成長を続ける日本酒の輸出額のうち、全体の約61%を占めるアジア。その中心ともいえる香港で、2022年から開催されている日本酒コンクールが「Oriental Sake Awards(OSA)」です。
アジアの10地域から集まった約40名の専門家が、香りや味わいのスタイル別に審査するという形式は、品質の高いお酒を評価するだけでなく、アジアの消費者の嗜好を可視化する役割も果たしています。
3日間の審査期間で延べ2万本以上のテイスティンググラスを使用するなど、公平な審査に並々ならぬ情熱を捧げる「OSA」。その主宰者であるミッキー・チャンさんに、設立の経緯や想い、そしてアジアのコンテストならではの特徴について、話を聞きました。
出品準備も冷蔵庫内で—徹底した温度管理
海外の日本酒市場の拡大に伴い、世界のさまざまな国や地域で、日本酒の品質を評価するコンテストが次々と誕生しています。香港で2022年に誕生した「Oriental Sake Awards」は、酒サムライでもあるワイン・日本酒エデュケーターのミッキー・チャンさんが、日本酒にとっての香港市場の重要性を伝えるために立ち上げました。

ミッキー・チャンさん(画像提供:Oriental Sake Awards)
「香港は、日本酒の輸出先として長年トップ3に入っているだけでなく、中国本土や東南アジアへの再輸出拠点としても機能しています。私自身もまた、欧米の酒類審査会に長く参加してきた経験から、『アジアの消費者がどんな日本酒を好むのか、アジアの感性や言葉で発信できる場が必要だ』と考えるようになっていました」
ミッキーさんが「15年間の審査経験から得た気付きの集大成」と語る「OSA」では、出品酒の品質管理と公平な審査を、特に重要視しています。
出品されたお酒を冷蔵で輸送・保管するのはもちろんのこと、出品番号の割り振りやラベル貼りといったブラインドテイスティングの準備もすべて、5℃の冷蔵環境で行われます。

画像提供:Oriental Sake Awards
出品酒と酒蔵名を紐づけたリストは、外部団体に管理を委託し、主宰者のミッキーさんも審査が終わるまでは目にすることができません。精米歩合が25%未満の出品酒は具体的な数値を伏せたり、使用米を非公開にしたりと、酒蔵や銘柄を推測できてしまうケースを防ぐ工夫を徹底しています。
「すべての出品酒は品質だけで正当に評価される権利があります。ブラインドテイスティングという審査方法でも、発生しうる疑いの余地を徹底的に排除することが、私たちの責任です」
特定の酒蔵や銘柄に詳しい審査員であっても、グラスの中のお酒と先入観なく向き合える環境をつくる。妥協のない姿勢が、「OSA」の公平な審査を支えています。
2万本のグラスを準備!審査に集中できる環境づくり
他の酒類コンテストでは、審査用のグラスを使い回すことがありますが、「OSA」では、審査員ひとりひとりに、出品酒1点に対して1つのグラスを用意。各日7ターン、合計3日間の審査を通して、延べ2万本以上のグラスを使用することになります。
「ワインの場合は、異なる出品酒を同じグラスで飲み比べても比較的、影響が少ないんです。品質の違いがはっきりしているので、1つのグラスで5〜6種類を審査しても問題ありません。
しかし、日本酒はグラスを使い回すと、直前のお酒の香りが次のお酒の評価に影響してしまいます。審査員には、グラスを水ですすぐようなことはせず、審査することだけに集中してもらいたい。グラスの準備や洗浄は、すべて運営側の仕事です」

画像提供:Oriental Sake Awards
審査に使用するのは、ワイングラスの名門ブランド・リーデルのシャルドネグラス。リーデルは日本酒専用のグラスもつくっていますが、ワインにも深い知識をもつミッキーさんいわく、「口が広く、香りが素早く開くシャルドネグラスが、短時間で判断が求められる審査の場にもっとも向いている」のだそうです。
審査会場の室温は18℃に保たれ、5℃の冷蔵庫から取り出すタイミングは、審査の30〜60分前と細かく決められています。審査はすべて着席した状態で行われ、審査会場の外にはセルフサービスのドリンクや軽食が用意されています。
「審査員には、リラックスした状態で正しい判断をしてもらいたい」とミッキーさん。審査員が最良のパフォーマンスを発揮できる環境づくりもまた、「OSA」の品質管理の一部なのです。
消費者視点の「スタイル」別の審査
「OSA」の審査は、「大吟醸酒」「純米酒」「本醸造酒」といった特定名称の区分ではなく、製法とスタイルを掛け合わせた11部門に分かれています。たとえば、吟醸系は大吟醸・吟醸・純米大吟醸・純米吟醸をひとまとめにしたうえで、「ライト&クリーン」「ライト&アロマティック」「リッチ&アロマティック」という3つのスタイルに分けて評価します。
「スタイル別にカテゴリーを分けたのは、私たちが世界で最初だと思っています。香港のお店には、純米大吟醸酒が何十本も並んでいますが、それぞれがどんな味わいか、ラベルからはわかりません。
『OSA』のカテゴリーが消費者にも定着すれば、期待した味と実際の味が合わないというミスマッチが減り、満足した人がまたお酒を買う循環ができる。それが業界全体にとってプラスになると思っています」

