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人と風土が育てた兵庫県産山田錦の魅力とは!?「山田錦セミナー2017 in TOKYO」レポート

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日本酒を造るために用いられる"酒米"のなかでもっとも有名なのは「山田錦」でしょう。

山田錦誕生の地・兵庫県では、最高品質の山田錦をつくるために日々研究が行われています。兵庫県産山田錦は、その酒造適性の高さや優れた味わいで、生産者や愛飲家の心を掴んで離しません。

2017年7月初旬、ソムリエやシェフ、メディア関係者、輸出業者など、日本酒の普及に努める業界関係者向けに「山田錦セミナー2017 in TOKYO」(主催・兵庫県酒米振興会)が開催されました。兵庫県が進める、山田錦の品質保持・向上の取り組みに関する講演の様子をレポートします。

栽培試験を続けて30年!"山田錦の守り人"が語る、これまでの歩み

今回のセミナーでは、昭和61年から兵庫県の酒米試験地で山田錦の研究をしている池上勝さん(兵庫県立農林水産技術総合センター 農産園芸部 研究主幹)が講師を務めました。

兵庫県の酒米生産量

「兵庫県の酒米生産量はシェア日本一(26%)です。もっとも作付が多いのは山田錦ですが、それ以外の酒米も生産しています。

兵庫県南東部、神戸市の北側にあたる地域では、山田錦。但馬・丹波など北部地域では、五百万石や兵庫北錦。姫路城のある西側の地域では、兵庫夢錦。そのほか、白鶴錦やフクノハナなどの品種も栽培しています。

兵庫県産山田錦の需給動向について、育成が始まった昭和11年からの作付面積と検査数量を見てみると、昭和60年代には2,000haほどまで面積が減っていた時期もありました。

その後、吟醸酒ブームによって生産量は急増しましたが、バブルの崩壊による日本酒需要の激減により、再び苦しい時期を迎えます。しかしながら現在は、作付面積が5,000haを越えるほどにまで回復し、元気を取り戻しました」

山田錦の種を守り続ける活動

「山田錦を支えているのは、純粋な種子生産。酒米農家の方々に配布されるのは、審査に合格した合格種子というもので、それらは『採種ほ』という場所でつくられます。採種ほで栽培する種を『原種』、原種の種を『原々種』、さらに原々種の種を『育種家種子』と呼んでいます。

種子生産にはいくつかの段階があり、度重なる審査に合格した種子のみが農家の手に渡っていきます。これは山田錦に限りません。たとえば、コシヒカリなどの代表的な品種についても、原々種、原種、採種という審査を通る流れになっています。

稲を自然に育てると、突然変異が起こることもあります。そうしたリスクを分散するために、複数の系統で兄弟をつくり、種を維持しているのです。

山田錦の種は現在14系統、つまり14兄弟で維持しています。14兄弟と言っても、基本的にはまったく同じもの。それぞれの系統から選ばれた種を選択・混合したものを原種とし、次の代にあたる原々種も、それぞれの系統から選抜。親世代の良し悪しが大きく出ると、品種自体が変わってしまうので、なるべく平均的なものを選ぶようにしています」

山田錦の生育特徴

「兵庫県の山田錦は6月上旬に田植えが行われ、7月20日ごろに、茎の数がもっとも多くなる『最高分げつ期』を迎えます。その後、8月末に出穂。10月上旬に成熟期を迎えます。

稈長(かんちょう・茎の長さ)は105cm。この上に穂が実っていきます。全体で125cmくらいになるので、非常に背の高い品種といえるでしょうね。

背が高い点は雄町と似ているものの、山田錦は雄町と比べて茎数が多いのが特徴。また、穂の籾数が少なく、藁が柔らかい。雄町も比較的柔らかいですが、山田錦の方がより柔らかいです」

優れた酒造適性の秘密

「山田錦の素晴らしさは、心白の発現。大きすぎず、かつ断面の形が線状に細い。おかげで、高精米にも耐えることができ、突き破精の麹ができやすくなります。

心白が大きいと発酵が進みすぎることもありますが、山田錦の心白はちょうどよい大きさ。胚乳の中心部には非常に細長い胚乳細胞があり、それが線状心白をもたらしているのかもしれません。心白の遺伝様式については、わからない部分が多いので、研究課題のひとつですね。

また、デンプンの特性も優れています。デンプンを大きく分けると2種類。アミロペクチンとアミロースがあります。アミロペクチンは枝状に分かれた構造で、山田錦はその枝分かれ(側鎖)が特に短いため、消化が良い。さらに、アミロースの含有量が高いことから粘り気が少なく、さばけの良い麹を造るのにも適しているんですね。

デンプンの特性は、登熟期(籾殻のなかで米粒が成長する時期)の気温で決まると言われています。山田錦はゆっくりと発育する晩生種。登熟期の気温が低い点が、これらの品種特性に結びついているのではないでしょうか」

温暖化の影響とその対策

「長年研究していると、粒が小さくなったり心白が大きくなったりと、山田錦が昔と比べて変わってきたと感じることがあります。

そこで、平成9年以前の10年間と平成10年以降の10年間で、平均気温を比べてみました。

すると、前者に比べて後者は、移植期~出穂期で0.4℃、出穂期~成熟期で2.1℃も気温が上昇していたんです。その影響もあってか、出穂期が2日、刈り取りの時期が7日ほど早くなっていたというデータもありました。

