2026年、世界最高峰のワイン品評会「International Wine Challenge(インターナショナル・ワイン・チャレンジ/IWC)」に「SAKE部門」が誕生してから、20年という節目を迎えました。

かつて海外では、知る人ぞ知る存在だった日本酒。しかし現在は、IWCのSAKE部門の上位入賞をきっかけに酒蔵が世界的な注目を獲得し、それが地域全体のブランド化を推進、さらに国の外交の場を彩るまでになりました。

「IWC 2025」の表彰式の様子(写真提供:山梨銘醸)

「IWC 2025」の表彰式の様子(写真提供:山梨銘醸)

IWCのSAKE部門は、どのようにしてこれほどの世界的な影響力のあるコンテストへと成長し、日本の酒蔵や地域の価値を大きく変える存在となったのでしょうか。

SAKE部門創設のキーパーソンであるIWCアンバサダーの平出淑恵(ひらいで・としえ)さんと、日本酒造青年協議会の代表(当時)として設立に尽力した、宮城県の銘酒「浦霞」を醸造する株式会社佐浦 代表取締役社長の佐浦弘一(さうら・こういち)さん。2人の話から、日本酒の価値を世界基準へと引き上げた20年間の軌跡を紐解きます。

世界が信頼を寄せる、公正かつ厳格な審査

イギリスのロンドンで1984年から毎年開催されているIWCは、「世界でもっとも大きな影響力のあるワインコンテスト」といわれるほど、世界的な規模と権威を誇るワイン品評会。2007年にSAKE部門が誕生してからは、日本酒の海外進出における重要なコンテストとして、酒蔵を中心に国内外の関係者から注目されてきました。

最大の特徴は、徹底した公正さと厳格さです。審査会はすべて、銘柄などの情報を隠したブラインドテイスティングで行われ、世界各国から集結した専門家がディスカッションをしながら評価する合議制が採用されています。

「IWC 2026」の審査会の様子(©Keisuke Irie)

「IWC 2026」の審査会の様子(©Keisuke Irie)

審査会は3日間にわたって実施され、1〜2日目の審査で「Gold(ゴールドメダル)」「Silver(シルバーメダル)」「Bronze(ブロンズメダル)」「Commended(大会推奨酒)」をそれぞれ選出。3日目に「Gold」を獲得した出品酒の中から、各カテゴリーのトップである「Trophy(トロフィー)」を決定します。

そして、各カテゴリーのトロフィーの中から1点に、SAKE部門の最高賞である「Champion Sake(チャンピオン・サケ)」の称号が与えられます。

SAKE部門の初回(2007年)は、全5カテゴリーに合計228点の出品でしたが、2026年は、合計1,738点が出品されるまでに規模を拡大。古酒や熟成酒、スパークリング、そして今年新設されたフレーバー・サケなど、現在は全11カテゴリーがあり、日本酒の多彩な魅力を世界へ発信しています。

「銘柄」と「産地」が評価されるワインの世界

SAKE部門創設の立役者のひとりが、2010年からIWCのアンバサダーを務める、酒サムライコーディネーターの平出淑恵さんです。

平出さんは、もともと日本航空(JAL)の客室乗務員で、ソムリエの資格をもつ客室乗務員が講師を務める「空とぶソムリエのワイン教室」(当時)の一員としても活動していました。

2000年代初頭、JALとJAS(日本エアシステム)の統合によって国内線で仕事をする機会が増えた平出さんは、日本各地を訪れるたびに、高齢化や過疎化への危機感を募らせていたといいます。

IWCアンバサダー 平出淑恵さん

IWCアンバサダー 平出淑恵さん

「夜になると真っ暗になる商店街や、1時間に1本しか来ない電車。ちょうど自分の子どもが小学校に入学したころで、少子化を目の当たりにしていたこともあって、『日本の地方をなんとか活性化することができないか』と考えていました」

そんなとき、ロンドンのワイン教育機関「Wine & Spirit Education Trust」(WSET)から、JALの「空とぶソムリエのワイン教室」を運営する日本航空文化事業センター(当時)への提携の依頼が舞い込みます。平出さんの頭に「ワインのインフラを活用して世界に日本酒を売り込むことが、地方を元気にすることにつながるのではないか」というアイディアがひらめきました。

「ワインの世界では、銘柄と産地が必ずセットで紹介されます。世界的に有名なワイナリーの隣にあるハチミツ農場の商品が『あのワインと同じブドウの花の蜜かもしれない』と価値が上がる可能性もあるほど、産地への注目度が高いのです。

