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「酒サムライ」コーディネーター・平出淑恵さんに伺う、パーカーポイントが日本酒に与える影響

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2016年9月1日、世界的に有名なワイン評論家ロバート・パーカー氏が顧問を務めるロバート・パーカー・ワイン・アドヴォケイト社が、独自のワイン評価基準「パーカーポイント」による日本酒(純米吟醸・純米大吟醸クラス)の評価を発表しました。パーカーポイントはワイン市場において多大な影響力をもつ指標のひとつで、今回の日本酒評価は、海外展開の拡大を目指す日本酒市場においても少なくない影響があると言われています。

パーカーポイントの日本酒参入によって、具体的にどのような影響が考えられるのでしょうか。「酒サムライ」のコーディネーターであり、世界最大規模のワインコンペティション「International Wine Challenge」にSAKE部門を設立するなど、日本酒の海外発展に多大な貢献をされてきた平出淑恵さんに、消費者への影響や今後の可能性などをお伺いしました。

インタビュー本編に入る前に、まずは「パーカーポイント」とはどのようなものか、解説していきます。

ワインの価値や価格に大きな影響を与えるパーカーポイント

パーカーポイントの評価は100点満点で表されます。

価格や社会的な価値は一切関係なく、スポンサーをもたない中立な姿勢で行われる確かなテイスティング評価は、流通・消費者のワイン選択において大きな影響力を持っており、千数百円で購入できた無名のワインが、パーカーポイントで高得点をとったことで価格が高騰し入手できなくなるといったことも実際にあるそうです。

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評価に値するワインには、等しく50点の持ち点が与えられます。それに加え、下記の4点が加点要素となります。

  •  ワインの総合的な色と外見に 1~5点
  •  アロマ(原料ブドウの香り)とブーケ(熟成してできた香り)の強さと複雑さ、清潔さをみて  1~15点
  •  風味と後味は、味の強さと調和と清潔さ、後味の深さと長さを見て 1~20点
  •  全体の質のレベル、また若いワインの場合は将来の熟成と進歩の可能性に 1~10点

これらの項目全てで最高点をとると、100点満点となります。

800銘柄の日本酒が審査され、78銘柄が90点以上を獲得

今回の日本酒評価では、全800銘柄が審査され、うち90点以上を獲得した78銘柄が公開されました。

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95点の高評価を獲得した『純米大吟醸 勝山 暁』(仙台伊澤家勝山酒造/宮城)

これまで日本酒が審査対象となったことは何度かありましたが、今回のように大掛かりで本格的な評価は初のことです。ワインでの実績を鑑みると、高得点を獲得した銘柄は、特に海外市場において価格高騰やプレミアム化が想像されますが、実際にはどのような波及効果があるのでしょう。平出さんに伺っていきます。

平出淑恵さんに伺うパーカーポイントの是非

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― パーカーポイントが日本酒を評価されたことについて、率直にどのようなご感想をお持ちですか?

「あくまで私個人の意見にはなりますが、まず、外部のプレイヤーが日本酒市場に参入すること自体を好意的に捉えています。あたりまえですが、国内同様に海外でも日本酒を販売するには酒類販売免許が必要になります。ですので、海外では普段、ワインを販売している人たちが日本酒を取り扱わないと販路は広がらない。だから、まず酒販店の方が日本酒のことを知っていることが大事です。IWCのSAKE部門も、もとは"海外のお酒のプロ"に品質の良い日本酒を知ってもらうことが第一義だったんです。すでに海外の市場で流通している日本酒のなかには、保管が悪く日本酒本来の味でないものもあったり、SAKEと言われて飲食店にあるものが、他国で造られたスピリッツだったりする事もありますからね」

「IWCのSAKE部門設立のあとは、『どうやって海外マーケットを賑わすか』をずっと考えてきました。そんな中で今回のパーカーポイントが発表されたわけですから、賛否両論はあれど『これはマーケットを賑わすぞ!』と思いました。だから、まずもってアリだと捉えたんです」

― たしかに賛否両論ありますよね。平出さんは、パーカーポイントが国内外の日本酒市場にどのような影響をもたらすとお考えですか?

「一番のメリットは『わかりやすさ』でしょう。点数というわかりやすさによって、だれもが日本酒が選びやすくなる。日本酒は多様な価値があるために、良い・悪いが分かりづらく曖昧です。それが魅力でもありますが、特にビギナーにとっては難しいですよね。日本でもそうなのですから、海外ではなおさらです。これが、世界レベルで『わかりやすくなった』ことは、とても価値の高いことだと思っています。客観的な評価は、嗜好品を選ぶときの安心材料になりますからね」

「一方でネガティブな側面もあると思っていて、そこは冷静に見守る必要があります。ワイン市場においては、パーカーポイントで高得点を獲得したワインに味わいをよせた『パーカー好みのワイン』がたくさん造られたことがありました。パーカーポイントの影響力が高まれば、日本酒市場でもこれと同じことが起きる可能性があります。それが、多くの酒蔵の『酒造りのポリシー』を変えてしまうことになり、結果として日本酒本来のもつ多様性が損なわれていくことが懸念されます。もちろんこれは極端かもしれませんが、十分起こりうる現象だと思っています。そういう意味で、冷静に動向を見守りたいですね」

日本酒の海外進出拡大にあたって必要なこと

― 日本酒の海外進出は今後も拡大していくことが予想されます。平出さんとして、日本酒関係者はどのような対応をしていくべきだとお考えでしょうか?

