花酵母のトップランナー!ほとんどの銘柄に花酵母を使用
1716年(享保元年)に近江商人の藤村家が、筑波山ろくに良水があるこの地に注目し創業したのが来福酒造です。栃木や茨城の酒蔵は近江商人の出自の家柄が多いようです。創業時から銘柄は「来福」。俳句「福や来む 笑う上戸の 門の松」に由来します。
来福酒造は、10代目で現蔵元の藤村俊文さんの代から、大きな転換を図ります。蔵の生き残りを賭けて、全国で勝負できる品質重視の酒造りを決意。他の蔵との差別化を図るために着目したのが花酵母です。
花酵母は、東京農業大学の中田久保さんのチームが開発。俊文さんは、その教え子で開発に携わったという縁もあり、県内の酒蔵では初めて花酵母の特定名称酒を作りました。
花酵母は、その可憐な印象から香り高いフルーティーなお酒ができると思われがちですが、生命力が強く、発酵力も高いので、しっかりとしたお酒ができる傾向があるようです。来福酒造も、約1000石の生産量で、そのほとんどの銘柄に花酵母を使用しています。種類はなんと12種類。酵母は蔵内の培養室で自家培養しています。また、地元産を中心に10種類の酒米を使用しているので、酵母と米の最適解を探しながら酒造りをおこなっています。
辛いだけではなく旨みが味わえる、奥深い食中酒
この銘柄は茨城県産米の「ひたち錦」を55%まで磨いています。花酵母はベゴニアを使用。超辛口と謳っていますが、確かに、昨今「+18」まで日本酒度を上げたお酒は珍しいです。
簡単に日本酒度について説明しますと、日本酒度とはお酒に含まれる糖分の多さ・少なさを表すもので、糖分が多いお酒はマイナス、少ないお酒はプラスと表示されます。マイナスになるほど甘口、プラスになるほど辛口となります。ただ、日本酒の甘い辛いは、糖分以外にも酸度やアミノ酸度などが複雑に絡んできますので、日本酒度が高くても辛く感じない場合もあります。日本酒の奥深いところですね。
しかし、この銘柄は数値どおり、フルーティーな香りや味わいのお酒とは逆を行く、潔い辛口酒です。香りは最小限に抑えられ、口に含むと米の甘味を感じますが、すぐに辛みが口の中を支配します。最後の切れ味も日本刀のよう。スパッと口の中から消えていく感じです。
かつてのアルコール添加された辛いだけの酒とは違い、米の旨みも十分に味わえ、完全発酵によるスカッとした爽やかさすら感じます。お燗にすると米の旨み膨らみが増し、冷やでは辛さに隠れていた酸も出てきて燗上がりするお酒でしょう。香り豊かな来福の中では異端の味わいで、これは食中酒としておすすめです。特に白身や青魚のお刺身などとの相性は抜群かと。晩酌のお供に、気づけば呑み過ぎてしまう、そんな危険をはらんだ逸品と言えるでしょう。
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