2020年の東京オリンピックをひかえ、世界の注目が日本に集まってきています。
國酒である日本酒もそのひとつ。海外への輸出量は順調に増加しています。そんな中で、日本酒の普及に関わってきた有志が集まり、新たな活動「SAKE2020プロジェクト」が発足しました。
今回はそのメンバーが一堂に会するキックオフミーティングに参加してきました。まずは「SAKE2020プロジェクト」とは何なのか?という骨子をきちんと理解いただけるよう、登壇された方々の言葉を抜粋しながらその様子をお伝えします。
「日本酒は、おいしい。」を広げるために。2020年に向けて有志が動き出す
「SAKE2020プロジェクト」は、「日本酒を楽しむ」環境を整えるために、関係する人々を結びつける活動を行っていきます。メーカー・旅行会社・飲食店・酒販店など、地域や職種の壁を乗り越えて協力し、日本酒を盛り上げていくプロジェクトなのです。
具体的には、以下の取り組みを行っていきます。
■ネットワーキングセミナー
毎回テーマを設定し、主にメーカーや流通、飲食店などの視点からこれからの日本酒について考えていくセミナーイベントです。プロジェクトの委員を中心に、各界のプレーヤーにご参加いただくことにより人々を結びつけること=ネットワーキングを目的としています。
■「日本酒はおいしい」イベント
消費者向けの日本酒体験イベント。試飲だけで終わらない「素敵な体験」を提供し、日本酒の楽しみを広く深く、消費者のみなさまといっしょに探求していきます。
■翻訳プロジェクト
海外から日本にいらっしゃる方に、文化としての日本酒を楽しんでもらうためのアクション。2020年を見据えて、料飲店や酒販店でのスムースなコミュニケーションを目指して、メニューなどの翻訳作業を進めていきます。
併せて、もっと日本酒を知ってもらうためのコンテンツの制作も行います。
「人を繋ぎ」「場をつくり」「コンテンツを創る」ということですね。
プロジェクトロゴに込められた想い
文字の下にある画像は、酒の表面張力がモチーフになっています。
日本酒が杯に満ちるように、全国の人々の力によって満ちていく活動にしたい。その結果が、日本酒の夜明けにつながる、ということを表現しているそうです。
まずは日本、そして世界へ。国内への訴求も忘れない
インバウンド需要の高まりを見据えてのプロジェクトという印象も受けますが、代表である日本酒輸出協会会長の松崎晴雄氏は「日本酒を国際化させるプロジェクトという認識もあると思うが、まずは日本国内、私たちの足元にきちんと日本酒の魅力を伝えたいという気持ちがある。委員会という立場を作ってはいるが、そういった垣根を超えて日本、そして世界へ日本酒の魅力を広げていきたい」と語っていました。
日本酒の魅力を伝えるのは"酒そのもの”でもありますが、一方でそれを伝える人の知識や経験も重要です。
まずは日本酒を楽しむ環境が整ってきている日本国内にその魅力を伝えていく。それが「世界の日本酒」を創りあげていくことに繋がるということですね。
日本酒ブーム自体は良い兆しであり、肯定的に捉えるべきだと思いますが、一時的な人気をより確たるものにするためには「とにかく海外!」ではなく、「まずは日本、そして世界へ」という考え方でいるべきなのでしょう。
コンセプトは「しがらまない」
プロジェクトの発起人であるクリエイティブディレクターの川越智勇氏は、「日本酒業界の方と話をしていると、とにかくしがらみが多いと聞く。このプロジェクトではそういった業界の事情にとらわれず”しがらまない”ことを大切にしていきたい」と、業界の事情をボトルネックとせずに活動をしていきたいと語りました。
日本酒業界では、各地域やプレーヤーが良い取り組みを行っており、その継続が今の日本酒人気に繋がっているように思います。ただ、そこから「横の繋がりをつくり、大きなアクションをおこす」ことができていないのが課題です。「SAKE2020プロジェクト」の狙いは、様々なプレイヤーによる横のつながりを強化し、方向性を統一した大きな動きをつくることにあります。