画像提供:Oriental Sake Awards
ただ、運営当初は想定外の課題も生まれました。立ち上げから2年間、ミッキーさんは複数の審査員から「品質は高いけれど、そのカテゴリーのスタイルに合っていない出品酒が出てきた時、どう評価すべきなのか」という相談を受けました。
そこで生まれたのが、品質の評価とは別に、カテゴリーへの適合度を評価する「タイピシティスコア」という採点方法です。このスコアは4点満点で評価され、審査テーブルごとの平均が2.8点を下回ると、総合点がどんなに高くても入賞することはできません。
「品質が高いかどうかと、そのカテゴリーらしいかどうかは、本来は別の話です。本醸造酒の部門で大吟醸酒のような華やかな香りの出品酒が出てきた場合、他の採点が高くても、この基準で弾かれることになります。タイピシティスコアで適合度を独立して評価することで、審査員はお酒の品質に純粋に向き合えるようになりました」
審査を通して、アジアの「味覚」を知る
「OSA」の審査は、日本・韓国・香港・マカオ・中国・台湾・シンガポール・マレーシア・ベトナム・オーストラリアの10地域から集まった約40名の専門家が行います。欧米のコンテストに比べ、アジア市場の嗜好で評価されることが特徴です。
ワインと日本酒の審査に長く携わってきたミッキーさんは、アジアと欧米の味覚の違いを次のように考えています。
「香港人がよく言うジョークに、『良いデザートとは、甘くないデザートだ』というものがあります。ワインの文化圏では、バランスとは、突出した甘味と突出した酸味が両立するようなイメージ。一方、アジアの人々が評価するのは、甘味や酸味、旨味といった要素が、それぞれ主張しすぎず、ひとつの構造として感じ取れる状態です」

画像提供:Oriental Sake Awards
また、アジアはフレッシュで繊細な酒質への評価が高く、ワインの世界では「まだ完成していない」と受け取られることもあるガス感が魅力として評価されることも多いといいます。
「『OSA』の審査結果を見れば、アジアの消費者がどんなお酒をおいしいと感じているかが、自然と浮かび上がってくる。参加する酒蔵のみなさんにとって、それ自体がひとつの市場調査になると思っています」
成熟する香港の日本酒市場
日本酒の輸出額に占めるアジア市場の比率は約61%。金額にすると、年間では約270億円規模になります。輸出先のトップ5のうち、中国・香港・韓国・台湾の4つがアジアですが、そのなかでも香港は、アジア全体へのハブとしての条件を備えています。
「香港はお酒の輸入に免許が不要で、関税もかかりません。日本からの出荷価格に対して現地の販売価格が1.3〜1.8倍程度に収まるので、海外市場のなかでは、日本にもっとも近い価格で日本酒を買うことができます。だから香港には多くのインポーターがいて、流通している銘柄数は500〜600程度にもなります。
各インポーターが自社の取扱銘柄を個別にプロモーションするのではなく、同じスタイルのお酒を扱う会社同士がいっしょにイベントをやれば、消費者にとってわかりやすいですよね。『OSA』をきっかけに、そうした横のつながりが生まれることも期待しています」

香港は所得水準が高く、高価なお酒が自然に食卓に並ぶ文化があります。「たとえば、1回のディナーで『十四代』を12本開けるという光景が、香港では普通に見られました」と話すミッキーさんですが、最近は香港市場も少しずつ変化してきていると説明します。
「以前は有名銘柄のフルーティーな純米大吟醸酒が圧倒的な人気を誇っていましたが、最近は山廃や木桶仕込み、古酒、貴醸酒など、好みが多様化し、日本酒の資格を取得して品質やスタイルを語り合うコミュニティも生まれています。有名ブランドを飲むことから、日本酒そのものを深く知ることへ、嗜好がシフトしてきています」
成熟してきた香港市場では、お酒の品質管理に対する意識も高く、デパートや大手小売店でも、日本酒を冷蔵で販売することが定着してきています。
「消費者が良い状態のお酒を手に取れる環境が整っているからこそ、日本酒の本来の味わいが伝わり、ファンが増えていく。『OSA』は賞を与えるだけの場ではなく、関わるすべての人が学び成長していく場だと思っています。運営チームは毎年改善を重ね、審査員は国際的な評価基準を学び、各国の専門家が最新のトレンドを自国へ持ち帰っていく。酒販店や飲食店のオーナー、レストラン、エデュケーターも含めた学びの積み重ねが、香港だけでなく、アジア全体の成長につながっていくはずです」
アジア市場への入り口となる「OSA」
「日本酒の海外輸出は、酒蔵の今後にとって重要な投資のひとつとなります。アジア市場で名前を知ってもらうことの意味は大きい。『OSA』への出品が、その第一歩になると信じています」と語るミッキーさん。
『OSA』は、めざましく成長する香港市場のなかで、消費者への認知の拡大と業界への教育という、ひとつのコンテスト以上の役割を果たしています。
(取材・文:Saki Kimura/編集:SAKETIMES)
◎「Oriental Sake Awards 2026」応募概要
- コンテスト名:Oriental Sake Awards 2026
- エントリー期間:2026年4月3日(金)〜 6月5日(金)
- 出品酒サンプル提出期間:2026年6月23日(火)〜 25日(木)
- 審査:2026年8月18日(火)〜 20日(木)
- 受賞酒発表:2026年9月9日(水)
- 表彰式・Sake of the Year発表:2026年10月29日(木)
- 参加費:
- 方法①(日本国内指定倉庫への発送):1エントリーあたり 2,200香港ドル(参加費・送料込み)
- 方法②(香港指定倉庫への直接発送):1エントリーあたり 1,500香港ドル(参加費のみ/送料は参加者負担)
- 提出サンプル数:
- 720ml/750ml:4本
- 500ml:6本
- 300ml〜375ml:8本(スパークリング日本酒カテゴリーのみ)
- 申し込み方法:公式サイトにて申し込み
sponsored by Oriental Sake Awards


