新潟市の中心街として栄える古町に、「あがの割烹 千原六助」がオープンしたのは2019年10月のこと。東京・日本橋や地元の名店で腕を磨いた料理人・早川健人さんが、出身地である新潟県阿賀野市産の食材を使った料理を楽しんで欲しいという思いで開いたお店です。
阿賀野市は、JR新潟駅から西へ車で約20分。大河・阿賀野川をはじめ、県内屈指の登山者数を誇る五頭山(ごずさん)や白鳥の渡来地である瓢湖(ひょうこ)など自然豊かな土地柄で、農業が主産業のまちです。
"阿賀野愛"あふれる店内
阿賀野市の魅力を、新潟市にいながら楽しめる「あがの割烹 千原六助」。路地裏にあるお店を訪れると、白鳥が描かれたのれんが出迎えてくれます。
木のぬくもりあふれる店内は癒しの空間。店内に入るとまずはカウンター席が目に入ります。ご主人の調理姿を見ながら呑めるこの席は特等席といってもいいでしょう。気さくにお話ししてくださるので一人で行っても楽しめます。
奥のテーブル席も落ち着いた雰囲気でゆったりと過ごせます。テーブルをつなげて利用もできるので、まとまった人数の宴会にもよいですね。
お店のなかで、さっそく阿賀野らしいものを見つけました。テーブルに置かれた「安田瓦」の箸置きです。安田瓦は150年もの歴史がある阿賀野の名産品。雪国の気候に対応する断熱性と耐寒性に優れた高い品質を誇る伝統的な瓦です。
今夜の"だるま"の中身は?
お品書きを見ると、阿賀野のブランド牛「あがの姫牛」やブランド豚「純白のビアンカ」など、地元の食材を使ったメニューが数多くあります。食材だけでなく、醤油や味噌といった調味料も阿賀野のものというこだわりよう。他のメニューには佐渡産の文字もあり、阿賀野だけでなく、新潟の名物も味わうことができます。
お通しは毎回2~3品が用意されています。その中でひときわ目を引くのが三角のだるま。阿賀野にある御菓子司「最上屋」の民芸菓子「三角だるま」を模したものです。本来なら最中のなかにあんこが入っているのですが、ここならではのひと工夫をされています。
だるまの中身は、なんと、ポン酢のジュレ。最上屋から最中を仕入れて、中身をお酒に合うものに変えているとのこと。前回はいぶりがっこ入りのポテトサラダが入っていました。
何が入っているかは食べてからのお楽しみなんて、ワクワクしますね。
日本酒は、新潟の地酒がズラリ。料理に合わせて選べるようにと、さまざまなタイプの味わいのお酒が取り揃えられています。梅や柚子などの果実酒も新潟の酒蔵のものを揃えるという徹底ぶり。もちろん、阿賀野の日本酒は必ず置いてあるそうです。
阿賀野の食材と新潟の地酒を味わいつくす
まず注文したのが、阿賀野の老舗豆腐屋「川上とうふ」を使った季節の白和えです。
季節によって和える素材が変わり、今回は新潟名産の洋梨のル レクチエでした。ほのかな酸味とねっとりした口当たりが楽しいル レクチエと、大豆のうまみタップリのなめらかな白和えが本当によく合います。阿賀野の脇坂農園のエディブルフラワーも鮮やかです。
合わせたのは、八海山のしぼりたて生原酒「越後で候」。45%まで磨いたこちらはスッと呑みやすいきれいなお酒で、少し甘さも感じられるので白和えとの相性がピッタリでした。
八海山とレーマン社が作った日本酒専用オリジナルグラス「Sakemust(サケマスト)」で提供してもらえるのもうれしいです。
「しいたけの肉詰めふらい」のしいたけも新潟産。肉厚でジューシーで本当においしいんです。レモンでサッパリといただきましょう。
揚げ物にはシュワッとしたお酒が合います。「想天坊 活性にごり生酒」は、ラベルに「プロ限定!」とあるように開栓するのがとっても難しい元気な純米酒です。
