お酒と言えば、泡盛のイメージが強い沖縄県。そんな沖縄県で唯一、日本酒を造っている酒蔵があります。
今回は、沖縄県で唯一の日本酒「黎明」を醸している「泰石(たいこく)酒造」を紹介します。
1967年から半世紀以上続く、沖縄での日本酒造り
那覇市内から北へ50分ほど車を走らせたうるま市に、沖縄県唯一の酒蔵「泰石酒造」があります。1月下旬の少し肌寒い日に、次の仕込みを控えた蔵元に話を伺いました。
1952年に創業した泰石酒造は、もともと米軍向けの蒸留酒を造る酒蔵だったそうです。創業者の安田繁史氏が「亜熱帯に属する沖縄県でも、美味しい清酒を造りたい」という熱い思いで、1967年から日本酒の製造をスタートさせました。翌年には、沖縄県初の日本酒「黎明」を発売。現在は、2代目の安田泰治氏が蔵を切り盛りしています。
しかし沖縄県は、他の都道府県に比べると日本酒造りに適した環境とは言えません。
たとえば、酒造りの要となる米。県内には、高精米に対応している施設がないため、はるばる九州で磨かれた原料米を仕入れているそうです。さらに、湧水が豊富だったことから具志川市(現在はうるま市)に蔵を興したにもかかわらず、時代とともに水質が変わってしまい、今は県北部から引いてきた天然水を軟水処理して使用しているのだとか。また、県内に同業者がいないため、技術や情報の交換ができないという側面もあります。
そんな環境のなか、決して大きいとは言えない蔵のあちこちから、作業をしやすくするために考案された独自の工夫や試行錯誤が感じられます。「技術の力を借りて、温度管理を怠らないようにしても、自然の影響で発酵が進みすぎてしまうこともあります。そんなときに、どうやって酒質を保つかというのは、造り手自身の経験と判断に委ねられているのです」と、安田社長は語ります。
造りに不向きな環境下で、半世紀以上も日本酒を造り続けてきた原動力について伺うと「先代の思いを途絶えさせたくないから」という答えが返ってきました。やわらかい物腰のなかにある、安田社長の強い信念を垣間見たような気がします。
「12月単月の前年対比(2016年と2017年)では、12%の売上増でした。ゆくゆくは県産米を使って、純沖縄県産の日本酒を造りたいと考えています。やりたいことは他にもたくさんありますが、本州で仕事をしている息子が蔵に戻って、いっしょに酒造りをするのが一番の楽しみですね」と、にっこり。いち日本酒ファンとして、その日を心待ちにしたいと思います。
沖縄料理に合わせたい南国の日本酒「黎明」
現在、泰石酒造で造られている日本酒は本醸造酒と純米吟醸酒のみ。本醸造酒はヒノヒカリを中心としたブレンド米を使用し、コクのあるとろりとした口当たりが特徴。40℃前後に温めると、特に旨味が際立ちます。沖縄の定番料理、豚バラを贅沢に使った「らふてー」や、衣がたっぷりついた「うちなーてんぷら」にもよく合いそうです。
純米吟醸酒には佐賀県産の酒米である「レイホウ(麗峰)」を使っています。こちらは12℃前後に冷やしてスッキリといただくのがおすすめ。大豆の味わいが濃厚な「島豆腐」や、さっと炒めたシーフードに合わせたいお酒です。
少量生産のため、本州ではなかなか目にすることができない南国の日本酒「黎明」。機会があればぜひ飲んでみてください。
(文/沼田 まどか)