日本で初めて金が採掘された町の伝統蔵
川敬商店の創業は、明治35年(1902年)。江戸時代は、伊達家の分家である桶谷伊達家の御用商人として屋号「橘屋」を掲げて、金物屋を営んでいたそうです。その後、穀倉地帯である南郷町(現・美里町)で、初代・川名敬治氏が酒造業を始めました。美里町の隣町である桶谷は、日本で初めて金(砂金)が採掘された地として、当時建立中だった東大寺大仏殿の完成に貢献しています。昭和42年(1967年)には、黄金山神社周辺一帯が国史跡となりました。現在の銘柄は屋号の「橘屋」と「黄金澤」。黄金澤の由来は金採掘の歴史ある沢の近辺で酒造りをしたことに由来しています。
昔ながらの山廃づくりを継承
川敬商店は、生産石高は400~500石程度と小さな蔵ですが、創業からの伝統である山廃づくりを継承しています。現在は、5代目の川名正直さんが蔵元杜氏として酒造りを取り仕切り、後継ぎであるお嬢さんと二人三脚で良酒を醸しています。
多くの酒蔵は名水の地に蔵を構えますが、当地は決して名水に恵まれている訳ではなく、タンクローリーで水を汲みに行っているそうです。そんなハンディも抱えながらも、酒質には定評があり、今年度も全国新酒鑑評会で金賞を獲得し、13年連続受賞という偉業を成し遂げています。その、けれん味のない味わいは、全国にも少しずつ浸透している最中です。また、宮城県内の新進気鋭の蔵元が協力して、毎年商品を生み出す「DATE7(ダテセブン)」にも参加しています。
冷やから熱燗までオールマイティーな蔵の看板酒
この山廃純米酒はまさに蔵元の看板酒です。クラシカルな山廃に属する味わいですが、多くの方が山廃酒に抱くクセや重さがありません。口に含むと山廃らしい米の旨みと乳酸発酵由来の酸味を感じますが、酸の出方は適度で、柔らかく広がり、後味は切れ味も十分です。冷やでは山廃の重さより軽快感すら感じます。お燗にすると良い意味で化けます。酸味、米の甘味、複雑味が増幅され骨太ながら。柔らかい、ホッとするような味わいです。クラシカルな山廃ですがそこに優しさ、洗練さも加わっているようです。
山廃のお酒が苦手な方にも呑んでいただければ、印象が変わるかもしれません。常温やお燗で、肉料理など濃いめのおつまみにも合いますし、宮城県産の牡蠣、特に蒸し牡蠣や焼き牡蠣にも相性抜群のはず。晩酌時にゆっくりと味わって欲しいお酒です。