山形県天童市に蔵を構える出羽桜酒造。全国の日本酒ファンから愛されている酒蔵ですが、近年は、世界でもっとも影響力があると言われるワインコンテストのSAKE部門にて、毎年1点のみに与えられる最高賞を2度も獲得するなど、海外からの評価も高まっています。

今回は、そんな出羽桜酒造の高い技術をリーズナブルな価格で味わえる定番商品「出羽桜 桜花吟醸酒」を紹介します。

出羽桜酒造の外観

飲み飽きしない食中酒を目指して

出羽桜酒造の創業は、1892年(明治25年)。現在の社長・仲野益美さんで4代目となる老舗酒蔵です。

代表銘柄である「出羽桜」は、地元で愛される日本酒であり続けたいという思いから命名されました。山形県から秋田県にかけての地域を指した旧地名「出羽国」から「出羽」を、さらに日本人に愛されている象徴的な花として「桜」を付けました。創業当初は「白梅」という銘柄がメインで、「出羽桜」は一部の高級酒にのみ使用していたのだとか。

「出羽桜」のコンセプトは、飲み飽きしない食中酒。山々に囲まれた盆地ならではのきれいな雪解け水による優しい口当たりと、なるべく機械に頼らない伝統的な手づくりの製法による、米本来の旨味を感じられる味わいが特徴です。

その美味しさを生み出しているのは、とにかく実直な酒造り。他の酒蔵と異なる特別な工程はありませんが、特に麹造りにこだわっています。米の旨味をしっかりと引き出すことで、食中酒としての魅力を高めています。

出羽桜酒造の商品ラインナップ

現在の製造量は、約7,000〜8,000石(一升瓶換算で約70~80万本)。日本酒の国内出荷量が年々減少している中、この40年間は製造量が大きく変わっていません。それは、この「出羽桜」という銘柄が、多くのファンに愛されていることを示しています。

近年は、世界でもっとも影響力があると言われるワインコンテスト「インターナショナル・ワイン・チャレンジ(International Wine Challenge)」のSAKE部門において、毎年1点のみに与えられる最高賞「チャンピオン・サケ」を2度も獲得するなど、海外での評価も高まっています。

出羽桜酒造のロングセラー「桜花吟醸酒」

出羽桜酒造の定番商品「出羽桜 桜花吟醸酒」は、1980年に発売された、40年以上の歴史をもつロングセラー商品です。

この「出羽桜 桜花吟醸酒」は、日本酒業界における"吟醸酒のパイオニア"としても知られています。この商品を通して、吟醸酒ならではのフルーティーな香りやなめらかでキレの良い味わいに出会い、日本酒の美味しさに目覚めたという人は少なくありません。

出羽桜 桜花吟醸酒

発売されたころ、日本酒は国税庁が定めた「級別制度」をもとに、「特級」「一級」「二級」に分類され、その等級ごとに商品の価格が決められていました。しかし、出羽桜酒造は「より品質の高い日本酒を、より手に取りやすい価格で、より多くの方々に飲んでいただきたい」と考えました。

そこで、品評会に出品するレベルの高い品質をもった日本酒を、あえて国税庁の監査に出さず、価格の低い二級酒として販売したのです。その日本酒こそが、この「出羽桜 桜花吟醸酒」です。

当時、吟醸酒は品評会などに出品するために製造されることが多く、一般の消費者にはあまり知られていませんでした。出羽桜酒造は、酒米を丁寧に精米し、ゆっくりと低温発酵させたこの吟醸酒の美味しさを、より多くの人々に知っていただくために、この「出羽桜 桜花吟醸酒」を造ったのです。

出羽桜酒造の酒造りの様子

「吟醸酒」と大きく書かれたラベルは、発売当時からほとんど変わっていません。この特徴的なデザインは「『出羽桜』という銘柄よりも、まずは『吟醸酒』という言葉を広めたい」という想いから誕生しました。

ちなみに、「出羽桜 桜花吟醸酒」という商品名は、級別制度が廃止された1992年(平成4年)から始まったそうで、それまでは「中吟(ちゅうぎん)」と呼ばれていました。日本酒業界では、「大吟醸酒」を略して「大吟(だいぎん)」と言うことがありますが、酒蔵の最高級品である大吟醸酒に対して、近い酒質を持ちながらもリーズナブルに買えることから、「中吟」という名前が付いたのだとか。

SAKETIMES編集部がテイスティング!

この「出羽桜 桜花吟醸酒」を、SAKETIMES編集部がテイスティングしました。

ワイングラスに注ぐと、洋梨やリンゴなどの果物を思わせる、フルーティーで華やかな香りが立ち上がり、期待感が高まります。吟醸香の手本と言ってもいいほどのバランスの良い香りです。

口に含むと、最初の印象はやわらかい口当たりで、身体に馴染んでいく感覚がありました。香りと同様に果実のような甘みを感じますが、穏やかでくどさはありません。甘みの後に、米由来の旨味もはっきりと感じられますが、全体を通して透明感のある味わいで、すっきりとした印象でした。

全体のバランスが良く、アルコールの苦味はあまり感じません。飲んだ後のキレはシャープですが、それでいて優しい甘みがわずかに残るため、心地の良い余韻でした。

爽やかな甘みやすっきりとした後口を存分に味わうためには、冷蔵庫やセラーでよく冷やして、ワイングラスなど、香りを感じやすい酒器で楽しむのがおすすめでしょう。白身魚のカルパッチョや、トマトとモッツァレラチーズのカプレーゼなど、淡白な前菜料理との相性が良さそうです。

出羽桜酒造 桜花吟醸酒

「出羽桜 桜花吟醸酒」は、"吟醸酒のパイオニア"と呼ばれるにふさわしい、非常に洗練された一本でした。

全体のバランスが非常に良く、香りや味わいの過不足がありません。華やかな吟醸香による高揚感がありながらも、日々の食事にもしっかりと寄り添ってくれる。肩に力を入れずに楽しめる、ほんの少し特別な日本酒という印象でした。

特定の一部のファンに愛される日本酒ではなく、日本酒を飲み慣れていない人も含めて、万人に受けいれられる日本酒だと思います。最近飲んでいない方は改めて、まだ飲んだことがない方はこの機会に、ぜひ飲んでみてください。

(取材・執筆:SAKETIMES編集部)