フランス人のソムリエが審査員を務める、フランス初の日本酒コンクール「Kura Master」の第1回が、2017年6月に開催されました。

日本酒のコンクールといえば、国内では「全国新酒鑑評会」「SAKE COMPETITION」「ワイングラスでおいしい日本酒アワード」、海外では「International Wine Challenge (IWC)」「London Sake Challenge」など、多数あります。このKura Masterは、どのような特徴をもったコンクールなのでしょうか。

2018年1月、Kura Masterの審査員ら7名が来日し、第1回で優秀な成績を収めた酒蔵への訪問や和食と日本酒のペアリングなどを体験しました。SAKETIMESでは、審査副委員長である、Pierry Many(ピエール・マニ)さんにインタビューを敢行。フランスにおける日本酒市場の動向や、Kura Masterとしてのねらいをうかがいました。

フランス人ソムリエが選ぶ、フランス初の日本酒コンクール「Kura Master」ロゴ。

フランス人によるフランス人のための日本酒コンクール

Kura Masterとは、フランス人によるフランス人のためのフランスの日本酒コンクールです。料理との組み合わせ、つまりマリアージュに重点が置かれ、フランスをはじめ、ヨーロッパにおける日本酒への理解を深めることを目指しています。

審査員は、ソムリエやレストラン・ホテルの関係者、料理の教育機関のメンバーなど、フランスのワイン界で著名なプロフェッショナルたち。ワインの品評会と同じように日本酒を審査します。初年度の2017年には、221蔵から550銘柄が集まったなかで、123銘柄が金賞、58銘柄がプラチナ賞を受賞しました。

フランスで存在感を出し始めた日本酒

食文化の最高峰として、世界的に有名なフランス。そんな地で、なぜ日本酒のコンクールが開催されることになったのでしょうか。ソムリエの指導者であり、Kura Masterで審査副委員長を務めるピエールさんは次のように話します。

「フランスには伝統的な食文化・ワイン文化があり、それに誇りを持っています。そんななか、近年、新しい発見や多様性を求めて、スペインやイタリア、中東、アジアなど、各国の食文化を取り入れようとする流れが生まれ始めているのです。日本食や日本酒に関しても同様で、お客様によりすばらしい飲食体験を提供するために、フランスをはじめとするヨーロッパで、日本酒をアピールする場を提供したいと考えました」

Kura Master 審査副委員長を務めたPierry Many (ピエール・マニ)さん

審査員のひとりは「2017年に審査員特別賞を受賞した『花の香 桜花』(花の香酒造/熊本県)には、オマールエビにマッシュルームと柚子、ココナッツをかけた料理を合わせたい。酸がはっきりとした豊かでフローラルな香りをもつこの酒は、オマールエビの香りを良く引き立ててくれる」と、語っていました。

さまざまな国の食文化を取り入れながら、さらに進化していく。日本酒だけでなく、柚子などの日本食材を料理に取り入れる様子は、実にフランス料理らしいですね。

「蔵の個性を大切にしてほしい」

フランス人が好む日本酒とはどういうものなのでしょうか。ピエールさんに伺いました。

「"フランスで売るために、こんな酒に仕上げたほうがいい"ということはありません。市場に合わせるのではなく、蔵が本来もっている個性を大切にしてほしいですね。日本酒は、同じ米・水・酵母を使っても、造り手によって大きな違いが生まれます。私たちは、その多様性を理解し体験したいと考えています。

蔵の特徴や独自性を大事にしてほしい。だから、昨年の第1回でプラチナ賞や金賞を受賞した酒は、蔵の個性が強く出ているものが多いですね」

Kura Master 審査副委員長を務めたPierry Many (ピエール・マニ)さん

マーケットに合わせるのではなく、オリジナルを貫くことも、日本酒が世界に進出していくために必要なひとつの方法なのかもしれません。

蔵の"冒険"を飲み手に伝える

今回の来日で、昨年のKura Masterで優秀な成績を収めた酒蔵を訪問したピエールさん。佐賀県・天山酒造や熊本県・花の香酒造では、酒造りを実際に体験することができたのだとか。

「C’est magnifique!! (最高でした!!)」

きらきらと目を輝かせながら、全身でその感動を伝えてくれました。

「ソムリエの仕事は、レストランでワインを提供することだけではありません。ワイナリーでの"冒険"を伝えることも、大切な仕事のひとつ。実際に畑や醸造所へ足を運び、目で見て、体験して、その様子をお客様に伝えるのです。

私はこれまで、日本酒に関して教科書でしか学んできませんでした。今回、蒸米や製麹の工程を経験し、種麹の振り方ひとつがどのように味わいに影響を与えるかを実際に学びました。また、さまざまな和食とのペアリングも知ることができたことは『フランスで、今まで以上に日本酒の素晴らしさを伝えることができる』と、大きな自信になりました」

蔵を訪問し、製麹を体験するKura Master審査員

机上の情報だけでなく、みずからの五感で経験した"冒険"をいっしょに伝えることこそ、プロのソムリエとして、もっとも大切なことなんですね。

フランス人からフランス人へ

酒蔵を訪問した際、ソムリエたちから蔵元へ質問が絶えなかったのだそう。"知識や経験を持ち帰りたい"、"フランスに日本酒の魅力を伝えたい"と考えている様子が伝わってきます。

「ワインに関してはプロフェッショナルですが、日本酒のことはまだ全然わかりません。みずからが学ぶことで、フランスに広めていきたい」と語るソムリエのみなさん。真摯な彼らによって、日本酒がフランスでどのような広がりをみせていくのか、今後のKura Masterと、フランスにおける日本酒市場に注目です。

(取材・文/古川理恵)

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