全国各地の優れた食材やその生産者など、地域の魅力を多くの人たちに知ってもらうプロジェクト「LDH kitchen WALKABOUT 47. JAPAN」は、これまでにさまざまな酒蔵とイベントを行ってきました

今回は、EXILEの橘ケンチさんと秋田県・新政酒造のコラボレーション日本酒「亜麻猫橘((あまねこたちばな)」の完成を記念し、橘さんが日本酒コラムを連載している雑誌『Discover Japan』との共同開催のイベントとして、一夜限りの会が開催されました。会場は、東京・中目黒の「錦織」です。

「亜麻猫橘」ができるまで

新政酒造の代表・佐藤祐輔さんと橘さんが初めて会ったのは、2017年6月。橘さんの日本酒にかける情熱を佐藤さんがしっかりと受け止め、急速に関係が深まっていったのだとか。

EXILEの橘ケンチさんと新政酒造のコラボ商品「亜麻猫橘(あまねこたちばな)」

新政酒造は特約店限定の商品開発や酒蔵ユニット「NEXT5」など、さまざまなアイデアで実績を積んでいますが、橘さんとのコラボについてはどのように考えていたのでしょうか。

「日本酒業界が良くなるにはどうしたらいいか、常に考えながら試行錯誤してきました。知名度のある橘さんが酒造りを勉強し、身に付けたことをしっかりと発信してくれるのであれば、業界にとって大きなプラスになると思いました」(佐藤さん)

コラボレーションのベースを「亜麻猫」シリーズにしたのは、橘さんがもともと好きだったという理由もありますが、味の方向性についてふたりで話し合った結果でした。

「橘さんといっしょに造る日本酒なので、キャッチーなほうが良いのではないかと思ったこともありました。ただ、ウケ狙いではなく本質的なものを造ろうという話になり、『亜麻猫』を追求することに決定したのです」(佐藤さん)

亜麻猫橘のボトル

こうして、新政酒造と橘さんの酒造りが始まりました。

「蔵の作業は力仕事が多いのですが、身体能力が高いためでしょうか、慣れない作業でも橘さんはしっかりとこなしてくれました」と、その働きぶりに佐藤さんも驚いた様子。蔵人とコミュニケーションをとりながら、順調に作業を進めていったようです。

「亜麻猫橘」の出来栄えについてたずねると、「『亜麻猫』の総決算と言っていいかもしれません。長期の熟成にも耐えられるので、3年後や5年後の変化も楽しめるでしょう」と、佐藤さんは話してくれました。

新政と料理のペアリングに舌鼓

そして、橘さんと新政酒造が自信をもって完成させた「亜麻猫橘」をはじめ、他6種類のお酒を堪能できる会が始まりました。

EXILEの橘ケンチさんと新政酒造のコラボ商品「亜麻猫橘(あまねこたちばな)」

まずは、ウエルカムドリンクの「天蛙(あまがえる) オーク」

「天蛙」は低アルコールのスパークリング日本酒。この「天蛙 オーク」は、オーク樽での熟成を経てから瓶内発酵している貴重な1本。シュワっと音が出るほどの発泡感で、ウェルカムドリンクにぴったりです。

これまで開催された「LDH kitchen」でのイベントは橘さんのファンも多くみられ、参加者の大半が女性という状況でした。しかし、今回のイベントには新政酒造のファンも加わって、男性の姿も。若い女性と新政ファンの男性が同じテーブルで語り合っている光景も見え、新たな交流を生んでいる様子でした。

橘ケンチさんと新政酒造の代表・佐藤祐輔さんの乾杯

その後、橘さんと佐藤さんが登場し、「亜麻猫橘」で乾杯。「今日は、僕たちの話をラジオ番組のように聞きながら楽しんでください」とあいさつがありました。

「涅槃龜(にるがめ)」と平目の昆布締め。

ひとつ目の料理は「平目の昆布じめ」。合わせるお酒は、10年かかってやっとリリースに辿り着いた「涅槃龜(にるがめ)」です。

低精米の純米酒で、やわらかさがありながらもスッキリとしたきれいな香り。丸みを帯びた甘味が感じられ、コクと旨味の余韻があります。平目の昆布じめなど、風味のある生の食材に合わせるにはぴったりでしょう。

