信州諏訪で醸される銘酒「真澄」には多くのファンがいます。スッキリした飲み口に、特有の味わい、キレ…。その美味しさから、つい飲み過ぎてしまったという人も多いのではないでしょうか?そんな真澄の蔵元「宮坂醸造」が新しい挑戦を始めたと聞き、長野県の諏訪蔵・富士見蔵を訪ね、お話を伺いました。
信州の老舗・宮坂醸造が醸す銘酒「真澄」
「真澄」の銘柄名は、蔵の近くにある諏訪大社の宝鏡「真澄の鏡」に由来します。創業は古く、今から約350年前の1662年になります。先々代の時代(約90年前)に徹底的に品質の向上を図り、先代の時代(約50年前)に、東京市場を開拓したことで「信州が生んだ天下の銘酒」として全国に知れ渡ることになりました。また、現在最も使われている清酒酵母・協会7号酵母が真澄の蔵から1946年に分離されたことでも有名です。
「多くを造るより美味きを造れ」
「面白い酒を造るのは簡単。お客様の意識から酒が消え、ふと気付くと、ごろごろと徳利が倒れている、そんな真澄を造れ」
といった先々代のモットーは、今も蔵人の中に引き継がれています。
ふたつの蔵で酒造り
「真澄」は、上諏訪の諏訪蔵と、富士見の富士見蔵の2ヶ所で造られています。年によってどちらの蔵でどの銘柄を仕込むかは変わりますが、純米大吟醸「夢殿」だけは、毎年両方の蔵で造られています。仕込水は、諏訪蔵では霧ヶ峰の伏流水、富士見蔵では南アルプスの伏流水を使用。
米は長野県産の美山錦、ひとごこち、夢殿には兵庫県産の山田錦などが使われています。
8基の精米機を使い、自社で精米
甑(こしき)と蒸し器の両方を使用した蒸米
蒸米の放冷
麹造り
仕込み
圧搾機、または槽(ふね)での搾り
宮坂醸造が直面した課題と、変革の一手
おいしいお酒を造り、市場からも評価されている宮坂醸造。一見すると順調に見えますが、課題にも直面していました。いったいどのような課題があり、そこに対してどのようなアプローチを試みているのか、蔵の方にお聞きました。
「特定名称酒の出荷量は伸びていますが、地元を中心にニーズのあった普通酒の出荷量は年々下がっています。 他県同様に長野県も、人口減少、高齢化に伴う需要の低迷で、清酒の消費量は減少しています。ただ、消費量減少の要因は、”他社との差別化を行ってこなかったこと”も考えられると思います。量や価格で勝負をできない中小蔵は、これからの時代の生き残りのため必死です。ですから、大手ができないこだわり・違いを商品に落とし込み、どのように活動していくか試されていると考えています」
このような考えのもと、「変革」の姿勢を表に出したのが、「真澄」に続くセカンドブランド「みやさか」の設立です。
再挑戦のお酒「みやさか」
「みやさか」は2005年に販売され、2016の年春にブランドイメージをリニューアルして再発売されたお酒です。あらためて、真澄の蔵の原点でもある「7号酵母」にこだわり、酒米には地元長野県産の美山錦を選びました。リニューアルにあたり、企画部・宮坂勝彦氏は「2016年は、1946年に弊社の酒蔵から協会7号酵母が発見されてから70年目という節目の年に当たります。日本一の美酒を求めて曾祖父が懸命に取り組んだ結果、お酒の神様がくださったこの7号酵母に、新生みやさかは立ち返ります」と話してくれました。
7号酵母の「7」の形をベースにしたシャープなデザインのラベル
香りは抑えめで、淡くリンゴのような果実香があります。口に含むとまずはシャープな酸、次に旨みが広がり、何事もなかったかのようにスッとキレます。以前と比べて酸が立ったことで、たとえば生ハムやカナッペといった、洋風の食事にも合いそうです。「みやさか」は現在、全国50件の専門酒販店、東京23区では4件の酒販店でのみ購入が可能とのこと。
コンセプトは「7号酵母での挑戦」
あらためて7号酵母にこだわった理由や、造りのコンセプトについて、企画部・宮坂勝彦氏に、より詳しくお話を伺いました。
Q.宮坂醸造にとって7号酵母とは?
A.弊社は「協会7号酵母 発祥の蔵」です。発見から70年が経過した歴史ある酵母ですが、大変優秀で今でも全国の酒蔵で利用されています。私自身愛してやまない協会7号酵母ですが、3年ほど前まで弊社の人間にとってこの酵母は空気のような当たり前の存在で、その味わいの可能性について深く考えておりませんでした。
Q.「みやさか」の造りのコンセプトは?
A.リニューアルした「みやさか」のコンセプトは、「7号酵母での挑戦」とし、我々のルーツともいえるこの酵母の可能性を追求することでした。これまでの常識を疑うことから始め、酒質の向上を目指しました。今現在、「みやさか」は、2季目の造りを行なっていますが、昨年とは異なる新たな酒質がこのクラシックな酵母から誕生しています。
伝統と変革、「真澄」と「みやさか」を醸す宮坂醸造の挑戦は始まっています。