毎年3月3日は、女の子の健やかな成長を願う「ひな祭り」。「桃の節句」とも呼ばれています。

ひな祭りでは、「白酒」というお酒を飲む慣習があります。中国の「白酒(パイチュウ)」とは異なるお酒ですが、ひな祭りの「白酒」はどんなお酒なのでしょうか。

「ひな祭り」の起源は厄払い

ひな祭りはもともと、四季を彩る五節句のひとつ「上巳(じょうし)の節句」でした。この日は、古代中国では忌日(いみび)とされ、そのけがれを祓うために水辺で身体を清め、厄払いが行われていました。

ひな祭りが「桃の節句」と呼ばれているのは、旧暦3月3日は現在の4月ごろにあたり、桃の花が咲く頃だったことが由来になっています。その厄払いの儀式が平安時代のころに日本へ伝来し、土や紙の人形にけがれを移して水に流す「流しびな」の行事となり、貴族の子どもたちの間で「ひいな遊び」という人形遊びとなりました。

雛人形

その後、江戸時代になると、武家や商家の間で旧暦3月3日に雛人形を飾ることが流行します。雛人形を飾って「白酒」を楽しむようになったのは、この時代からだそうです。

その理由には諸説あります。大蛇を宿してしまった女性が3月3日に「白酒」を飲んだところ、胎内の大蛇を追い出すことができたという言い伝えから、女性の厄払いのために「白酒」を飲むようになったという説や、400年以上の歴史をもつ東京の老舗酒蔵「豊島屋」が桃の節句に「白酒」を売り出すとそれが大人気となり、毎年の風物詩になったからという説もあります。

「金婚」を製造・販売する「豊島屋酒造」は現在でも白酒を販売し、伝統を引き継いでいます。いずれにしても、「白酒」は当時から大人のためのものだったようです。ひな祭りは、女の子だけでなく、大人の女性も参加する儀礼だったのですね。

アルコールが含まれる「白酒」

「白酒」とは、どんなお酒なのでしょうか。よく知られている『うれしいひなまつり』の曲にこんな歌詞があります。

あかりをつけましょ ぼんぼりに
お花をあげましょ 桃の花
五人ばやしの 笛太鼓(ふえたいこ)
今日はたのしい ひな祭り
(中略)
金のびょうぶに うつる灯(ひ)を
かすかにゆする 春の風
すこし白酒(しろざけ) めされたか
あかいお顔の 右大臣(うだいじん)

出典:『うれしいひなまつり』作詞 サトウハチロー

古来中国では、春に咲く桃の花を大事に愛でていました。その思想が日本に伝わると、桃の節句には「桃の花をお酒に浮かべて飲むことで、健康になる」と考えられるようになりました。そして、ひな祭りには桃の花を浸した「桃花酒」が欠かせないものとなり、そのお酒として、桃色をきれいに引き立てる、色の白い「白酒」が使われるようになったのです。

白酒

「白酒」とは、みりんや焼酎などに、蒸したもち米や米麹を入れ、約1ヶ月熟成させたものを、軽くすりつぶして造ったお酒です。

色味や質感の似ている「甘酒」は、ご飯やおかゆに米麹を混ぜて保温し、米のデンプンを糖化させたもの。米麹から造る甘酒には、アルコールがほとんど含まれていないので、「白酒」と「甘酒」の違いは明確ですね

白酒を注ぐ大役を担うのは「三人官女」

雛人形

ひな人形では「白酒」を注ぐ役目を持つ「三人官女」。日本の祭事や儀式において、お酒は神や高貴な存在に捧げる飲み物とされ、欠かせないものでした。そんな「白酒」をお内裏様に注ぐ重大な責務を担っています。

特に、真ん中の「三人官女」に注目。眉そりとお歯黒は既婚女性、もしくは年長の女性の証。真ん中の官女は、3人のうち、一番の先輩にあたります。

「三人官女」が持つ道具は、向かって右から、長柄銚子(ながえのちょうし)、三方(さんぽう)に載った盃(さかずき)、提子(ひさげ)。順序としては提子(金属製の小鍋形の銚子)に入った「白酒」を長柄銚子(長い柄のついた道具)に入れ、真ん中の官女が捧げ持つ盃(または三方に載った盃)に注ぎます。

次の季節を迎える伝統行事

「白酒」は、ひな祭りに欠くことのできない飲酒文化です。特に、医療が発達していない江戸時代には、季節の変わり目に体調を崩す人が少なくありませんでした。

薬効成分を含むと言われている桃の木をお酒に入れ、健康を願って次の季節を迎える文化は、四季の豊かな日本らしい伝統行事といえるでしょう。現在では、桃の節句に合わせて、さまざまな日本酒が販売されています。今年のひな祭りは「白酒」を楽しんでみてください。

※ 未成年の飲酒は法律で禁止されています。

(文:SAKETIMES)

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