2016年、山形県の4蔵がユニットを結成しました。その名は「山川光男(やまかわみつお)」
昨年発売されたお酒のラベルには、頭の上に酒瓶を乗せたおっさん風のキャラクターが描かれており、ユニットの存在を4人に代わって宣伝するという趣向になっています。
全国各地に酒蔵ユニットが続々と誕生していますが、この山川光男はそれらとは一線を画す手法で注目を集めています。
山川光男がどのようにして誕生したのか、そして今後はどうなっていくのかを蔵元のみなさんにうかがいました。
4つの実力派蔵元が集結
まずは、昨年リリースされたお酒のラベルでユニットの趣旨を語っているのでご紹介します。
山川光男(やまかわみつお)は、
山形県内の4蔵元が結成した志のあるユニット。
銘柄の一文字ずつを取って名づけられ、
生命を吹き込まれました。
山川光男は、これから色々な面白いことをやっていきます。
創り出した私たち自身の手を離れて、
日本酒や、日本の農業や、世界の平和のために
活躍してくれることを祈っています。
参加している4人は
「"山"形正宗」 (水戸部酒造 / 天童市)の水戸部朝信さん
「楯野"川"」 (楯の川酒造 / 酒田市)の佐藤淳平さん
「東"光"」 (小嶋総本店 / 米沢市)の小嶋健市郎さん
「羽陽"男"山」 (男山酒造 / 山形市)の尾原俊之さん
いずれもアラフォーの蔵元で、それぞれが美酒を造っている実力ある酒蔵です。
"蔵元の交換留学"からはじまったユニットの活動
2014年夏、グループ結成を呼びかけたのは最年長の水戸部さんでした。
「秋田や会津が、美酒王国の山形に追いつけ追い越せとがんばっているのを見て、我々山形の酒蔵も何かできないかと考えたのです。そこで、エネルギーのありそうな人に声をかけて結成しました。ただ、それまでとりわけ仲良くしていたわけではないので、まずはお互いが何でも話せる仲になることが必要と考え、頻繁に集まっては酒を飲みながら、交流を深めることにしました」と、水戸部さん。
1年余りが経ち「蔵人の交換留学」と「共同醸造」に取り組むことになり、酒蔵ユニットのネーミングを検討しました。そこで発案したのも水戸部さんでした。
「僕が好きなバンドの世界ではグループ名を決める時に、メンバーの苗字を少しずつ取って組み合わせるというケースが多いので、それを当てはめようとあれこれ考えて。みんなで飲んだ後のラーメン屋で、擬人化したらおもしろいなあとぼんやり考えながら、4蔵の銘柄を頭に思い浮かべているうちに湧き出したのが『山川光男』だったんです。いい仕事ができたと思っています」
小嶋さんは「4人のだれでもない、もうひとり。5人目の山川光男がいるという設定にピンときました。ふざけたおっさんが別にいるので、みんなで楽しくいじって、おもしろくしていこうと一致しました」と話しています。
最初の活動は「蔵人の交換留学」。たった数日間ですが、相互に蔵人を送り込んで、各蔵の酒造りを体験させるというものです。
酒蔵は基本的に同じ手順で日本酒を造っているものの、酒屋萬流というように作業内容はそれぞれの蔵で微妙に異なるもので、蔵人にとっていい経験になるのではと思い、始めたそうです。
ふたを開けてみると、
「自分の蔵では当たり前になって気づかなくなっていることがある。留学すると、よりよい手法に気づいて帰ってくる。長く勤めている蔵人ほど、効果がある」(佐藤さん)
「2~3時間の蔵見学では、あえて説明を受けないようなちっちゃい工夫を見つけて、拾って帰ってくる。それだけで大きな成果」(小嶋さん)
「留学から帰ってきた蔵人は口を開けば、あちらの蔵ではああだったと改善をうるさく催促するように変わった」(尾原さん)
と、交換留学だけでもじゅうぶんな効果が上がったそうです。
山川光男の「共同醸造」は、4人がひとつの蔵に集まって各工程ごとに担当を分けて醸す、という他のユニットがやっているスタイルではありません。酒造りを担当する酒蔵が麹や仕込み水、酒米などを他の蔵からもらって醸す、という変則的な共同醸造をしています。
2017年1月下旬に水戸部酒造から発売された「山川光男」は、男山酒造と小嶋総本店から麹を受け入れて造ったそうです。
水戸部さんは「それぞれ麹の個性がまったく違う。うちの麹はごついタイプですが、小嶋さんのはきれい、尾原さんのはかわいい。出来上がる酒もそれぞれ違うでしょう」と話していました。
ただ、4人は「山川光男のお酒は、キャラクターを眺めながら、あれこれいじって楽しみながら呑んでほしいだけで、僕らがどういう造りをしたかについては、わかってもらう必要はありません。もちろん、本気で美酒を造っていますけどね」と口を揃えます。
この春以降も山川光男のお酒は各蔵が輪番で造っていくそうです。
楽しみながら山形清酒のブランド力をつけていく
今後、ユニットが目指す方向について、水戸部さんは次のように語っています。
「お酒を出して、メディアに取り上げてもらって、キャラクターの名前が広がったのはよかったが、我々の最終的な目的は山川光男のお酒を売ることではなく、山形清酒の認知度を上げていくことです。
ブルゴーニュのように山形に産地としてのブランド力をつけていく。
米をたくさん使うことで地域の田んぼを守り、農地保全の一翼を担っていく。
そんな理想を肩肘張らずに、思い切ってふざけて、楽しみながら実現したいと思っています。そういう趣旨に賛同してくれれば、日本酒以外のシーンにも山川光男はどんどん出張っていきます」
山川光男の活動領域がどのように広がっていくのか、興味津々です。
(文/空太郎)
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