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杜氏はやっぱり大変!酒蔵の最高醸造責任者が担う仕事とは

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先日、私が働いている蔵の杜氏が入院してしまい、戻ってくるまでの作業を任されることになりました。頭や蔵人はいるものの、杜氏という大きな屋台骨が抜けた蔵を支えるのは、本当に大変です。そこで今回は実体験をもとに、杜氏の仕事について紹介したいと思います。

杜氏の朝は早い!まずは醪の分析から

早朝、蔵の鍵を開けてストーブとボイラーをつけ、醪を汲みにいきます。醪の成分を把握するのは杜氏の基本です。分析するのはアルコール度数・日本酒度(メーター)・酸度・アミノ酸度で、必要があればグルコースも計測します。

醪が順調に発酵していると、アルコール度数は増え、麹の力で米を溶かしながら日本酒度はプラスに向かいます。酸度は異常なほどに高くなっていなければ大丈夫でしょう。乳酸菌汚染なんかで高くなっていたら腐造の疑いがあります。

醪の状貌(じょうぼう)も見ます。泡あり酵母を使用していると泡の出方が指標となり、泡なし酵母の場合は表面や溶け具合で醪の状態がよくわかります。

始めは粥状だったものが、だんだんと溶けてシャバシャバになっていきます。炭酸ガスも6日目くらいをピークにボコボコ出てきます。終盤になるとあまり出ていないようにも見えますが、発酵が止まってないかの確認は怠りません。

さらに気になったものは、きき酒ならぬ"きき醪"をします。これは経験がモノを言うので「うーん、よくわからん、こんなもんかな?」というレベルです。経験年数が長く、名杜氏と呼ばれる人は必ず行っているそうなので、できるだけやってみましょう。

分析値を見たら上槽の計画と醪の管理

測定した分析値から醪の計画が見えてきます。醪はおよそ25〜30日かけて発酵させます。製品のアルコール度数や日本酒度にできるだけ合うように温度を微調整し、麹や米の溶け具合、見た目や香りを考えつつ酵母の塩梅をみていきます。

これもまた経験がモノを言うので、ベテランの頭に相談しながら操作をしていきます。数千リットルの醪が人間の思い通りになることはないということを、まざまざと見せつけられます。「これこそ並行複醗酵の醍醐味なんだなぁ」なんてボヤっと考えていると酒質はみるみる変化します。先手必勝で追水や温度の指示をします。

事務仕事も実はたくさんある!

杜氏は現場に出て作業をすることもありますが、机に向かっている時間も長いです。力仕事は蔵人に任せ、その間は帳面とにらめっこしながら溜息をついています。

休んでいるのではなく、醪の経過や上槽の記録などを帳簿にまとめ、計画を練り、蔵人に的確な指示を出そうとしています。醪や酒母、麹についてのテクニックはたくさんあり、ある程度は研究されて報文発表もされています。しかし、杜氏・蔵人は独自の「技」を持っています。

はためには取るに足らないようなものであったり、論文にもならないような感覚的なものだったりするのですが、何故か上手く行く経験則があるのです。それをノートにまとめているのですが、読んだところで本人にしかわからない秘密がふんだんに記載してあるようです。

勘を使って仕事をする裏には、書き溜めて誰にも見せない虎の巻があるものです。かつては杜氏本人以外絶対に開けてはいけない鍵の付いた納屋があって、経過簿や虎の巻が隠されていたという伝説まで残っています。

はるか先を見据えた計画とスムーズな変更

秘密がある一方で、チームメンバーである蔵人への伝達は重要です。杜氏は蔵人にしっかりと伝えなければならない「洗米予定表」を作ります。

いつ米を研いで仕込をするかという予定表で、これを元に玄米のオーダーや精米計画をし、麹を造り、酛を立て、仕込をするタンクを決めるので、この洗米予定表が間違っていると台無しになります。蔵元からの「これくらい酒を造ってほしい」というオーダーを受けて仕込順番を考えます。

さらに杜氏は、仕込について頭に相談し、洗米のオーダーを釜屋に指示し、酛下げ時期を決め、分析値を元に水を足したり上槽時期を決め、槽長に指示します。

まるで鉄道ダイヤのようにきめ細やかな指示を出すと、スムーズな仕事ができて蔵人から文句がきません。しかしながら、造りの期間中に何も起きないなんてことはなく、緊急の案件や仕込の変更が起きます。米がないとか、出荷を早めたいとか、仕込タンクにまだ酒があるとか、醪がキレないとか、さまざまなトラブルが発生します。

それに上手く対処するのも杜氏の技なんだなぁと溜息をつきながら計画を練ります。蔵人がすごい剣幕で「なんとすんだが!」とまくし立ててくるのを「難儀かけるども頼むでや!」と丸め込むのも一苦労です。

普段は麹室で麹菌と闘っているくらいですが、いざ杜氏のイスに座ってみると他の部署との連携が鍵だとわかります。「酒は一人じゃ造れない」と杜氏が良く言っているのを思い出します。たくさんの手を介するからこそ酒の味は複雑であり、その手を持つ蔵人が杜氏の下に結束しているからこそ、調和が取れているのでしょうか。「和醸良酒」とは良く言ったものです。

また、杜氏は人間的に大きい人がやっています。蔵人同士や蔵元との不和を解消したり、時には相談役も買って出るようです。地域の取りまとめ役や組合の役員もしていたりしますから、器の大きさもやっぱり大事なんです。ドシッと構えて、いかなる難題も吹き飛ばします。

これからの酒造りを考えてみて、いかにスムーズに、いかにスクラムを強固に、いかに楽しくできるかを考えないといけないなぁと実感しました。もちろん技術と経験が大事なので、まだまだ学ばねばならないことは山ほどありますね。結局、杜氏は2週間ほどで戻ってきました。杜氏はやっぱり大変です。でも、やりがいもありそうです。

(文/リンゴの魔術師)

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リンゴの魔術師

札幌生まれ、弘前大学人文学部に入学するも農学生命科学部を卒業。今は秋田で杜氏を目指し修行中。夏は技師、冬は麹室助手をやっています。造りを通して見た日本酒というものを書いてゆきたいと思います。お酒って、飲んでも考えてもおもしろいですよね。趣味はお絵かき、リンゴ彫刻、鉄道、雑魚釣り、花いじり、猫いじりなどなど。