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酒蔵で働きたい人必見! 蔵人に聞いた「酒蔵が求めるのはどんな人?」

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「酒蔵に就職したいのですが?」「杜氏になるにはどうすればいいですか?」という質問をインターネットの投稿で見かけます。

酒蔵で働いている身としては、そこまでして働きたいものなのだろうかと少々穿った見方をしてしまいがちですが、実際に酒蔵で働くことがどんなものなのか、ご紹介したいと思います。

酒造りだけではない!酒蔵の仕事とは

日本酒を醸造して、瓶詰め・箱詰めして発送し、店頭に並べ販売する。これが酒蔵の仕事です。

日本酒は、精米や洗米、酒母や麹の管理、搾りなどの工程を経て造られます。采配は杜氏が行い、頭が指示し、三役(醪屋・酛屋・麹屋)と各部署の親方が持ち場を取りまとめます。最初は追い回し(雑用)や釜屋助手から始まり、スキルアップとともに担当部門が変わっていきます。造る醍醐味も大きいですが、体力も必要です。

瓶詰め・箱詰めは日本酒を商品として整える仕事です。できあがった日本酒を瓶に詰め、ラベルを貼り、箱詰めします。簡単そうですが、酒の濾過や調合、瓶の洗浄・殺菌、特殊ラベルの手貼り、ライン管理など、煩雑な作業がたくさんあります。この部門は人手が不足しがちなので、人材募集をしている蔵が多いかもしれません。

店頭に並ぶまでにも、営業職が販路を作り、事務職が注文を取り次ぎ、配送担当が運び、それに関わる手続きもかなりの量があります。海外への輸出となるとさらに仕事量は増えます。

酒蔵には、酒を造るほかにもたくさんの仕事があるのです。

酒蔵に求められるのはどんな人?

たくさんの種類の日本酒を飲んだことがあるとか、一升瓶でも簡単に飲み干せるとか、そういう知識や酒量は重視されません。蔵の中にもまったく酒が飲めない杜氏や蔵人がいます。もちろん、相当量飲める人もいるので、インターンシップなどで酒蔵にやってくる大学生には「蔵人と同じペースで飲むと潰されるぞ」という注意がされるとか。

幹部候補や特殊な技術者の募集でもない限り、やる気があれば大抵の方なら蔵人になることができるでしょう。

ですが、制約もあります。酒蔵のほとんどが地方にあるので、蔵の近くへ引っ越さなければ仕事になりません。

また、四季醸造や三季醸造が増えたとはいえ、夏場は酒造りを行わない蔵がほとんど。通年採用はあまりなく、酒造り期間だけの雇用という場合も多いようです。通年雇用の場合、夏場は営業を手伝ったり、瓶詰め工程を中心に仕事をしたり、日本酒以外のリキュールやウィスキーの製造に回ったりすることもあります。

重宝されるのは「なんでもできる人」

年輩の蔵人は「なんでも屋が減った」といいます。

酒造期間中にはさまざまなトラブルが発生します。ネズミが配線を噛み切って停電した、屋根が雨漏りしている、パッキンがない、ポンプが動かない、などなど…。機材に不調があると、当然、仕込み作業が止まります。修理業者をすぐに呼べればよいのですが、早朝や休日ではなかなかすぐに来てくれません。そうした時に自分で修理できる人がいると重宝されます。

工業高校出身の人、電気配線関連に明るい人、車の修理経験がある人などは、テキパキと直してしまうので、見ていてすごいなと思います。農家出身で自分でトラクターや田植え機を直すことができるような機械に強い人もいますね。トラックやフォークリフトを運転できないと仕事が回らない部署もあります。ボイラーや危険物取扱などに関する資格もあるとよいかもしれません。

パソコンに強い人も重宝されます。事務系の仕事だと当たり前のことなのかもしれませんが、酒造業では玄米の買い付けからお客さんに酒を買ってもらうまでの在庫管理など、酒を造る時にも売る時にもたくさんの帳簿を書きます。醪や酒母、麹の管理も紙での記録が主ですが、パソコン入力でデータ化しておくと楽です。温度経過を自動で記録してくれる温度計のソフトもありますから、そういうものを使いこなせる人が蔵には必要でしょう。

蔵での実務経験が必要ですが、酒造技能士資格というものもあります。これは自分の酒造技能を証明するものです。おもしろいところでは新潟清酒学校酒類総研の清酒製造研修もあります。これらの資格や経験はスキルアップにつながる他、別の蔵に転職する場合のアピールポイントとなるでしょう。

きき酒師の資格は、必須ではありません。杜氏や蔵人はきき酒の技術が求められますが、それを証明する必要はありません。たとえるなら、アメリカ人と話をするのにTOEIC何点以上という基準が要らないのと同じです。

酒造りの現場はスタミナ勝負!走りながら将棋を指すが如く

一升瓶が8本入った箱や30キログラムほどある米袋などの運搬、数キロリットルの醪を櫂棒でかき回す櫂入れ、室温が45度もある麹室での力仕事、氷点下の部屋でのタンク洗いなど、体力はガリガリ削られていきます。

力任せの仕事というよりも、どちらかといえばスタミナ勝負。秋から春までやり続けるタフさが必要でしょう。体を動かしながら、先々の予定や工程も上手く管理しなければなりません。マラソンをしながら将棋を指すような感覚です。

泊まりこみの仕事もあります。私の場合、酒造期の休みは月に3~4日程度です。連休はありません。大晦日や正月三ヶ日も仕込を行いますから、平日と同じように働きます。

風邪をひいて仕事に穴を開けると自分の部署の人手が足りなくなるので、体調管理にも気をつけます。納豆やヨーグルトで栄養をつけたいところですが、これらの発酵食品は蔵人にとってご法度です。代わりに玄米や鴨肉でスタミナをつけます。

酒造りの現場は、華やかさがほとんどない地味なものです。雑誌などでは「日本酒の展望!」「海外で評価されるSAKEとは!?」「日本が誇る伝統技術の粋」と飾られた文字が躍り、インタビューでは経営者が明るいビジョンを示しますが、蔵人は休みなく淡々と仕込むだけです。

酒造りは一生を賭けられる仕事

力仕事は手伝いをもらいながら、考える仕事は経験と新たなアイデアを募りながら、さまざまな課題をみんなで乗り越えた先に、きっと良い酒が待っているはずです。

酒蔵で働くことはたしかに厳しい仕事ではありますが、仕込んだ酒が美味しくできあがった時は格別です。また次第に日が長くなり、雪が溶けて造りが終わり、春が訪れた時の達成感はなんともいえません。

今の仕事を投げ打ち、未来の自分を賭けて酒造りをしよう思っている人がどれくらいいるのかわかりませんが、私は一生を賭けて続けられる、テーマのある仕事だと思っています。

(文/リンゴの魔術師)

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リンゴの魔術師

札幌生まれ、弘前大学人文学部に入学するも農学生命科学部を卒業。今は秋田で杜氏を目指し修行中。夏は技師、冬は麹室助手をやっています。造りを通して見た日本酒というものを書いてゆきたいと思います。お酒って、飲んでも考えてもおもしろいですよね。趣味はお絵かき、リンゴ彫刻、鉄道、雑魚釣り、花いじり、猫いじりなどなど。