「にるがめの『にる』はニルバーナの『ニル』なんです。ニルバーナ、わかりますか?」(佐藤さん)

「ロックも好きなので、知ってますよ!」(橘さん)

さながらラジオ番組のような掛け合いで、トークもお酒も進みます。

「焼きたんぽ」や「比内地鶏の八幡巻き」といった秋田の郷土料理と3種の「お造り」

2品目は「焼きたんぽ」や「比内地鶏の八幡巻き」といった秋田県の郷土料理と3種の「お造り」。お酒は「NO.6 S-Type 木桶仕込み」と「亜麻猫橘」です。

「NO.6」は軽快な香りとシュワっとした刺激が印象的で、渋味と酸味が味を引き締めています。焼きたんぽの香ばしさと相性が良く、お造りは「亜麻猫橘」のクエン酸が後味をさっぱりとさせてくれるペアリングでした。

「真鱈とだだみの蕪蒸し」

魚料理は「真鱈とだだみの蕪蒸し」。秋田県では、白子のことを"だだみ"と呼びます。

お酒は「やまユ 美郷錦」。アタックが強めで、しっかりとした酸味や若干の渋味があり、優しい味わいの蕪蒸しとの対比が印象的です。

「異端教祖株式会社 2017」と牛ヒレ霙餡かけ

肉料理は「牛ヒレ 霙餡かけ」。お酒は「異端教祖株式会社 2017」。ミネラル感と柑橘の香り、バニラのような甘味を奥底に感じつつもキレが良く、白ワインのような酸味を感じるお酒です。シンプルにローストされた肉料理にはぴったりでした。

「亜麻猫橘」と蕎麦、天ぷら

食事は、「錦織」の蕎麦と天ぷらに「亜麻猫橘」を。

「亜麻猫橘」について、佐藤さんは「瓶によって個体差がありますね」と感想を述べていました。確かに、最初に飲んだものと印象が変わり、温度が上がることで若干の甘味と米のふくよかさが出てきました。

「2018年度 東北清酒鑑評会 受賞酒」とチーズを使った甘味

最後は、チーズを使った甘味と「2018年度 東北清酒鑑評会 受賞酒」です。

フルーティーな甘い香りと上新粉のような淡い米の香り。しっかりとしたアタックでアルコールのボリューム感がありながらもキレが良い。高い評価を受けているのが納得できるバランスのとれたお酒です。参加者からも「美味しい!」という声が聞かれ、みなさんの満足した様子がうかがえます。

「新政はどんな料理にでも合う万能なお酒ではありません。だからこそ、料理を事前に教えていただき、それに合うものを選びました」(佐藤さん)

「次回は橘さんに選んでもらっても良いかもしれませんね」という佐藤さんからの提案もありました。

トークを弾ませる橘ケンチさんと新政酒造の佐藤祐輔さん

これからの新政酒造

これからの新政酒造について、佐藤さんにうかがいました。

新政酒造の代表、佐藤祐輔さん

「日本酒は、よりきれいなものを目指して造られてきましたが、そのきれいさは行き着いてしまったと思います。そのなかで、各蔵の個性を出すためにはどうすべきかを考えなければなりません」

今後は、すべて木桶を使った酒造りに変えていくそうです。

「木桶を使うことで、木に含まれる菌がお酒に良い影響を与えてくれると考えています。そして何よりも、木桶を使った酒造りは蔵人の技術向上につながります」

原料の米を秋田県産にこだわっている新政酒造では、2009年より全量秋田県産米にて酒造りを行っており、将来は無農薬栽培に移行したいのだそう。現在はオリジナルの瓶も製作中で、来年度から全銘柄を自社瓶で発売するといいます。

新政酒造の新たな挑戦はまだまだ続きます。今後も目が離せない酒蔵であることは、間違いありません。

(文/まゆみ)

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