かつては「幻の酒」と言われ、地酒ブームの火付け役となった「越乃寒梅」は、新潟の淡麗辛口を代表する一本です。

新潟では、1955年に酒造好適米の「五百万石」が開発され、雑味のないすっきりとした酒質の日本酒を造れるようになりました。その後、昭和40年代後半から昭和50年代前半にかけて、県と蔵元が一体となって淡麗辛口の日本酒を追求した結果、新潟の酒といえば淡麗辛口と言われるようになったのです。そこで人気を博したのが「越乃寒梅」です。

この記事では、淡麗辛口を代表する銘柄「越乃寒梅」をテイスティングして、その味わいをレポートします。

「普通酒 白ラベル」と「吟醸 別撰」を飲み比べ

越乃寒梅 普通酒 白ラベル

酒造りの中で最も難しいのが「高品質でおいしい普通酒を造ること」と話す杜氏もいます。新潟県の酒は淡麗辛口のお酒が多いですが、「越乃寒梅 普通酒 白ラベル」は、普通酒ながら、まさに淡麗辛口を感じる味わいです。

越乃寒梅の普通酒

全体:
すっきりさわやか味わい

主体となる香り:
原料香主体、淡い柑橘香と淡いハーブ香あり

具体的な香り:
白玉粉、生クリーム、マシュマロ、白桃、ライチ、白砂糖、スダチ、甘夏、アルコール、クールミント、若草、瓜、クレソン、ミネラル

甘辛度:
やや辛口

具体的な味わい:
すっきりさわやか飲み口、繊細で柔らかい旨味が主体、後味はキレよくシャープ、クールミントやスダチを思わせる含み香

おすすめの温度帯:
8℃前後にて、すっきりさわやか味わいを引き出す。
45℃前後にて、繊細で柔らかい旨味を引き出す。

合わせたい食べ物:
若狭カレイ、笹かまぼこ、剣先イカの造り、杏仁豆腐、湯豆腐、焼き厚揚げ、素麺、白菜の浅漬、野沢菜漬、かまぼこ、など

越乃寒梅 吟醸 別撰

以前は「越乃寒梅 別撰 特別本醸造酒」として販売されていましたが、近年、現在の名称に変更されました。まだ吟醸酒という特定名称のお酒が市場で定着する前に発売された商品で、スペックは現在の「越乃寒梅 吟醸 別撰」と変わりません。

これが「幻の酒」と呼ばれた越乃寒梅の代表銘柄で、入手困難で特約店でもなかなか買えず、プレミア価格で販売がされていたこともありました。現在では特約店で定価で販売されているので入手しやすくなりましたが、変わらず高品質で味わい深い酒のひとつであることは間違いありません。

別撰の越乃寒梅 吟醸酒

全体:
柔らかくなめらか、後味がドライですっきりしている

主体となる香り:
原料香主体、清楚ですっきりした果実香と淡く青いハーブ香あり

具体的な香り:
白玉粉、生クリーム、マシュマロ、白桃、ライチ、シャルドネ、和梨、綿菓子、スダチ、甘夏、クールミント、若草、若竹、瓜、レモングラス

甘辛度:
辛口

具体的な味わい:
柔らかくなめらかな飲み口、ふわりと柔らかい旨味が主体、後味はドライですっきり、白桃やスダチ、クールミントを思わせる含み香

おすすめの温度帯:
12℃前後にて、柔らかくなめらかでドライな後味を引き出す。
45℃前後にて、ふわりと柔らか、サラリとした後味を引き出す。

合わせたい食べ物:
鮭のムース、鱈の白子湯引きポン酢、鱈鍋、フィッシュ&チップス、糸よりのムニエル、干しカレイ、いちご大福、カマンベールチーズ、サヨリの造り、杏仁豆腐、など等

「吟醸 特撰」と「純米大吟醸 無垢」を飲み比べ

越乃寒梅 吟醸 特撰

兵庫県特A地区で収穫した山田錦で醸すワンランク上の吟醸酒です。山田錦独特のふくよかさとキレの良さ、香りの華やかさを感じます。冷酒から熱燗まで、幅広い飲み方で楽しめるお酒です。

越乃寒梅 特撰吟醸

全体:
柔らかくサラリとして、ふくらみのある味わい

主体となる香り:
原料香主体、華やかな果実香と淡いハーブ香あり

具体的な香り:
炊いた白米、サワークリーム、マシュマロ、白桃、メロン、マスカット、ライチ、青りんご、スウィーティー、グレープフルーツ、水飴、ミネラル、クールミント、若草、瓜、クレソン、レタス、檜

甘辛度:
やや辛口

具体的な味わい:
柔らかく滑らかな飲み口、繊細でふくらみのある旨味が主体、後味はサラリとしてすっきり、白桃やクレソンを思わせる含み香

おすすめの温度帯:
12℃前後にて、柔らかく滑らか、サラリとしてすっきりした味わいを引き出す。
45℃前後にて、繊細でふくらみがあり、後味のキレの良さを引き出す。

合わせたい食べ物:
フルーツケーキ、鱈ちり、鰰の塩焼き、イカの塩焼き、剣先イカの造り、糸よりのムニエル、桜鯛の天ぷら、キスの天ぷら、タラの芽の天ぷら、茄子の信貴焼、鏑の千枚漬け、白菜の浅漬け、など