少しずつキャップを緩めては閉めを繰り返し、泡が落ち着いてからようやく呑めるので、少し早めに注文するといいかもしれません。シルキーでシュワシュワと弾ける泡が、揚げ物をよりおいしくしてくれます。
安田瓦のお皿で提供されたのは、安田味噌のなめろう。この味噌は阿賀野で長く愛されている味噌屋さん「月岡糀屋」のものです。味噌のうまみをダイレクトに感じられるなめろう。これは燗酒が呑みたくなります。
阿賀野の酒蔵・白龍酒造の「からくち白龍」をお燗にしてもらいました。
「地元の晩酌酒といえば、こちらのお酒なんですよ」とご主人。なるほど、新潟らしいスッキリとしたのみ口。お料理と一緒にじっくり楽しめそうです。
とにかく佇まいが美しい「炭火焼きベーコンのポテトさらだ」。クリーミーなポテトサラダと、肉厚で香ばしいベーコンでお酒が進みます。
ポテトサラダに合わせたのは緑川酒造の「雪洞貯蔵酒 緑」。雪洞で貯蔵された純米吟醸酒で、ゆっくりと熟成されるせいか穏やかな香りとなめらかなのみ口でスイスイと進むお酒です。
ほんのりとした酸もポテトサラダとの相性がいいように感じました。
「あがの姫牛ハツぽん酢」は、ハツがとにかくプリップリ。クセが全くなく新鮮なのがよくわかります。軽く炙ってあるので香ばしい香りも楽しめます。
佐渡の天領盃酒造は全国最年少蔵元社長の蔵として日本酒好きの間ではよく知られているのではないでしょうか。「天領盃 しぼりたて純米吟醸生原酒」は、スッキリと呑みやすいので食事にも合います。ハツとの相性もピッタリでした。
これは「蒸しかまど」という昔ながらの炊き方でおいしくごはんが炊ける道具です。阿賀野市にある小田製陶所で作られたもので、「あがの割烹 千原六助」では、この蒸しかまどを使ってごはんを炊いています。
炊けたごはんは一粒一粒が立っていてキラキラしています。「千原六助」のお米は、米・食味分析鑑定コンクールで金賞を受賞した「やまびこ米」という阿賀野産のコシヒカリ。何もつけずにそのままでもお米の甘さやうまみをしっかり感じられる、おいしいお米です。
メニューにあるのは炊き込みごはんだったのですが、炊きたての白いごはんを味わいたくてそのままでください、とお願いしました。
メニューにはないごはんのおともセットを、ご主人が用意してくださいました。炙り明太子やふき味噌など、どれもごはんが進むものばかり。「千原六助」では、メニューにないものでも、リクエストに可能な限り応えてくれます。
食べて幸せ、呑んで幸せ。そんなお店を目指して
店名の「千原」は実家のある地名、「六助」は実家の屋号です。つまり「千原六助」は、"千原の六助がやっているお店"ということ。とても地元愛にあふれた名前ですね。
ご主人にやりがいを感じるときについて、聞いてみました。
「やりがいは常にあります。自分の店を持つことはずっと思っていたことなので。お客様に明日もがんばれるとか活力になったとか、そんなうれしいお言葉をいただけることがあって。お客様の喜んでくださる顔を見られることがうれしいです。食は幸せを感じやすい場所だと思うんです。食べて幸せ、呑んで幸せ。ここで幸せな気持ちになって欲しいと思っています」と、素敵な想いを優しく語るご主人。
新潟を訪れた際は、阿賀野の魅力と幸せを感じられる「千原六助」へ、ぜひどうぞ。
(文/茜)
◎店舗情報
- 店舗名:「あがの割烹 千原六助」
- 住所:新潟市中央区東堀通9番町1407-3 プロジェクトビル1F
- アクセス:新潟駅から2.3㎞
- 営業時間:18:00~23:00(Lo 22:30)
- 定休日:月曜日(月2回日曜休み有り)
- 席数:カウンター6席/テーブル2席(4名用)
- 電話番号:025-378-6224