2018年9月、京都市西京区の松尾大社で「第13回 酒サムライ叙任式」が行われました。

「酒サムライ」とは、全国の若手蔵元から組織される日本酒造青年協議会が、日本酒と日本文化を愛し、その素晴らしさを世界に広めようと尽力している人に与える称号です。平成17年(2005年)に設立されて以来、すでに70名もの方々がさまざまな分野から選出されています。

叙任式の会場は、お酒の神様「松尾大社」

第13回酒サムライ叙任式が行われた京都の松尾大社

叙任式の会場は、酒の神様として有名な松尾大社。境内には名水「亀の井」があり、酒造家がこの水で酒造りをすると、お酒が腐らないという信仰が語り継がれています。

松尾大社での正式参拝

叙任式は「松尾造り」と呼ばれる、本殿での正式参拝から始まります。

第13回酒サムライ叙任式の様子

続いて、拝殿で「酒サムライ」の称号が授与されました。

第13回「酒サムライ」叙任者のみなさん

授与のあと、日本酒造青年協議会会長の前垣壽宏さんや、2018年のミス日本酒である須藤亜紗実さんとともに記念撮影。みなさん、晴れ晴れとした表情です。

式を締めくくる乾杯として、弥生時代から続く乾杯の掛け声「いやさか!」を唱和。杯を交わし合い、未来永劫の繁栄を願いました。

「酒サムライ」たちの意気込み

叙任式のあと、新たな「酒サムライ」となった7人の話を伺うことができました。

大橋健一さん

酒サムライの大橋健一さん

大橋健一さんは、栃木県の業務用酒販店「山仁」の代表取締役社長。ワイン業界でもっとも権威のある称号のひとつ「マスター・オブ・ワイン」を保持しています。

2007年から、世界的なワインコンテスト「IWC(インターナショナル・ワインチャレンジ)」のSAKE部門で議長職を務めるなど、日本酒業界にも多大な貢献をしてきました。

「私の役割は、日本に生まれた日本人の『マスター・オブ・ワイン』として、日本酒を世界に広め、大きなビジネスとして取り上げてもらうきっかけをつくれるように努力すること。世界中で日本酒が盛り上がっていくためのお手伝いをしたいです」

鏑木基由さん

酒サムライの鏑木基由さん

鏑木基由(かぶらぎもとよし)さんは、金沢・九谷焼の窯元の8代目。九谷焼を日本全国に展開しながら、日本酒に特化した九谷焼のグラスの製造や販売に注力しています。お酒の味わいに合わせて酒器を選ぶという楽しみ方を普及させるべく、尽力してきました。

この日も、愛用のカバンからグラスや杯を出してみせてくれました。どこへ行くときでも、その時々のテーマにふさわしい酒器をカバンに入れて持参するのだとか。

「フランスで『あなたは日本酒をどんなグラスで飲んでいるのか』と聞かれたんです。そんな問いかけは初めてでした。そこで、ワイングラスよりも脚を短くして、さまざまな味わいの日本酒に合うグラスや杯をつくりました。日本酒もワインと同じように、香りや色を楽しみながら飲んだら、さらに美味しくなる。今後も世界各国、あらゆるところで普及活動をしていきたいです」

橘ケンチさん

酒サムライの橘ケンチさん

橘ケンチさんは、人気のダンス&ボーカルグループ、EXILE / EXILE THE SECONDのパフォーマーです。

ステージに立つかたわら、所属事務所「LDH JAPAN」の飲食関連事業を担うグループ会社「LDH kitchen」が進めるプロジェクトで、酒蔵の会を監修しているほか、数多くの酒蔵を訪問し、さまざまな媒体を通して、日本酒の魅力を発信しています。

「ライブで日本各地を訪れる際やプライベートでも多くの酒蔵を巡り、造り手の日本酒に対する愛を感じました。そして、酒蔵がそれぞれの土地で文化の拠点となっていることに気付き、エンタテインメント業界と日本酒業界のかけはしとして、自分にしかできないことがあるのではないかと思うようになりました。

今回、『酒サムライ』の称号をいただいたことで、あらためて、身の引き締まる思いです。特に、これから日本酒に出会う若い方々が『日本酒って美味しいんだ』と気付く学びの場を増やしていくのと同時に、エンタメの力を借りながら、日本はもちろん、世界にその魅力を発信していきたいです」

アレクサンダー・コブリンガーさん

酒サムライのアレクサンダー・コブリンガーさん

アレクサンダー・コブリンガーさんは、オーストリアでホテル・レストラン並びにワインの卸業を営むドレラー社のヘッドソムリエ。オーストリアで初めて、高級レストランへの日本酒の普及に取り組んでいる人物です。