日本酒の酒蔵も、長い歴史の中で地域の発展に貢献してきました。ワインの世界の人々に日本酒を知ってもらうことで、『SAKEから観光立国』といえる地域のブランド化が実現するのではないかと考えました」

平出さんは、業界の集まりで知り合った日本酒とワインの専門店・横浜君嶋屋の君嶋哲至(きみじま・さとし)さんに、こうした海外への啓蒙活動に興味のある蔵元はいないだろうかと相談。4軒の酒蔵(「浦霞」の佐浦、「満寿泉」の桝田酒造店、「天狗舞」の車多酒造、「いづみ橋」の泉橋酒造)を紹介してもらい、ロンドンのWSETで日本酒セミナーを開催します。

2003年にロンドンのWSETで開催された日本酒セミナーの様子(写真提供:佐浦)

2003年にロンドンのWSETで開催された日本酒セミナーの様子(写真提供:佐浦)

「そのセミナーに参加していたマスター・オブ・ワイン(※)のサム・ハロップさんから、『状態の良い日本酒を初めて飲んだが、大きな可能性を感じる』という言葉をいただいたんです。彼が来日したときは京都の酒蔵を案内し、日本酒への関心をさらに深めていただきました。

2005年、彼がIWCの審査最高責任者のひとりに選ばれたとき、『IWCにSAKE部門を立ち上げるから、手伝ってほしい』という連絡をいただいたんです。鳥肌が立ちましたね」

※マスター・オブ・ワイン(MW):イギリスのマスター・オブ・ワイン協会が認定する世界最高峰のワイン資格。

「教育の場」としてのコンテストの重要性

IWCへのSAKE部門の設立という絶好の機会。セミナーに協力してくれた酒蔵に平出さんが相談したところ、「浦霞」の佐浦が会長、「満寿泉」の桝田酒造店と「天狗舞」の車多酒造が副会長を務めていた若手蔵元による全国組織「日本酒造青年協議会」が、SAKE部門のパートナーとして尽力することになります。

佐浦 代表取締役社長の佐浦弘一さんは「IWCのSAKE部門は、いろいろな偶然やご縁が重なり合って生まれたものです」と、当時を振り返ります。

株式会社佐浦 代表取締役社長 佐浦弘一さん

株式会社佐浦 代表取締役社長 佐浦弘一さん

佐浦さんたちは、平出さんの「日本酒が海外に普及するためには、ワインのネットワークに乗せることが必要だ」という考えに賛同し、IWCのSAKE部門とWSETの日本酒セミナーの立ち上げに関わるようになりました。

「家業である酒造業に就く前、まったく違うビジネスを経験しようと思い、日本コカ・コーラに就職したのですが、ここで海外市場への関心が高まり、ニューヨークへ留学しました。当時、アメリカでの日本酒需要は日本食レストランや日系人のコミュニティがほとんどで、ローカルな市場では日本酒は知られていませんでした。

1999年からフランス・ボルドーの『Vinexpo』(ヴィネクスポ)というワインイベントに出展し始めましたが、現地で『SAKE』を頼むと中国の蒸留酒が出てくるような状況で。『自国の言葉で日本酒を説明できる人を増やさなければ広がらない』と、教育の重要性を痛感していたんです」

「IWC 2008」の審査会の様子(写真提供:佐浦)

「IWC 2008」の審査会の様子(写真提供:佐浦)

佐浦さんは、IWCやWSETの拠点であるロンドンを「ワインのビジネスやジャーナリズムのハブであり、影響力が大きい」と評価。ほとんど手弁当だったという第1回のSAKE部門では、出品に必要な酒蔵向けの情報の整理から発表会場の準備まで、日本酒造青年協議会のメンバーが手がけました。

最終的に合計228点の出品酒が集まり、記念すべき第1回のチャンピオン・サケには、菊姫合資会社(石川県)の「鶴乃里 山廃純米」が選ばれました。

「どのような日本酒がチャンピオンになるかは、コンテストとしての信頼性に直接影響します。菊姫さんのようなクラシックなお酒が選ばれたことが、IWCの良い印象につながったと思います。当時の日本酒市場は華やかな香りや味が評価される傾向でしたが、IWCでは香りと味のバランスというワイン的な判断軸が重要視されることも見えてきました」

「IWC 2007」の表彰式の様子(写真提供:佐浦)

「IWC 2007」の表彰式の様子(写真提供:佐浦)

開催の初期は、審査会とセットで日本酒セミナーを実施し、世界中から集まる酒類の専門家に日本酒の知識と魅力をレクチャーしました。IWCは、単なる品評会ではなく、海外のプロフェッショナルに日本酒の価値を伝える教育の場としても、機能し始めたのです。

