「杜氏」という言葉をご存知ですか?杜氏(とうじ)とは、"酒蔵の最高製造責任者"のことをいいます。酒造り職人である蔵人たちは、杜氏というリーダーの監督のもと、酒造りに励むのです。

そんな杜氏も時代とともにスタイルが変化しているようです。今回の記事では「杜氏」スタイルの違いをまとめました。

1. 季節労働型杜氏

伝統的な杜氏は、夏場は自分の村で農業を営んで、秋~冬の農閑期になると、村で一緒に住む蔵人を引き連れて酒蔵で酒造りを行う、いわゆる「季節労働型」でした。杜氏さんが毎年冬に蔵にきてお酒を造るため、職人たちが寝泊まりする宿泊施設がある蔵もあります。

そのため、酒造りの技術は「蔵」ではなく、杜氏の住む「地域」ごとに継承されていく形となりました。そうした地域ごとの「杜氏集団」は、今でも各地方に30以上の流派があるとされており、岩手県の「南部杜氏」、新潟県の「越後杜氏」、兵庫県の「丹波杜氏」は日本三大杜氏と言われています。しかし、杜氏数の減少により消滅の危機に瀕しているところも少なくありません。

2. 常任型杜氏

蔵に四季醸造(1年を通してお酒を造る)の設備がある場合、季節労働型のスタイルは必要なくなります。杜氏は年間を通して、日本酒造りの監督をすることになります。四季醸造の設備がなくても、夏は自社での米作り・冬は酒造りなど、さまざまなスタイルの年間雇用があります。

このスタイルは大手酒造メーカーに多く、大手酒造メーカーではコンピュータ制御によるオートメーションで酒を生産していることが多いため、杜氏はこのコンピュータを監視をし、その他の蔵人は酒造メーカーが短期で雇ったアルバイトといった場合も増えてきているようです。

3. 蔵元杜氏

蔵元とは、「酒蔵のオーナー」のことをいいます。このオーナーが杜氏(日本酒製造責任者)も兼ねる場合、「蔵元杜氏(くらもととうじ)」というスタイルになります。

杜氏数の減少、そして各酒蔵の規模が小さくなることで、職人を呼ばずに蔵元自らがお酒を造る蔵が増えてきています。蔵元は必ずしも酒造経験者でなく、既存のアイディアにとらわれない自由な発想でお酒をつくるなど、新しいチャレンジが生まれている酒蔵も多いです。

4. 杜氏なし?旭酒造スタイル

獺祭の蔵元「旭酒造」は、杜氏がいないことで有名ですね。(参考:杜氏のいない「獺祭」、非常識経営の秘密

旭酒造では、社員のみで日本酒を造り、徹底したデータ管理で常識にとらわれない日本酒造りを行っています。ただ、杜氏=製造責任者がいないというよりは、「杜氏と蔵人」という旧来の構造から脱却した、という意味で「蔵元杜氏」スタイルといえるのかもしれません。

5. タンク責任仕込み!丸石醸造スタイル

愛知にある丸石醸造株式会社も、数年前に杜氏蔵人制度を廃止し、自社の従業員だけで酒造りをしています。

この酒蔵では「タンク責任仕込み」というスタイルをとっているそうです。

一般的な酒蔵では、製造工程ごとに役割分担があり、従業員がそれぞれの役割に責任を持つという組織構造になっています。一方、丸石醸造では日本酒を仕込む「タンクごと」に担当を決め、酒の設計から瓶詰めまでの責任を一人一人が担うそうです!いわば「全員杜氏」状態です。

このスタイルにより次の3つのようなメリットがあるそうです。

  1. 責任感による技術向上(会社にとってよい)
  2. 酵母の選択から瓶詰めまで味の設計をするやりがいの向上(働く人によい)
  3. どこでも通用する人材の育成(転職に有利、即戦力になる)

職人同士が杜氏目線で会話し、蔵の中で切磋琢磨する環境があるということですね。

6. 最後に

以上、杜氏のスタイルについてまとめてきました。歴史による変化だけでなく、それぞれの酒蔵の方針によってもかなりの違いがあることがわかっていただけたのではないかな、と思います。

全体の流れとして、日本酒造りの技術の担い手が、地方ごとの職人集団からそれぞれの酒蔵単位にまで移ってきているといえるのではないでしょうか。ここ数年、少数精鋭でエッジのきいた酒蔵が増えてきているのもうなずけます。

記事の最初に、杜氏とは「酒蔵の最高製造責任者」という説明をしましたが、杜氏の別名として「酒造作家(しゅぞうさっか)」もしくは「酒造家(しゅぞうか)」と呼ぶこともあるそうです。日本酒という文化を造る芸術家のひとつという捉え方ですね。

最近では、お酒をデザインしてクラウドファンディングで製品化する、といったさらに新しいお酒造りの形も生まれてきています。これを読んだあなたもぜひ、自分の飲みたいお酒をデザインする「杜氏」になってみてはいかがですか?

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