試飲会やレクチャーの継続的な開催だけでなく、オーストリアのソムリエ協会に日本酒の魅力を伝えるなど、オーストリアでの日本酒マーケットの拡大に貢献しています。

「とてもユニークな称号をいただき、とても感謝しています。さまざまなメディアを使って、ワインを愛好するオーストリアの方々にも日本酒を広めていきたいです」

マイケル・トレンブリーさん

酒サムライのマイケル・トレンブリーさん

マイケル・トレンブリーさんは、カナダのトロントで「Ki Modern Japanese+Bar」という日本酒バーを経営。蔵元を招待して料理とのペアリングを楽しむイベントを開催するほか、幅広い普及活動に取り組んでいます。

また、世界最大のワイン教育機関「WSET」の講師として、カナダ初の日本酒コースを開講。現在は、日本酒の地域性に関する上級者向けのコースを発展させつつ、IWCでは審査員のひとりとして活躍しています。

「『Ki Modern Japanese+Bar』では、65種類の日本酒を扱い、日本酒関連の資格をもっているスタッフが10人います。10年前にバーを始めたときから、日本酒について知れば知るほど、その地域性をより深く知りたいと強く思ってきました。そして、そのストーリーをお客様に、まるで日本を旅行しているかのような臨場感で伝えようと努力しています。

6年前に立ち上がったカナダ初の日本酒イベント『Kampai Toronto』では、オープニングセミナーに150人もの参加者が集まりました。それだけ、日本酒を学びたい人がトロントには多いということです。これからも日本酒について学び、より深い知識をお伝えできるようにがんばります」

パトリック・エリスさん

酒サムライのパトリック・エリスさん

パトリック・エリスさんは、日本酒の輸入会社「Blue Note Wine & Spirits. Inc」の社長。 1996年から、カナダ西部にて日本酒の啓蒙活動をスタートし、その後、カナダ全土へ展開。ブリティッシュ・コロンビア州にある日本酒協会の創設メンバーであり、イベントをはじめ、幅広いメディアに出演しています。

「22年前に日本酒の魅力に開眼し、日本酒で生きていきたいと思いました。しかし当時は、カナダ人のほとんどが日本酒を知らなかったので、たくさんの壁にぶつかりました。

カナダ人が気楽に日本酒を楽しむようになるには、ワイングラスでの提案が必要だと考えました。また、食事との組み合わせについても、カナダ人が慣れている料理と日本酒を合わせるように心がけています。たとえば、寿司ではなく、フライドチキンに合わせてみるとか。すると、『和食じゃなくてもいいんだ』と、オープンなマインドで接してくれるようになるんです。

『酒サムライに叙任』された今日は、私の人生のなかでも忘れられない日になるでしょう。私の旅は始まったばかりです」

レイチェル・チャンさん

酒サムライのレイチェル・チャンさん

レイチェル・チャンさんは、名誉唎酒師と酒匠の資格をもつ、フリーアナウンサー・ラジオDJです。

英語と日本語の2言語で日本酒を広めることをライフワークとし、イベントの司会や商品のプロデュースに尽力しています。

「全国には多くの酒蔵があり、それぞれの地域、水、米......すべてが個性的なんです。テクノロジーがどんなに発達しても、最後に大事になるのは、造り手の個性や思い、ストーリー。それらを伝えながら、日本酒を美味しいと感じてくれる方々の輪を広げる、地道な活動を続けていきたいです」

海外における、日本酒の可能性

今回の叙任者のうち3人は、海外で日本酒の普及活動をしている方々です。彼らは、日本酒の可能性をどのように考えているのでしょうか。

アレクサンダー・コブリンガーさん
「ヨーロッパでは、日本酒はほとんど知られていません。まだ始まったばかりですが、これから絶対に伸びていくと思います。日本酒と料理のペアリングについては、大きな可能性があります」

マイケル・トレンブリーさん
「日本酒にはさまざまなスタイルがあります。ワインのようなもの、スパークリング、大吟醸、あるいはファンキーな山廃......そんな日本酒の多様性が大好きなんです。ワインが好きでなかった若いころの私も、あるきっかけで、もっと知りたいと思うようになりました。日本酒でも、同じようなことが起こりうると思うんです」

パトリック・エリスさん
「日本酒は、ワインでは不可能だった問題を解決することができます。たとえば、カップルがレストランへ行って、一方がステーキ、もう一方が白身魚を食べたとしましょう。この状況に合うワインを見つけるのは難しいですが、日本酒なら、たった1本で両方のペアリングを解決できる。ペアリングの幅がワインより広いということを伝えていきたいですね」

第13回「酒サムライ」叙任者のみなさん

「酒サムライ」に叙任された、各分野で活躍される多彩な方々。彼らの活躍が、国内のみならず、世界中に日本酒の魅力を届けてくれることを期待しましょう。

(文/山口吾往子)

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