「今まで以上に、マーケットとユーザーを見る必要があると思います。パーカーポイントも、そういう意味ではいいきっかけとも言えますね。これまで日本酒は『いいモノをつくれば売れる』という考え方が一般的で、マーケティング視点はあまりなかった。これでは海外には通用しないでしょう。マーケットやユーザーをきちんと見て、その上で自社の強みを発揮していくという意識が問われるようなると思います」

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「先もお話したように、パーカーポイントはメリット・デメリット双方あると思いますが……わたしとしては、やはりメリットの方が大きいのではないかと考えているんです。日本酒が海外で戦うために、多くの酒蔵がマーケットを意識するようになることが、ひいては日本酒の海外市場拡大を後押しするだろうと。逆に海外に市場を伸ばすことができず、結果、国内外ともに衰退してしまうことは避けなければなりません。もちろん酒造りのフィロソフィは忘れてはいけませんが、各酒蔵さんにはフィロソフィとマーケットのバランス感覚を磨いていってほしいです」

「同時に、インバウンドの観光客対応も真剣に取り組んで欲しいですね。それが、ひいては海外進出への備えになると思うのです。規模の小さな蔵元さんにとって海外進出は経費過多になりかねません。なので、いきなりAwayで勝負に出るより、Homeで海外の方への技を磨くというのは有効だと思います」

好機と捉え、日本酒の価値を認めてもらえるような働きかけを

パーカーポイントは、”好き嫌いはひとそれぞれ”という嗜好品において、一元的な尺度をもたせてしまうという点で批判の対象となることもあります。これまでの日本酒業界でも、どれが美味しいかを業界が押し付けることはなく、「個人の好きに任せる」という考えが強かったように感じます。

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もちろんこの視点は嗜好品において重要なことではありますが、ビギナーや、より”間違いのない”日本酒を選びたい人は「プロの選んだ一品」はどれなのだろうと知りたくなるときもありますよね。そういった際に、パーカーポイントは大きな判断基準となり、消費者を”一歩上の日本酒ファン”へと導いてくれる可能性があるように思います。

平出さんは、インタビューの結びに「パーカーポイントは日本酒が注目を集めるきっかけにすぎない。それを”どう活かすか”が大事。パーカーポイント自体の是非よりも、それを契機に、酒蔵をはじめとする日本酒関係者が『日本酒を世界で広げるために必要なアクション』を考え、取り組むことが大切」と話してくださいました。

パーカーポイントでの評価が、日本酒の味わいそのものを変えるわけではありません。あくまで日本酒という資産の”活きる場”が広がったということであり、日本を含めた世界中の消費者が、日本酒を選ぶひとつの判断材料を得たということです。

パーカーポイントがもたらす市場への具体的な影響は、まだまだ顕在化していません。しかし、今まさに海を渡りつつある日本酒を、さらに広げていくための”ひとつの波”であるように思います。この波を”好機”と捉え、それぞれが日本酒をもっと世界中に広げていくためのアクションを考えていくことが重要なのだと感じます。


◎平出淑恵(ひらいでとしえ) プロフィール
何年もワインを学び親しんできた私は、国や人種を超えた多くの人達と一杯のワインを通じて共感し、それを共有する喜びを経験してきました。2001年、京都の蔵で、搾りたての大吟醸を飲んだ時、「この利き猪口には日本が詰まっている、日本酒は日本そのものだ。」と感じたことがきっかけで、ワインで知る事の出来た素晴らしい共感の輪を、日本そのものである日本酒を通じて、世界に伝え、広げていく事が出来るのではないかと思いました。日本酒を通じて日本の文化や地方を世界に紹介したい、それを実現するために会社を興しました。「Sakeから観光立国」 大きな夢ですが、それに向かってまい進してまいります。

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  • 1962年東京生まれ。
  • 1983年、日本航空入社、国際線担当客室乗務の傍ら1992年ソムリエ、
  • 1997年シニアソムリエ資格取得。2010年希望退職。
  • 2011年、日本酒文化振興を目指す「株式会社コーポ・サチ」代表取締役に就任。
  • 若手の蔵元の全国組織「日本酒造青年協議会」の酒サムライ活動に参画し、
  • 世界最大規模のワインコンペティション(IWC)に日本酒部門創設。
  • 酒サムライコーディネーター(日本酒造青年協議会)
  • IWC(インターナショナルワインチャレンジ)アンバサダー
  • 観光庁 酒蔵ツーリズム推進協議会メンバー
  • 総務省 地域力創造アドバイザー
  • 外務省 在外公館長赴任前研修日本酒講座コーディネーター
  • 株式会社 阪急阪神百貨店 アドバイザー
  • 一般社団法人 日本ソムリエ協会 理事
  • 一般社団法人 ミス日本酒 顧問
  • 一般社団法人 全国和食文化国民会議 連絡会議 幹事
  • SCS Trading Co., Ltd.(タイの飲食店向け卸売 · 小売り酒店)顧問
    *フジサンケイビジネスアイ金曜版に「Sakeから観光立国」連載中。

【連絡先】株式会社 コーポ・サチ
〒2520203 神奈川県相模原市中央区東淵野辺4-35-27 tel/fax 042-851-3524
HP http://coopsachi.jp / メールアドレスtoshie@coopsachi.jp

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