千葉県・飯沼本家が2016年にスタートした「酒々井の夜明け」は、酒造りのシーズンが始まって最初のお酒を24時間以内にお客さんのもとへ届けて、フレッシュな味わいを楽しんでもらおうというプロジェクトです。初年度に行なったクラウドファンディングで1,000万円以上の資金を調達するなど、注目を浴びています。

年を追うごとに注文数が伸びているという「酒々井の夜明け」。実際、商品を販売する酒屋では、どのような反応があるのでしょうか。今年の発売日に、2軒の酒屋を訪れました。

「酒々井の夜明け」とは?

「酒々井の夜明け」は、千葉県産の原料のみにこだわった純米大吟醸酒。県産の酒米「ふさこがね」を50%まで精米し、地元・酒々井の水で酒造りをしています。今年は11月8日に搾りを行ない、11月9日に晴れて発売となりました。

新酒らしいフレッシュで華やかな香りや、なめらかな舌触りと搾りたての瑞々しさが感じられる、飲み心地の良い一本です。

蔵元の熱い思いに共感

町田市の「さかや 栗原」外観

最初に訪れたのは、町田市成瀬で創業40年を超える「さかや 栗原」。麻布に支店をもち、昨年には隣の町田駅に立ち飲みの日本酒バーをオープンさせるなど、勢いのある酒屋です。

「さかや 栗原」の「酒々井の夜明け」特設売り場

店内に入ると、「酒々井の夜明け」のポスターが一番目を引く場所に配置されていました。店を挙げて、このプロジェクトを推していることが伝わります。

「さかや 栗原」冷蔵庫内のPOP

実際の商品棚には手作りのポップもありました。

今年の取り扱いは、およそ1,000本とのこと。そのうち9割が、事前予約で埋まってしまったそうです。そのほとんどが個人のお客さんで、店内の壁には「売約済」の札がズラリと並んでいました。

「さかや 栗原」代表取締役の栗原信利さん(写真左)と店長の栗原快さん

「さかや 栗原」代表取締役・栗原信利さん(写真右)と店長・栗原快さん(写真左)

代表取締役の栗原信利さんと店長の栗原快さんに話をうかがいました。

「初めて取り扱ったのは昨年ですね。お客さんに勧めると、試しに買ってくれる人がたくさんいました。しかも、飲んだ数時間後に『まだありますか?』と連絡をくれるお客さんもいて、手応えがありました。飲食店でも、すごく評判が良かったですよ」(快さん)

昨年の反響を受けて、今年は倍以上の本数を仕入れたのだそう。今回の味わいは「1杯飲んだ人がおかわりをしたくなるような飲みやすさがある」と、太鼓判を押していました。

「さかや 栗原」の「酒々井の夜明け」の店内POP

「そもそも、飯沼本家さんのシュワシュワ感を出すような酒質に魅力を感じていました。『酒々井の夜明け』を取り扱うことに決めたのは、常務の飯沼さんからプロジェクトにかける熱意を聞いたのがきっかけですね。また、日を決めて『日本酒ヌーボー解禁』というイベント性をもたせるのもおもしろいと思いました。みんなでいっしょに盛り上がれるのは、このプロジェクトの魅力です」(快さん)

「さかや 栗原」の「酒々井の夜明け」特設売り場

今年はよりいっそう力を入れるべく、スタッフ全員が飯沼常務の話を聞く時間を設けて、ひとりひとりが「酒々井の夜明け」のコンセプトをしっかりと伝えていけるように意識したそうです。その成果か、お客さんからの反響は昨年よりも大きかったのだとか。

「酒蔵と酒屋がバラバラに動くのではなく、これからも協力していきたいですね」(信利さん)

「プロジェクトを通して飯沼本家さんと長くお付き合いしていきながら、お客様にもっと日本酒の楽しさを知ってもらえるように努力していきたいです」(快さん)