"誰がやるか”に固執しすぎず、"日本酒の魅力を知ってもらうために必要なこと”をやる。そのために「SAKE2020プロジェクト」を参加型のアクションにすることで、大きな動きを生み出すのはとても大切な考え方だと感じました。
日本酒を広げていくことが、環境を守ることに繋がる
酒&食ジャーナリストである山本洋子氏は、日本酒を広め消費量を上げていくことは日本の環境を守ることに繋がると語りました。
現在日本国内には、「耕作放棄地」と呼ばれる農作物が1年以上作付けされず、かつ農家が数年の内に作付けする予定が無い田畑が多く存在します。
日本には豊かな土地が豊富にありますが、耕作放棄地のように有効活用できていないという課題もまた存在するのです。
最近では耕作放棄地を復田させて日本酒を造る!というプロジェクトがクラウドファンディングで400万円もの資金を調達し話題を呼んでいますね。
山本さんは、「一日一合、純米酒!」というテーマで活動されています。一日一合の日本酒を飲むことで減反の必要がなくなるそうです。「田んぼには貯水効果やCO2の削減効果がある。人と自然が共生していける連続性のある農地を復活させるためにも、ぜひみなさんに日本酒を飲んで欲しい」と語りました。
日本酒を「農業」という視点でとらえることもとても大切なことですね。
今の日本酒ブームは、これまでの地道な活動の結果
日本酒ジャーナリストのジョン・ゴントナー氏は現在の日本酒の盛り上がりを見て、これまでの動きを振り返りました。
「1998年にNYに行ったときには、日本酒の販売をしている店は1件くらいしかありませんでした。今では100件以上あり、数十種類以上の品揃えの店もある。日本酒を扱う飲食店も増加傾向にあり、環境は確実に変わってきています。アメリカへ輸出する際に必要な銘柄の登録数は800を超え、酒蔵の半数近くが輸出の実績がある。状況としてはとても良い」とし、その一方で、流通制度や関税、言語の壁や日本酒についての偏見などの課題も多く存在すると語りました。
国内で生産されている日本酒の中で、海外に輸出されている量は全体の2%ほどと言われています。盛り上がる一方で経済的なインパクトはまだまだこれからという現状を踏まえ、一致団結して日本酒の普及を進めていきたいということですね。
市場を数字の観点から分析した講演は、長く日本酒のマーケット拡大に尽力されていた方ならではの説得力がありました。
業界が一丸となり、世界を目指す
このプロジェクトのKPIをどう設定していくのか、何が課題で、何を誰がどのように解決していくか、
今回のキックオフミーティングでは全てが語られることはありませんでした。
ただ、「業界が一丸となり、その知見を持ち寄ってこれまでにない大きな動きをつくっていく」という決意を強く感じとることができました。
この日は100人近くの方が来場され、参加チケットは完売だったそうです。委員の方の講演のあとにはパネルディスカッションや懇親会もあり、大いに賑わったそうです。
パネルディスカッションは「ブームかカルチャーか?SAKEのゆく先」というテーマで、山水舎 今田周三氏が進行を行い、はせがわ酒店 代表取締役 長谷川浩一氏、地酒道楽グループ 店舗統括支配人 野崎紀治氏、株式会社岡永 代表取締役社長 飯田永介氏が参加されました。
今後のプロジェクトの動きを楽しみにしたいですね。
◎ SAKE2020プロジェクト実行委員会メンバー
・代表
ジョンゴントナー氏(日本酒ジャーナリスト)
松崎晴雄氏(日本酒輸出協会会長)
・委員
飯田永介氏(株式会社岡永代表取締役社長)
今田周三氏(株式会社山水舎代表取締役)
山本洋子氏(酒食ジャーナリスト)
川越智勇氏(クリエイティブ・ディレクター)
柴田亜希子氏(株式会社東京酒店代表取締役)
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