新潟市西蒲区松野尾は、海からも山からも近いのどかな地域。笹祝酒造株式会社は、この地で明治32年に創業しました。

実は、地元での消費が9割という地酒蔵に、いま新しい風が吹いているのです。

笹祝酒造の看板

風を起こしているのは、若き6代目・笹口亮介さん。横浜の酒屋で修行し、新潟に戻って3年。もともと蔵を継ぐつもりはなかったという6代目に、酒造りへの思いを聞きました。

手作業を大切にした、昔ながらの酒造り

笹祝酒造で使用している酒米は、山田錦・五百万石・越淡麗・亀の尾・こしいぶき・コシヒカリなど。兵庫県の特A地区の農家と直接契約をしている山田錦以外は、すべて新潟県産です。

専用の機械を使った洗米。一定量の米が、ホースを通って次々と投入されていきます。大吟醸酒などの造りでは、この洗米機を使わず、手作業で洗米を行うのだとか。

黒板で蒸米の予定を管理

蒸米の予定が黒板に記入してあります。取材に伺ったこの日は、亀の尾と越淡麗を蒸していました。

蒸米の作業。すごい量の蒸気が上がっています。

米を蒸す甑(こしき)の中は、ミルフィーユのように3層に仕切られています。下に行けば行くほど、米がギュッと締まっていて重く、すくい出すのが重労働になっていくのだそう。

蒸米は放冷機に入れて、温度を下げていきます。

そのままエアシューターで運ばれた蒸米は、直接タンクの中へ勢いよく投入されていきます。

小さくプツプツとしていたり、カラッとしていたり、泡でいっぱいになっていたり......タンク中の醪はどんどん表情を変えていきます。

笹祝酒造の麹室

こちらは昭和57年に作られた麹室。蔵内の至るところで、積み上げてきた歴史が感じられます。

笹祝酒造の自社培養酵母

使っている酵母は、なんと自社で培養しているのだとか。

醪を酒と酒粕に分ける作業・搾りには、自動圧搾機「ヤブタ」を使用しています。

瓶詰めしラベルを貼ったあとは、手作業で包装していきます。

酒瓶を包む作業

スピーディー、かつ、ていねいに包まれていく様子に思わず見入ってしまいました。

笹祝酒造にある試飲のできるカウンター

見学後はカウンターで試飲をすることができます。スポットライトに照らされた酒瓶が雰囲気を演出しています。

笹祝酒造の飲み比べラインナップ

このカウンターは、昔使っていた桶や蓋などの道具を再利用したもので、桶の中で酒が醸されていくのをイメージしているのだそう。そのほかにも、笹で染めた酒袋の暖簾や、酒樽を使った手洗い場など、醸造用の道具をリノベーションしたアイテムがふんだんでした。

試飲カウンターはリノベーションして作ったもの

「にいがた酒の陣」限定発売の酒も!

酒を呑んでいる可愛いパンダが描かれたこの一品。今年の「新潟淡麗 にいがた酒の陣」限定で販売される、西蒲区岩室産の越淡麗を100%使った純米酒「コマンタレブー ザ・コシタンジュンマイ2」です。昨年販売した「スプリングハズカム ザ・コシタンジュンマイ」に続く商品です。

酒の陣限定のお酒

通常よりも麹の割合を増やして仕込み、生酒のまま瓶詰めしています。この可愛いラベルの酒が買えるのは、今年の「にいがた 酒の陣」だけ。持ち帰りに便利なパンダトートバッグも販売されるので、ぜひ会場へ!

酒蔵の魅力をもっと多くの人に

実は笹口さん、大学進学で新潟を離れる前は、家業を継ぐつもりがまったくなかったのだそう。なぜ、跡を継ぐことになったのでしょうか。

「大学生のときに、立ち呑み屋でバイトをしていたんです。スーツ姿のサラリーマンたちが美味しそうに日本酒を呑んでいて、そのなかに笹祝の日本酒がありました。そのときに『自分の生まれた家には価値があるんだ。美味しく呑んでもらえるって、こんなにうれしいことなんだ』と感じ、そこで新潟に帰って酒蔵を継ごうと思ったんです」

6代目、笹口亮介さん

大学卒業後に酒屋で修行し、蔵へ戻ってきて3年。帰ってくる前から考えていたことを、ひとつずつしっかりと実現させてきました。

「まずやりたかったことが、蔵開き。酒蔵が"酒造りの工場"みたいになっていたのが、もったいないと思っていたんです。歴史ある建物や文化を伝えるために、まずは蔵へ来てもらいたいと考えました」

大正時代に建てられた部分もあるという蔵内には、高い天井に立派な梁があり、そのレトロな雰囲気にわくわくさせられます。

「Open 酒蔵 蔵Be Lucky!」と題した蔵開きには、蔵見学はもちろん、日本酒講座や音楽ライブ、キッズコーナーが設けられ、大人から子どもまでたくさんのお客さんが酒蔵を楽しんだようです。

蔵開きのチラシ(2017年)

立ち呑みカウンターを作ることも「もっと気軽に蔵へ来てもらいたい!」という思いで、以前から考えていたことでした。今では蔵見学の希望も増えて、多くの人に蔵を訪ねてもらえることがとてもうれしいそうです。

さらに「みんなでつくる」をテーマに、酒処・新潟の消費者といっしょに酒造りをする企画を始めました。現在は2回目のチャレンジで、亀の尾を使った生酛の純米酒をベースに、生のにごり酒と火入れをしたにごり酒を仕込んでいます。

チャレンジをしつつ、地元からズレない酒造りを

酒屋で働いているときに多くの酒蔵を見学したという笹口さんは、今までの笹祝酒造にはない、モダンな酒が造りたいと思っていたそうです。

「帰ってから、蔵の人たちとそういう酒を呑んだら『甘いなぁ』『うーん......』と、あまり良い反応じゃなくて。そこでハッとしたんです。ここで働いている人たちは、造り手でありながら消費者でもあるんだって。彼らが『美味しい!』と思えることが大事。地元の酒からズレてはいけないんだと気付かされました」

それ以来、新しいチャレンジに取り組みながらも、これまでの笹祝酒造らしさを残し、地元の人に『美味しいね』と言われる酒を目指してきました。

笹祝酒造・6代目の笹口さん

その甲斐もあって、昨年、カルチャー・ライフスタイル雑誌『Pen』の「ソムリエが選ぶ、おいしい日本酒。」特集で「笹印 純米酒 無濾過酒」が、香り部門の第1位に選ばれました。5人のソムリエがブラインドでテイスティングをする特集で評価されたことを受けて、素直にうれしかったという笹口さん。

「雑誌の影響はとても大きくて。たくさんのご注文をいただきました。でも一番うれしかったのは、付き合いのある人たちがとても喜んでくれたことですね」

笹祝酒造の酒をどんなふうに呑んでほしいですかと聞くと「"祝"の文字がついた酒なので、みんなでわいわいガヤガヤと楽しく呑んでほしいです。特別なときに呑むものではなく、日常のシーンで毎日ふつうに呑んでほしい。気軽に手に取ってほしいと思っています」とのこと。

日常に寄り添う笹祝酒造の一品。酒販店や居酒屋、そして「にいがた酒の陣」で見かけたときには、ぜひ呑んでみてください。

(文/茜)

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