酒蔵と酒屋が一丸となって取り組む「酒々井の夜明け」は、今後もますます盛り上がっていきそうです。

絶対の信頼を寄せる、飯沼本家の味

飯沼本家の地元・千葉県の酒屋では、どのような反応があったのでしょうか。

市川市の酒屋「成桝商店」の外観

千葉県市川市で明治から続く酒屋「ささ蔵 成桝」では、今年の取り扱い1,300本が予約時点で完売したそうです。

市川市の酒屋「成桝商店」の店長、石原敏子さん

「ささ蔵 成桝」社長の石原敏子さん

店を切り盛りして50年という、業界内の信頼も厚い社長・石原敏子さんに話を聞きました。

駅から少し離れているため、お客さんは近隣住民の方々が多いのかと思いきや、「横浜や西東京のほうから来られるお客さんもいますよ」と石原さん。遠方からも日本酒ファンが駆けつけるほどの魅力があるようです。

市川市の酒屋「成桝商店」の店内

店内には日本酒以外にも、焼酎や手作り味噌、調味料、お菓子など様々な商品が並んでいます。もちろん、日本酒の品揃えは抜群。冷蔵庫だけでなく、「ささ蔵」と名付けられたセラーにも日本酒がギッシリと。さらに、商品のほとんどが無料で試飲できるそうです。

「味をみてもらわないと話にならないからね。買わなくてもいいから、実際に飲んで本当に気に入ったものを見つけてほしいと思っています。試飲用の日本酒と焼酎はだいたい270~280本くらいあるので、どれでも充分に試し飲みができますよ」

店で取り扱うお酒は、石原さん自身が美味しいと感じ、納得してお客さんに勧められる銘柄のみとのこと。

「気にしているのは、お酒のキレですね。キレが悪いと、開けてからどんどん味が変質していくんですよ。逆に、キレの良いお酒は味上がりしていきます」

市川市の酒屋「成桝商店」の玄関

そんな石原さんに「酒々井の夜明け」の味わいについてうかがいました。

「もともと飯沼本家のお酒を扱っていたので、安心感や信頼感がありました。11月上旬に搾りたての純米大吟醸酒を出すのはとても難しいことですが、設備が整っていて清潔で、高い秘術をもっている飯沼本家だからこそできることだと思います。

今年もお客さんに『酒々井の夜明け』が出ることをお知らせしたら、みんなに感謝されました。そうやって喜んでくれる人が多いのは、それだけ美味しいということだと思いますよ」

「成桝商店」の壁面に貼られたPOP

店内のあちこちに手作りのイラストやポップが飾られ、愛情をもって日本酒と向き合っている様子が伝わってきました。

「お客様との信頼関係を大事にしています。良いものを提供してお客さんに喜んでもらう。それが私の役目だと思っています。だからこそ、これからもお客さんが喜んでくれるお酒を造り続けてほしいですね。みんなが笑顔になるお酒が一番です」

「日本酒ヌーボー」という新しい楽しみ方

「さかや 栗原」の「酒々井の夜明け」特設売り場

酒蔵の初搾りをお客さんに届けるプロジェクト「酒々井の夜明け」がスタートして3年。関係者や日本酒ファンを中心に、少しずつ「日本酒ヌーボー」の文化が浸透してきました。

あるリピーターのお客さんは、息子さんと飲むために「酒々井の夜明け」を購入されていました。「昨年試しに買ってみたら、息子がすごく気に入ってくれて。今年もいっしょに飲みたいと思っています」と、嬉しそうな笑顔を見せてくれました。

「酒々井の夜明け」のボトル

「酒々井の夜明け」に賛同した酒屋への取材を通して、「日本酒ヌーボー」のプロジェクトが多くのお客さんに伝わっていることを実感できました。今後、業界全体を盛り上げる大きな力になっていくことが期待できそうです。

(文/橋村望)

◎取材協力

  • さかや栗原 町田店
  • 住所:東京都町田市南成瀬1-4-6
  • 電話:042-727-2655
  • ささ蔵 成桝
  • 住所:千葉県市川市国分4-1-30
  • 電話:047-372-4753

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