毎晩のようにお酒を楽しんでいる人も多いと思いますが、日本酒は口当たりが良くてついつい飲み過ぎてしまいますね。最近では飲み口の柔らかい香り豊かな日本酒も増えていることから、日本酒好きを公言する女性も増えています。

そうなると気になるのが「日本酒はカロリーが高いから太りやすい」「たくさん飲み続けることで、お酒に強くなれる」「産前産後は飲酒を避けなければならない」といった、日常生活に関わる日本酒の噂です。

医学的な観点からみると実際どうなのか、『酒好き医師が教える最高の飲み方』(日経BP社刊)を監修した日本酒好きの医師・浅部伸一先生に真偽を確かめてみました。

浅部伸一先生(自治医科大学付属さいたま医療センター)

2種類あるアルコール分解の方法

「お酒を飲めば飲むだけ強くなる」というお酒にまつわる噂。「もっと飲んで鍛えろよ」という、先輩や上司からの乱暴な言動に出くわし、困った経験がある人もいるのではないでしょうか。

努力次第でお酒に強くなるのかを浅部先生に聞いたところ、「一部の人に関してはそういうことが起きる可能性がある」との答え。

続けて、肝臓でアルコールを分解していく経路が大きくふたつあることを教えてくれました。

ひとつは、アルコールをアルデヒドに酸化させる「アルコール脱水素酵素」と、アセトアルデヒドを酢酸に酸化させる「アセトアルデヒド脱水素酵素」の働き。このふたつの酵素が体内で作用して、アルコールを比較的無害な酢酸に変えるという基本的な分解経路です。

もうひとつが、シトクロム(CYP)という、身体にとって害のある物質を分解したり無害化したりする、肝臓にある酵素グループの働きです。このシトクロムの一部がアルコールの分解も行います。

「お酒を毎日飲んでいると、第1の経路であるアルコール脱水素酵素はあまり変わらないのですが、シトクロムがどんどん増えて処理能力が高まります。まだはっきりと証明されていないのですが、飲み続けて強くなったという方は、恐らくこの2番目の働きが活発になっている可能性が高いです」と、浅部先生。これがよく言われる「お酒は鍛えると強くなる」という理由のようです。

しかし、すべての人にこの現象が起こるわけではないため、全員が同じようにお酒に強くなるわけではありません。さらに、シトクロムの酵素群の働きには個人差があり、なかには、シトクロムがアルコールを分解すると、かえって肝臓に害を与える物質を出してしまう症例も一部報告されています。

このような悪い面もあるため、「酒を飲んで鍛える」という考え方に浅部先生は警鐘を鳴らします。

「このようなメカニズムは確かにありますが、あえてやる必要はないですし、いちど鍛えたらずっと強いというわけではありません。たとえ鍛えても、お酒を飲まなくなるとまた徐々に下がっていきます。恐らく、日常的にアルコールが身体に入っているから、それに対応して変化しているだけだと思います」

プロレスラーや力士は、お酒が強い?

「鍛えてお酒に強くなる」と聞いて思い浮かぶのは、プロレスラーや力士のような筋肉隆々で体格の良い格闘家。「ビール瓶を1ケース空けた」や「ウォッカをがぶ飲みした」など、酒豪エピソードには事欠きません。実際に格闘技をやって身体を鍛えるとお酒に強くなるのでしょうか?

「飲む人が目立っているだけで、格闘家でもアルコールが体質的に合わない人は飲んでいないと思いますよ。身体が大きい人は肝臓も大きいので、より多く飲めるというのはありそうですね。プロレスや相撲をしているから強くなるのかというのは、正直分からないです」と、浅部先生。

身体が大きいと肝臓も大きいので、時間当たりのアルコール処理能力はやや高くなる。ただし、それでも体質的に弱い人はいて、そういう人たちはいくら鍛えてもお酒が飲めないということなんですね。

ここまでの話をまとめると、「たくさん飲めば強くなる」は全員に当てはまることではなく「もっと飲んで鍛えろよ」といって人に飲ませたりするのは間違いなく危険な行為ということ。身の回りにそういう人がいたら注意しましょう。

◎参考文献

  • 『酒好き医師が教える最高の飲み方』(著者:葉石かおり、監修:浅部伸一/日経BP社)
  • 最新医学のエビデンスをもとに、お酒の正しい飲み方を指南した一冊。お酒の楽しみ方はもちろん、健康や美容との関係など、お酒を飲む人が抱く素朴な疑問に回答を示し、多くの読者から高い評価を得ている。

(取材協力/葉石かおり)
(文/乃木章)

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