沖縄本島中部に位置する沖縄市にある、琉球の伝統とアメリカの文化が混じりあう街「コザ」。その街の中心部のディープな雰囲気のアーケード街の一角に、今回ご紹介する「新潟銘酒 日本酒バー越佐(えっさ)」があります。

越佐外観

新潟出身の店主・坂下さんが、会社を定年退職したのち沖縄に移り住み、オープンしたお店。飲食経験もない坂下さんがお店を立ち上げたのは、地元・新潟のお酒を多くの人に知ってほしいという想いからでした。

常時約40種もの新潟の日本酒が並ぶお店

越佐 杉玉お店の入り口には、蔵元さんからいただいた杉玉が飾られています。ひと目で日本酒のお店だということがわかりますね。外観からも店主の日本酒愛がうかがえます。それでは引き戸に手を伸ばし、店内へ入ってみましょう。

越佐内装

木のカウンターと、3〜4名で利用しやすいテーブル席で構成された店内。客席からも覗ける冷蔵ケースには、棚いっぱいに日本酒が並んでいて、どれから頼むかを考えただけで楽しくなります。

日本酒はすべて新潟のもの、レギュラーメニューだけで35種類以上を用意しています。さらに、その時期にしか手に入らない季節のお酒が、毎月4〜5種類は加わり、店頭には常時約40種もの新潟の日本酒が並びます。

また、日本酒がはじめての方や普段日本酒を飲まない方のために、ビールや焼酎、白ワインなども置いています。

「隠れ家のようなお店で日本酒を楽しんでもらいたい」

店主・坂下さん

店主・坂下さんと、応援しているという地元・長岡市の越銘醸「壱醸」

日本酒が大好きな新潟出身の店主・坂下さん。このお店を開くまではずっとサラリーマンとして会社勤めをされていたとか。大好きな日本酒、特に「新潟のお酒をもっとたくさんの人に飲んでもらいたい」と、定年退職する3年ほど前から飲食店経営の準備を始めます。

新潟から遠く離れた沖縄にやってきたのは、旅行で何度も訪れていた沖縄で、人生の伴侶となる奥さまに出会ったからだそうです。

「隠れ家のようなお店にしたい」と、物件を探し続けて1年間。沖縄市・コザのアーケード街にお店を開くことができました。長年寂しい雰囲気だったアーケード街も、「越佐」を含め、個性あふれるお店が続けてオープンしたことで、今ふたたび活気を取り戻しています。

アーケード街

お店で提供している日本酒は、坂下さんの地元である、新潟県長岡市の「地酒家 五十嵐(いからし)酒店」から仕入れています。

約35種類あるレギュラーメニューの銘柄は、五十嵐酒店の店主と坂下さんが相談して決めたもの。地元の新潟でしか手に入らない銘柄を、沖縄の地で飲めるのも、「越佐」の大きな魅力です。

おすすめの日本酒

これだけの種類があっても品質管理を徹底して行い、すべてのお酒をおいしい状態で提供しています。

さらに、坂下さんの日本酒に対するこんな思いも聞けました。

「日本酒を開けたら3日で飲み切らなければならない、と思っている方もいらっしゃいます。でも、急いで飲むのはもったいない。時間が経っても日本酒はおいしいんだということも知っていただきたいんです」

「越佐」では、抜栓後の変化する味わいを楽しんでもらいたいと考え、提供時には開栓からの経過日数を伝えるなどの工夫もしています。

さまざまな文化が混じり合う沖縄で楽しむ和食と酒

想天坊 じゃんげ 藤蛇 おりがらみ純米吟醸生

「それでは、まずは一杯」と、坂下さんにおすすめをお願いすると、でてきたのは「想天坊(そうてんぼう)  じゃんげ 純米吟醸 おりがらみ 生」(120ml・900円)。新潟県長岡市の河忠酒造が醸すお酒です。

この「じゃんげ」シリーズは、新潟の辛口酒のなかでも坂下さんのお気に入り。「いつもどおり溢れさせてもいいですか?」と、グラスいっぱいに注いでくださいました。

日本酒

飲むとすっきりとしたキレのある味わいで夏らしいお酒ですが、そこに旨味がしっかりと乗っています。常温に近づくにつれてフルーティだった香りは落ち着き、よりすっきりとした印象が際立ちます。

塩辛

おつまみには「塩辛3種」(500円)をいただきました。左から順に、甘めのホタルイカ、柚子風味のイカの塩辛、タコのわさび風味。これらの塩辛もすべて新潟産のものです。

「高そうなお店だと思っていたので、なかなか入れなかった」と、地元のお客さんから言われることが時々あるそうですが、しかし、実際に入店してみると価格はとてもリーズナブル。2,000〜3,000円でも十分に楽しめる日本酒バーです。

いろいろ飲みたい方には、3種類のお酒で1合分飲める「飲み比べセット」がおすすめです。本醸造セットなら1,000円、純米酒セットなら1,200円、本醸造・純米・純米吟醸のミックスは1,200円、とお酒の種類によって価格が変わります。

津軽びいどろのぐいのみグラス

飲み比べは、「津軽びいどろ」のぐいのみグラスで。美しいハンドメイドの酒器でいただくのも、お酒の楽しみ方のひとつです。

あゆ

季節のお魚を頼むと、この日はたまたま入荷していたという「アユの塩焼き」を出してもらいました。

坂下さんはお店を開くまでサラリーマンだったこともあり、飲食店で修行したことはないそうですが、十分においしい料理がお酒と一緒に楽しむことができます。沖縄は「チャンプルー文化」と呼ばれるように、さまざまな文化が入り混じった地域。特にお店のあるコザはその傾向が強く、このような和食がいただけるお店は貴重です。

料理と日本酒のペアリングといった決め打ちは、あえてしていません。その理由は「人によって好みも味の感じ方も違うから」。お客さんとの会話の中で好みを知り、その人にあった日本酒を薦めることを心がけているそうです。

「新潟といえば『淡麗辛口』のすっきりしたお酒のイメージがあると思いますが、甘めのお酒もあるんですよ」と、2杯目におすすめしてもらったのが、こちらのお酒です。

「千代の光 特別本醸造」

新潟県妙高市の千代の光酒造が醸す、「千代の光 特別本醸造」(120ml 800円)です。

甘めといっても舌に残るような甘さではありません。まろやかで優しい口当たり、そして、全体の印象はすっきりとしています。冷やしても燗でもいけるお酒で、毎日飲みたくなるおいしさです。

地元の蔵巡りで気がついた日本酒の魅力

坂下さんの実家がある新潟県長岡市は、車で10分圏内に日本酒蔵が2軒、20キロ圏内なら20軒はある、日本酒好きにとって恵まれた環境です。坂下さんは、新潟県内のさまざまな蔵を訪れ、話を聞いてまわるうちに日本酒の魅力にどんどんとはまっていきました。

外観と店主

「小さい蔵でも、おいしいお酒を造る蔵がたくさんあることを伝えたいです」と、地元の日本酒に思いを馳せながら、自分で開いたこのお店を「動けるかぎり続けたい」と話してくれました。

地元・新潟のお酒を、沖縄の地で愛を持って提供する「新潟銘酒 日本酒バー越佐」。沖縄県民の方にも、沖縄を訪れる旅行者の方も、日本酒に興味のあるすべての方に自信を持っておすすめできる良店です。

(文・写真/嘉手川瑞姫)

◎店舗概要

この記事を読んだ人はこちらの記事も読んでいます