受賞が地域を変え、国の外交をも動かす

SAKE部門の誕生から20年。いまでは、1,700点以上の出品酒が集まる大きなコンテストへと成長した理由を、佐浦さんは「受賞結果が酒蔵のビジネスや地域経済にダイレクトに影響を与えるから」と分析します。

「IWC 2011」のチャンピオン・サケ「鍋島」(富久千代酒造/佐賀県)(写真提供:富久千代酒造)

「IWC 2011」のチャンピオン・サケ「鍋島」(富久千代酒造/佐賀県)(写真提供:富久千代酒造)

「2011年に『鍋島』がチャンピオンに選ばれたときは、佐賀県の他の酒蔵も受賞を喜び、地域全体のPRにつなげようという連帯感が生まれました。翌年には、自治体を巻き込んで『鹿島酒蔵ツーリズム』が立ち上がり、地域観光の大きな目玉へと発展したのです」

平出さんは、2015年にほまれ酒造の「会津ほまれ」がチャンピオン・サケとなったことが、2011年に発生した東日本大震災からの風評被害を払拭する一助になったと話します。

「表彰式の会場に着くやいなや、IWCディレクターのクリス・アシュトンさんが『トシ、福島だ!今年のチャンピオンは福島だぞ!』と駆け寄ってきました。IWCの受賞が地域のブランド化を後押しするという実績があるからこそ、海外の彼らも『この受賞が福島のイメージを変えてくれる』と、我がことのように喜んでくれたんです」

「IWC 2015」のチャンピオン・サケ「会津ほまれ」のほまれ酒造(福島県)の代表取締役 唐橋裕幸さん(中央)(写真提供:ほまれ酒造)

「IWC 2015」のチャンピオン・サケ「会津ほまれ」のほまれ酒造(福島県)の代表取締役 唐橋裕幸さん(中央)(写真提供:ほまれ酒造)

さらに、2018年に山形県で審査会が開催された際には、古酒トロフィーを獲得した地元・加茂川酒造の「貴醸大古酒 古時計」が、マカオの高級ホテルで80万円という高値で即完売するなど、日本酒の潜在的な価値を証明してみせました。

こうした実績は国をも動かします。2012年には政府主導で「國酒プロジェクト」が立ち上がり、関係省庁が日本酒の輸出振興を推進。現在では、IWCの受賞酒が外務省の在外公館の日本酒リストに採用され、各国要人との会食や天皇誕生日の祝賀レセプションなど、日本の外交の表舞台を彩っています。

人と縁がつないだ20年─世界基準となった「SAKE」

平出さんと佐浦さんがそろって口にするのは、「IWCはもっともインターナショナルな日本酒の評価基準」ということです。現在、世界中で日本酒コンテストが増えていますが、ワインの世界的なネットワークと直結した評価の場として、IWCは揺るぎない地位を築いています。

熱い想いがつながり、はじめは手探りで誕生したIWCのSAKE部門。商品を磨き、酒蔵を育て、地域を元気にし、ついには国境を越えて日本酒の価値を証明し続けた20年。世界基準の評価軸を手に入れたSAKEは、さらなる未来へと走り続けています。

(取材・文:Saki Kimura/編集:SAKETIMES)

2026年の上位入賞酒を楽しめるイベントが10月に開催!

「IWC 2026」のSAKE部門の上位入賞酒を楽しめる日本酒イベント「プレミアム日本酒試飲会」が、10月17日(土)に開催されます。当日は、2026年のトロフィー受賞蔵から25点以上の銘酒が集結します。この機会に、世界が評価した最高峰の日本酒を飲み比べてみてください。

◎イベント情報

  • 名称:IWC2026 SAKE部門受賞 プレミアム日本酒試飲会
  • 日時:2026年10月17日(土)
    【日本酒トークセッション】12:45~13:45
    【第1部】14:00~15:30
    【第2部】16:30~18:00
    ※各部入れ替え制。開始時間の30分前から受付。
  • 会場:YUITO 日本橋室町野村ビル 野村コンファレンスプラザ日本橋 6階
    (東京都中央区日本橋室町2丁目4-3)
    ※受付は5階。
  • 料金:
    【日本酒トークセッション付き第1部】4,800円(税込)
    【第1部のみ】4,800円(税込)
    【第2部のみ】4,800円(税込)
  • チケット販売:Makuakeにて販売中
    ※定員に達し次第、締切となります。
    ※前売券のみの販売となります。当日券の販売の予定はありません。
  • 備考:
    ・すべてのトロフィー受賞酒が提供されるわけではありません。
    ・第1部・第2部両方の参加はできません。

Sponsored by 野村不動産株式会社