国内最大級の日本酒イベント「にいがた酒の陣」が、2025年3月8日(土)〜9日(日)に開催されました。
酒蔵の軒数がもっとも多い新潟県のほとんどの酒蔵が出展し、過去には2日間で約14万人を動員するなど、たくさんの日本酒ファンから愛されているイベントです。2004年から開催され、2024年に20周年を迎えました。
今回は、2日間にわたって参加した編集部が感じた、新潟県の日本酒の現在のトレンドを紹介します。
2025年の新潟清酒のトレンドとは?
伝統の「淡麗辛口」が安定した人気
新潟県の日本酒を象徴するのは、ドライですっきりとした「淡麗辛口」の味わい。2025年の「にいがた酒の陣」には、80軒の酒蔵が出展していましたが、ほとんどの酒蔵の定番商品が、伝統の「淡麗辛口」を大事にしている印象でした。
特に、1990年代のブームを牽引し、全国にファンを抱える銘酒「〆張鶴」「久保田」「越乃寒梅」などのブースには、常に長い行列ができていました。
「酸味」を強調した商品が増加
伝統の「淡麗辛口」だけでなく、昨年に続いて、特に「酸味」を強調した日本酒も多く見かけました。
原酒造(柏崎市)の「越の誉 Qn(きゅん)」シリーズからは、イベント限定のスペシャルバージョンが登場。かわいらしいボトルデザインの印象にぴったりな、甘酸っぱい味わいでした。
栃倉酒造(長岡市)の「米百俵 純米酒 白麹仕込み」は、その名のとおり、焼酎の製造に使用されることの多い「白麹」を使用。白麹によるクエン酸が柑橘類を思わせる爽やかな酸味を生み出しています。ほかの酒蔵でも、酸味を表現するために白麹を使っている商品がいくつもありました。
越後鶴亀(新潟市)のブースには、ワイン酵母を使用した「越後鶴亀 ワイン酵母仕込み 純米大吟醸」が並んでいました。飲んでみると、ワインを思わせるフルーティーで上品な香りと酸味を感じます。
恩田酒造(長岡市)では、数年前から「酸基醴酛(さんきあまざけもと)」という製法を一部の商品に採用しています。この製法は、自然の乳酸菌を取り入れながら発酵を進める伝統的な手法「生酛造り」の一種。「舞鼓鶴 88dig」を飲んでみると、米の豊かな旨味と乳酸菌のまろやかな酸味が調和していました。
日本酒の新たな楽しみ方「ソーダ割」
2025年の「にいがた酒の陣」では、日本酒を炭酸水で割った「ソーダ割」を提案する酒蔵が増えていました。
王紋酒造(新発田市)は、昨年に続いて大吟醸原酒のソーダ割を提供。大吟醸酒ならではの華やかな香りが炭酸のシュワシュワ感と好相性で、すいすいと飲めてしまう一杯でした。
弥彦酒造(弥彦村)のブースには、炭酸水のウィルキンソンとコラボした、ソーダ割におすすめの日本酒「ぽん酒ボール」がありました。気軽に楽しめる缶容器の商品展開もあるそうで、ブースに設置されたカプセルトイマシーンの景品(特賞)にもなっていました。
この数年、新潟県の居酒屋では、麒麟山酒造の「麒麟山 伝統辛口」をソーダで割った「麒麟山サワー」を見かけることが増えましたが、同社のブースでは炭酸専用のサーバーを用意して「麒麟山サワー」を販売。ソーダ割という新しい楽しみ方の提案に対する本気度を感じます。
また、発酵の過程で生まれる炭酸を生かしたスパークリング日本酒の提案も増えています。柏露酒造(長岡市)の「柏露花火」は、流行している甘酸っぱい味わいと炭酸の強さのバランスがよく、近年の日本酒トレンドを象徴しているようでした。
新たなスタートを切った酒蔵に注目
近年、新潟県の酒蔵でも代替わりが増え、若手の蔵元や杜氏が新たな商品の開発に取り組んでいます。そのなかでも、特に「あべ」の阿部酒造(柏崎市)、「加茂錦」の加茂錦酒造(加茂市)、「天領盃」の天領盃酒造(佐渡市)には、イベントの最初から最後まで長蛇の列ができていました。
さらに、酒蔵の廃業が増えているなか、事業継承を通して、新たな経営体制でリスタートする酒蔵も増えています。
葵酒造(長岡市)は、江戸時代の末期に創業した高橋酒造を事業継承して、2024年12月に始動しました。甘味と酸味のバランスがよいモダンな味わいやスタイリッシュなボトルデザインで、新しい風を感じます。
上越酒造(上越市)も、公営競技の関連事業に取り組んでいる日本トーターが、2021年に経営を引き継ぎました。新たな設備の導入や企画の検討にも積極的で、これから注目すべき酒蔵のひとつです。
たからやま醸造(新潟市)は、廃業の危機に陥っていた宝山酒造を親族が事業継承することで再生した酒蔵。これまでの商品も大事にしながら、酒質の向上や新商品の開発にも取り組んでいます。
新潟県の日本酒は進化を続ける
「淡麗辛口」の味わいで全国区となった新潟県の日本酒。しかし、昨年と同様に、従来の「淡麗辛口」にとらわれない新しい味わいの日本酒が増え、多様化が進んでいます。その背景には、代替わりや事業継承などによる、新しい視点を持った造り手の増加が大きな影響を与えています。
また、イベントの参加者を見てみると、海外からのお客さんが増えていることも印象的でした。編集部が確認した範囲では、台湾、オーストラリア、アメリカからの参加者がいました。2024年12月に「伝統的酒造り」がユネスコ無形文化遺産に登録されるなど、海外からの注目度も高まっていくことが期待されます。
若手の蔵元や杜氏、異業種からの参入、そして海外からの注目など、新しい視点や価値観との出会いを通して、新潟県の日本酒はこれからも進化していくことでしょう。