田園を流れる川の名前に由来して「廣戸川」
福島県最大の酒どころである会津若松地方から、南東に約30キロの場所にある天栄村。全国でも3番目の広さを誇る村で、1200年以上の歴史がある岩瀬湯本温泉や、二岐温泉などを有し、会津に向かう観光客にも親しまれているようです。広大な土地ながら人口わずか5500人余りという、田園に囲まれた地に松崎酒造店があります。創業は明治25年(1892年)。銘柄「廣戸川」は、村を流れる釈迦堂川がその昔「廣戸川」と呼ばれていたことに由来します。
震災の年に若き後継者が一念発起!全国新酒鑑評会で金賞受賞
家族経営の小さな蔵ながらも良酒を醸し続け、地元に愛されてきましたが、転機が平成23年(2011年)にやってきました。3月11日に東北関東を襲った東日本大震災は、内陸の天栄村にも少なくない被害をもたらしました。同蔵もヒビが入ったり、外壁が崩れるなどの被害を受けました。そして長年、同蔵の酒を醸し続けた南部杜氏の板垣弘氏が震災直後に心労で倒れてしまいます。一命は取り留めたものの、酒造りはできない状況に。そこで福島県ハイテクプラザアカデミーで3年間酒造りを学んだ、蔵元後継者の松崎祐行氏(当時26歳)が一念発起。杜氏として23BY(平成23醸造年度)から酒造りを始めます。初めて仕込んだ「廣戸川 大吟醸」がなんと全国新酒鑑評会で金賞を受賞、以降5年連続で金賞を受賞しています。
SAKE COMPETITION2016上位入賞!バランスのよい食中酒
この特別純米酒は、蔵のまさにスタンダード酒。村内や近隣市町村で栽培された福島県産の酒米「夢の香」を55%まで磨いています。「SAKE COMPETITION2016」の純米酒部門で2位にランクインしました。
上立ち香は穏やかな、バナナのような果実香を感じます。口に含むと、米の旨みと独特の酸を感じ、シャープさとふくらみが同居してバランスがとても良い。主張するわけではないのですが、しっかりと旨みも感じます。含み香りも熟した桃のよう。後口は福島酒らしく、上品な甘味を感じながらスーっと消えていきます。穏やかで中庸なお酒というイメージですが、すべての要素でバランスが絶妙です。福島でいえば「飛露喜と寫楽の中間の味」と評する方もいました。
食中酒としては万能感があり、サッパリした和食から肉料理まで幅広く合わせられると感じます。薄味の味付けジンギスカンと合わせてもばっちりでした。タレの焼き鳥などにも合うと思います。温度帯も選ばず冷やではさっぱり、常温からお燗では、シャープな酸とどっしりした米の旨みを味わえると思います。個人的にはお燗がオススメです。呑み進めながら、しみじみと旨い酒だと感じるはずです。