「奥羽自慢」という酒をご存知でしょうか。もともと、1724年(享保9年)に創業した佐藤仁左衛門酒造場が醸していた銘柄です。地元の御神酒として使われるなど、地域に強く根付いた酒蔵で、全国新酒鑑評会では金賞を9回も受賞するなど、確かな技術をもっていました。

しかし、2009年に当時の蔵元・仁左衛門氏が体調を崩したことや、販売不振、蔵人の高齢化などの影響で製造を中止し、廃業の危機にありました。そんななか、伝統のある酒蔵がなくなってしまうのは忍びないと、同県酒田市にある楯の川酒造が支援に乗り出します。同酒蔵の社長・佐藤淳平氏は、厳しい経営が続いていた実家の酒蔵を立て直したノウハウを生かし、楯の川酒造の蔵人を常駐させ、2012年11月から酒造りを再開。また、佐藤仁左衛門酒造場から奥羽自慢株式会社へと社名を変更しました。

吾有事のボトルの写真

楯の川酒造は、全量純米大吟醸の酒蔵として、全国的に人気を博しています。2008年(平成20年)から海外輸出にも力を入れ始め、「TATENOKAWA100年ビジョン」という理念のもと、ヨーロッパやアジアを中心とした24ヶ国に商品を輸出しています。

20代コンビが立ち上げた新ブランド

そんな紆余曲折のなかで立ち上がったのが、若き蔵人たちによる新ブランド「吾有事(わがうじ)」。醸造の体制を一新して挑戦する銘柄です。製造責任者の阿部龍弥さん、販売責任者の北山幸輝さんはともに26歳。若さのあふれるコンビです。

コンセプトは「きれいで上品な旨味のある味わい」「全量手造りで総米750㎏以下の仕込み」「わかりやすい酒質」の3点。また、全量純米、かつ山形県産にこだわっています。

今回紹介するのは、山形県産の「出羽燦々」を55%まで磨き、アルコール度数が13度の飲みやすい原酒です。

吾有事のボトルの写真

イチゴを思わせる、ほんのりとした香り。口に含むと、ほのかにフルーティーな旨味が垣間見え、その後、米の旨味が静かに感じられます。適度に引き締まった味わいで、後口のキレも上々。透明感を残しながら、するりと喉に落ちていきます。

日本酒度が「-8」のため、甘口タイプを想像してしまいますが、甘味はあまりありません。ブドウジュースのような果実味を喉の奥でわずかに感じる程度です。エレガントな味わいなので、日本酒初心者や女性にもおすすめできる一本。白身魚や貝類などの刺身、なまこ酢、野菜のおひたし、カルパッチョなど、幅広く合わせることができそうです。すいすいと盃が進むので、飲み過ぎに注意しましょう。

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