越乃寒梅 純米大吟醸 無垢

兵庫県特A地区で収穫した山田錦で醸す純米大吟醸酒です。山田錦独特のふくよかさとキレの良さ、清楚な果実香が楽しめます。純米大吟醸酒らしくお米の持つ旨味がしっかり引き出されています。

越乃寒梅 純米大吟醸 無垢

全体:
柔らかくサラリとして、ふくらみのある味わい

主体となる香り:
原料香主体、淡いハーブ香と清楚な果実香有

具体的な香り:
白玉粉、生クリーム、マシュマロ、白桃、和梨、ライチ、シャルドネ、クールミント、バジル、瓜、若草、綿菓子、ミネラル、スダチ、甘夏

甘辛度:
やや辛口

具体的な味わい:
シャープでさわやかな飲み口、繊細でふわりとした旨味が主体、後味はシャープですっきり、和梨やクールミントを思わせる含み香

おすすめの温度帯:
10℃前後にて、シャープでさわやか、ふわりとした味わいを引き出す。
45℃前後にて、繊細でふくらみのある味わいとキレの良さを引き出す。

合わせたい食べ物:
葛饅頭、ちまき、白菜の浅漬け、イカ素麺、ばら寿司、キスの天ぷら、出汁巻き玉子、茶碗蒸し、明石焼、シーザーサラダ、鱧落とし、玉ねぎのサラダ、糸よりのポワレ、帆立のバター焼、小海老と帆立のアヒージョ、など

「生酛系酒母柱焼酎仕込 特醸酒」と「純米吟醸 灑」を飲み比べ

越乃寒梅 生酛系酒母柱焼酎仕込 特醸酒

年一回のみ出荷される限定酒で、地元の五百万石のみで醸造した特別本醸造酒です。生酛系の酒母を使用し、「柱焼酎」という製法方法で造られています。

「柱焼酎」とは、江戸時代に確立された伝統的製法のひとつで、米焼酎や粕取り焼酎を醸造する日本酒のもろみや上槽した新酒に加える技法のこと。酒の香りを引き立て、味わいにふくらみが出て、後味のキレもよくなります。

限定酒、生酛系酒母柱焼酎仕込 特醸酒 

全体:
柔らかくすっきり、滑らかでふくらみのある爽醇酒

主体となる香り:
原料香主体、清楚でさわやかな果実香と淡いハーブ香あり

具体的な香り:
炊いた白米、サワークリーム、マシュマロ、白桃、ライチ、和梨、青りんご、スダチ、スウィーティー、スペアミント、若草、瓜

甘辛度:
やや辛口

具体的な味わい:
柔らかくすっきりした飲み口、滑らかでふくらみのある旨味が主体、後味はシャープですっきりしている、白桃やスダチ、スペアミントを思わせる含み香

おすすめの温度帯:
12℃前後にて、柔らかくすっきり、清楚でさわやかな果実香を引き出す。
45℃前後にて、滑らかでふくらみがありサラリとした後味を引き出す。

合わせたい食べ物:
カンパチの造り、剣先イカの造り、鯛の塩焼き、桜鯛の天ぷら、ハタハタの塩焼き、キスの天ぷら、サヨリの造り、抹茶のロールケーキ、など

越乃寒梅 純米吟醸 灑(さい)

2019年に、30年ぶり発売された新商品「越乃寒梅 純米吟醸 灑」。「灑(さい)」とは、「水を注いで洗い清める」「さっぱりとしたさま」などの意味を持つ言葉。その名の通り、穏やかな香りとすっきりとした飲み口のお酒でした。飲み飽きしないライトな味わいに仕上がっています。

越乃寒梅 純米吟醸 灑

全体:
シャープですっきり、繊細で柔らかい味わいの爽酒

主体となる香り:
原料香主体、さわやかですっきりとした果実香と淡いハーブ香あり

具体的な香り:
炊いた白米、生クリーム、マシュマロ、白桃、ライチ、マスカット、白ユリ、スダチ、スペアミント、瓜、若草、カシューナッツ、綿飴

甘辛度:
やや辛口

具体的な味わい:
すっきりしながら柔らかい飲み口、繊細で柔らかい旨味が主体、シャープですっきりとした後味、スペアミントやスダチを思わせる含み香

おすすめの温度帯:
10℃前後にて、シャープでさわやかな味わいを引き出す。
38℃前後にて、なめらかで柔らかい味わいを引き出す。

合わせたい食べ物:
茶碗蒸し、出し巻き玉子、鍋焼きうどん、イチゴショートケーキ、白身魚のムース、鱧おとし、かまぼこ、わさび漬け、など

時代に合わせて進化を遂げている「越乃寒梅」

「越乃寒梅」をテイスティングしてみて感じたのは、全体的にしっかりとした甘味や旨味でした。淡麗辛口の範囲内で上手に表現し、原料米の持つ特性を生かしている印象です。一方で、新銘柄の「純米吟醸 灑」で感じたのは、モダンですっきりした味わい。それでも「越乃寒梅」らしい日本酒本来の柔らかさや旨味はしっかりと感じ取れます。

昔ながらの味わいをしっかりと守りつつも、時代に合わせて進化を遂げている「越乃寒梅」。これからも日本酒の歴史に名を残す酒として「越乃寒梅」は人気商品であり続けるのだろうと感じた試飲でした。

(文/石黒建大)

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