新潟県の日本酒は「淡麗辛口」だけじゃない!—「にいがた酒の陣 2024」で感じた伝統の味わいと変化の兆し

国内最大級の日本酒イベント「にいがた酒の陣」が、2024年3月9日(土)〜10日(日)に開催されました。

酒蔵の軒数がもっとも多い新潟県のほとんどの酒蔵が出展し、過去には2日間で約14万人を動員するなど、たくさんの日本酒ファンから愛されているイベントです。2004年から開催され、今年で20周年を迎えました。

今回は、2日間にわたってほとんどの酒蔵の日本酒を試飲した編集部が感じた、新潟清酒の現在のトレンドを紹介します。

2024年の新潟清酒のトレンドとは?

定番の「淡麗辛口」は健在!

新潟県の日本酒といえば、すっきりとした「淡麗辛口」の味わいが主流。1990年代、石本酒造の「越乃寒梅」、朝日酒造の「久保田」、八海醸造の「八海山」、宮尾酒造の「〆張鶴」などを中心に広がった「淡麗辛口」ブームは、新潟県の日本酒が全国に知られるきっかけとなりました。

2024年の「にいがた酒の陣」には、78軒の酒蔵が出展していましたが、多くの酒蔵の定番商品が、この「淡麗辛口」の酒質。1990年代のブームを牽引した銘酒蔵のブースには、常に長い行列ができていました。

地元を中心に流通している、吉乃川(長岡市)の「吟醸 極上吉乃川」は、シンプルで穏やかな香りに始まり、米の旨味を感じながらも透明感のあるドライな後口で、まさに「淡麗辛口」を代表する味わいでした。

加藤酒造店(佐渡市)の「金鶴」も、やさしい甘味がありますが、それでいて後口のキレが良く、全体的にすっきりとした印象。燗酒にすると、ふくよかな旨味が強調されますが、さっぱりとした後口は変わりません。

それぞれの手法で「酸味」を表現!

近年、都内を中心に流通している日本酒は、甘味や酸味を強く感じる「甘酸っぱい」ものが増えています。

新潟県の日本酒は、すっきりとしたシンプルな味が中心でしたが、2024年の「にいがた酒の陣」では、特に「酸味」を表現した日本酒にいくつも出会うことができました。代表的な商品を紹介します。

原酒造(柏崎市)の「90PINK(キューマルピンク)」は、新潟県産の食用米「こしいぶき」をあえてあまり磨かずに、精米歩合90%で醸した一本。無濾過生原酒らしい、ジューシーでボリュームのある味わいで、甘味と酸味を強く感じました。

同じ柏崎市にある石塚酒造の「ヒメノイ ishoni」は、一般的に焼酎の仕込みに使用されることが多い「白麹」を使用しています。白麹菌が生成するクエン酸のおかげで、レモンをひと搾りしたような、シャープで爽やかな酸味を感じました。

白龍酒造(阿賀野市)のブースには、ワインの醸造に使用される酵母で醸した日本酒も。

ワイン酵母で仕込んだ純米大吟醸酒は、生と火入れの2種類を試飲することができましたが、生酒はフレッシュで爽やかな酸味が特徴で、まさに白ワインのような印象でした。

他にも、酸味が強調された商品はたくさんありました。各蔵、それぞれの手法で酸味を表現していますが、共通しているのは、シャープで爽やかな酸味で後口のキレが良いこと。結果的に、これまでの「淡麗辛口」と同じように、すっきりとした日本酒が多い印象でした。

「淡麗辛口」ではない、新しい味に挑戦!

また、従来の「淡麗辛口」から脱却し、新しい味を模索している酒蔵もありました。

福顔酒造(三条市)のブースには、ブランデー樽・ウイスキー樽・バーボン樽でそれぞれ貯蔵した日本酒が並んでいます。「バーボン樽で貯蔵した日本酒。」を試飲したところ、バーボン樽ならではのスモーキーな風味や、バニラを思わせる甘味、コーヒーのような深い苦味が感じられ、さまざまな要素が複雑に絡み合った味わいでした。

新潟県の日本酒の新しい味わいとして、編集部が注目したのは「熟成酒」。新潟県の日本酒というと、「淡麗辛口」に代表されるシンプルなものが多く、複雑な味わいの熟成酒のイメージは強くありません。

そんな中、笹祝酒造(新潟市)や渡辺酒造店(糸魚川市)のブースでは、熟成酒が前面に紹介されていました。

笹祝酒造の「笹祝 五年熟成生原酒」は、生原酒ならではのパンチのある味ですが、長期熟成を経たまろやかな風味も感じられます。「三年熟成大吟醸」も提供されていました。

渡辺酒造店の「DOMAINE WATANABE(ドメーヌ・ワタナベ)」は、まるでワインのように、米を収穫した年を強調したヴィンテージの商品をラインナップ。年ごとの原料の品質の差がワインよりも出にくいとされる日本酒では、あまり見られない提案です。

新潟県の日本酒はまだまだ進化する

「淡麗辛口」の味わいで全国区となった新潟県の日本酒。2000年代に入ってからは、他県の日本酒が台頭し、香りや味わいにさらなる多様性が生まれた結果、その人気は相対的に落ち込んでいきました。

しかし近年は、良い意味で「新潟県らしくない」と評価される新しい味わいの日本酒が増加し、また注目され始めています。

(文:SAKETIMES編集部)

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