このような、温暖化による高温を避けるため、酒米農家の方々は田植えの時期をできるだけ遅らせる策を講じます。それに伴い、『田植えはいつするべきなのか?』という疑問に対する答えを、科学的な根拠をもって示す必要があると考えました。『山田錦最適作期決定システム』という仕組みや『山田錦移植日マップ』を作成し、Web上に無料で公開しています。

温暖化によって蒸米の消化が悪くなることも大きな問題でしょう。今では、高温登熟条件でも消化性が落ちない種類の遺伝資源が見つかっています。たとえば『旱不知(ひでりしらず)』や『秋田酒44号』などですね。こうした酒米の遺伝資源も活用していきたいです。

山田錦を育む土壌や気候について

「昔から『酒米を買うなら、土地を見て買え』と言われてきました。神戸市の北側には、神戸層群、大阪層群という地層があります。この土壌はミネラルが非常に豊富な粘土質で、石や礫(れき)が出てきません。よって、稲の根を深くまで伸ばすことができるため、米づくりにはたいへん適した土地なんです。

また、県の南部は非常に温暖で、標高50~150mの山間地においては気温の日較差が大きいので、米が育ちやすい気候といえるでしょう」

山田錦についての議論が白熱!

「今後、蔵元が求める、品質の向上や低コスト生産の実現、酒米生産の後継者育成にも取り組んでいきたい」と話す池上さん。講演に続いて行われた質疑応答では、より専門的な意見が飛び交いました。

Q. 兵庫県では、山田錦の産地が格付けされていますよね。これは、いつごろから始まったのでしょうか?

A. 昔の人たちは米の収量を今よりも真剣に見ていたようです。土壌の質や気候の違いで経験的に格付けをしていました。

現存している資料からは、昭和13年につくられた番付表のようなものが見つかっています。明治時代やその前から、シビアに産地の評価をしていたのでしょう。

Q. ワインの世界で「テロワール」と呼ばれるものが、最終的な農作物に宿ると思っています。山田錦でも産地によって分析値は違うものでしょうか?

A.さまざまな条件が絡むので、答えにくい質問ですね。ただ、地域による差はあると思います。

千粒重(米1,000粒の重さ)や粒の張り具合などの品質は、土壌や気候の要素に影響を受けるので、同じ兵庫県内でも産地によって違いが見られますね。

しかしながら、酒米づくりは生産者の努力も大きく反映されます。あまり評価の高くなかった地区が、長年に渡って土壌改良に取り組んだことで、高レベルの産地と遜色ない品質の酒米を実らせることもありますよ。

Q. 山田錦にとって気温や土壌が大事ということはわかりました。水の重要性についてはいかがでしょうか?

A. 正直、水については調べきれていないのが現状ですね。

ただ、山や谷から流れてくる農業用水に含まれているミネラルが大事になることは間違いありません。最近はミネラルの割合が少なくなってきているようで、肥料などで補うこともあります。

Q. 「グレードアップ兵庫県産山田錦」にあるような地理的表示(GI)は他府県でも始まっています。兵庫県産と他府県産の山田錦では、一番の違いはどこにありますか?

A. 一番の違いは種。山田錦は昭和11年に兵庫県で誕生して以来、その特性を守るために、種子が県によって厳しく管理されてきました。他県でどういう原種、原々種が使われているかは確認できていません。

また、兵庫県南東部の非常に恵まれた土壌と気候、加えて80年におよぶ山田錦づくりの経験も大きな違いですね。

Q. 「海外で山田錦を育てたい」という声には、どう答えますか?

A. 兵庫県の立場からすると、困るところもありますね(笑)。全農や関係者に確認して対応する形になるのではないでしょうか。

兵庫県産山田錦を使用した最高級酒を味わう

講義を終えたあとは、兵庫県産山田錦を使用した最高級酒を味わう時間へ。
乾杯酒は、茨城・愛友酒造の大吟醸酒。「SAKE COMPETITION 2016」純米大吟醸の部で1位に輝いた愛友酒造が、JA全農兵庫ならびに兵庫県酒米振興会から贈呈された、副賞の兵庫県産山田錦25俵を使って醸造した、蔵の自信作です。
香り高く繊細な大吟醸酒から、深く伸びやかな米の旨味が引き出された山廃純米酒まで、計10点のラインアップ。お酒とともに、神戸ビーフをはじめとした兵庫県産の食材をふんだんに使った料理に舌鼓を打ちました。

 兵庫県産の野菜とウニのフラン神戸ビーフの炙り寿司 殻つきホタテのグラタン神戸ビーフ カタステーキ

優れた酒造適性を持ち、誕生から80年以上経った今なお、多くの日本酒ファンを虜にする酒米「山田錦」。30年間に渡って山田錦を研究し、その発展を支え続けてきた池上さんのお話から、その深い魅力を知ることができました。山田錦の歴史を紐解くことは、日本酒の歴史を知ることとも重なるでしょう。

兵庫県産山田錦を使用した10銘柄のテイスティングでは、同じ酒米からできているとは思えないほど、味わいにバリエーションがありました。丹念に育てられた山田錦を使って、各蔵が思い思いに醸したお酒には、奥深く洗練された味わいが生まれます。

生産者や消費者から愛される山田錦の底力を、いま一度感じることができました。

(文/綱嶋航平)

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綱嶋 航平

新潟生まれ、東京在住。IT企業で勤務する傍ら、休日は日本酒関連の各種イベントに顔を出したり、お気に入りのお店での晩酌を楽しんだりしています。夏でも冬でも燗酒党。美味しいお燗を飲んでは、ほくほく顔をして喜んでいます。今日も美味しいお酒と肴で一献を♪