニーズにあった様々なパッケージ商品を次々と生み出していった月桂冠。こういった活動の裏には、消費シーンを考え、新商品開発という形でニーズに応えるという“企業姿勢”が垣間見えます。

1984年(昭和59年)には、常温でも流通可能な生酒を日本で初めて商品化。生酒は火入れを行っていない日本酒で非常にデリケート。酒質が変化しやすく、当時は常温での流通は考えられませんでした。しかしながら「お客様が求めるならば」と常温流通可能な生酒の開発を推し進め、製品化を成功させたのです。

gekkeikan_story001_06常温流通可能な商品「生酒」

近年では、初となる “糖質ゼロの日本酒”を発売しました。ビールやチューハイの “糖質ゼロ”商品が流行る中、お米が原料である日本酒を糖質ゼロにすることは困難を極めていました。しかし、月桂冠は長年研究を重ね、ついに2008年(平成20年)に“糖質ゼロ”を完成させたのです。

お客様が求めるものを、高品質な商品として提供する
この精神を貫いてきた月桂冠の歴史は、“科学”を味方にしたあくなき商品改革とともにあるのです。

日本酒業界で初となる「四季醸造システム」を確立

月桂冠の技術革新は、商品だけでなく日本酒の“醸造システム”そのものにも及びます。

月桂冠は戦後1961年(昭和36年)、最先端技術を駆使しすることで、1年中日本酒造りを可能にする「四季醸造システム」を商業ベースで初めて確立させたのです。この技術開発は、江戸時代から続いていた寒造り体制(冬に仕込みをする体制)や出稼ぎ体制に大きな変化をもたらすこととなりました。

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大手一号蔵。日本で初めての四季醸造システムを備えた酒蔵である

海外における現地法人・現地醸造へのチャレンジ

月桂冠は、いち早くアメリカでの日本酒造りにも着手しています。1989年にアメリカ・カリフォルニア州にて米国月桂冠株式会社を設立し、四季醸造システムなどの新規技術をアメリカでの酒造りへ移転することに成功しました。日本酒を輸出するには関税や商品の管理など、様々な課題がつきまといますが、月桂冠は“現地で造る”という形でそれを解決したのです。その結果、国外有数のSAKE消費地のアメリカの市場へ新鮮な酒を供給できるようになりました。

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米国月桂冠はカリフォルニア州サクラメントにありますが、その水質は超軟水。伏見の水も軟水と言われていますが、それを上回る柔らかさなのだそう。さらに、酒米にはカリフォルニア州発祥のカルローズという米を使っています。これは日本の米と同じジャポニカ系で、酒米の王様・山田錦の親にあたる渡船(わたりぶね)とアメリカの米が掛け合わされた、穀粒の長さが日本米よりも少し長めの品種です。つまり、技術と設備はあっても、これまでとは違う原料での酒造りを一から始めなければならなかったのです。1637年に創業した月桂冠は、1989年から新たな挑戦をすることになったのです。

現在の米国月桂冠の生産量はなんと3万石を超えています。日本国内にて3万石以上の日本酒を造る酒蔵は、数えるほどしかありませんから、その展開の大きさがよくわかります。さらに、アメリカだけでなく日本からの輸出をあわせると世界40カ国以上に商品を流通させているんです。

このような挑戦を繰り返しながら大きく成長してきた月桂冠。商品開発、醸造システムへの革新、海外進出といった力強い動きの背景には、月桂冠のDNAに刻まれているとも言える、3つの基本理念が存在していました。

月桂冠が掲げる3つの基本理念

ものづくりへの改革、企業としての成長という両者への挑戦を続ける月桂冠。その本質に流れている基本理念は、「Quality・Creativity・Humanity」です。

“Creativity”とは、四季醸造の確立や生酒常温流通の実現など、常に時代のニーズに合わせて創造し革新し続けること。 “Humanity”とは、月桂冠を創る社員の知識や能力を向上し、充実した人生を送れるように助けることです。

そして、月桂冠が酒造りにおいて常に念頭に置いているのが “Quality”です。月桂冠の考える“Qualtiy”とは、ただの高品質ではなく、”世界最高品質”を目指すこと。それは「品質がよいもの=高価格・高級品」ではなく、「品質が良いうえに手に取りやすい競争力のある価格であること」と捉えているそうです。

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14代当主の大倉治彦社長は、この “Quality”について、社内誌や社内でのスピーチの機会に日頃からメッセ−ジを伝えています。

“創業以来、常に追求し続けている「品質第一」は絶対に外せない理念。それは高級品から普及品まで、月桂冠の製品としての絶対条件である。そしてその品質とは、造り手の独りよがりにならないよう、「常に消費者の満足を獲得できる」「競争力のある価格で提供できる」という目標を盛り込んでいる"

研究を重ね、「高品質ながら手に取りやすい価格」を両立させることで月桂冠の目指すQualityは実現します。月桂冠は、この理念に基づき世界最高品質を目指して日々ものづくりに励んでいるのです。

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“高品質”を目指すことは、モノづくりにおいては当然のことかもしれません。しかし、"世界最高品質"となるとどうでしょう。品質を追うがゆえに価格が高騰し、結果として一般には手の届かないものになってしまっては、月桂冠の掲げる世界最高品質とは呼べません。

品質と価格の両面を追うということは、つまり“常に消費者のことを考えている”いうことに他ならないと感じます。

造り手のエゴを押しつけるのではなく、「お客様の期待に応えていく」という企業姿勢が月桂冠にはあります。そして、その哲学は、月桂冠の社員ひとりひとりに深く刻み込まれています。

次回の連載記事では、月桂冠という大きな看板を支えている造り手たちにインタビューを行い、プロフェッショナルとしての仕事やその想いにフォーカスしていきます。

(取材・文/石根ゆりえ)

sponsored by 月桂冠株式会社

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