前回は、奥深き甘口の日本酒の世界を楽しもう! の中で「甘口の日本酒の奥深さ」についてお伝えしました。今回は、日本酒における「甘口・辛口」という味覚表現についてお伝えしていきます。
「甘い」の対義語が「辛い」って本当?
まず、この固定概念から疑ってみませんか?
ご存知の方も多いと思いますが、辛味という味は実は存在しません。辛味というのは刺激のことであり、痛覚として感じるものです。味覚と痛覚を対比させるって、よく考えたら違和感がありませんか?
では、なぜ酒業界でこの2つを対比させるかというとワイン法における甘辛度を本訳した影響が大きいのではないでしょうか?
この甘辛度ですが、何を指しているかというとワイン中の残糖度を測ったものです。ワインに限らず酒類は糖をアルコールに分解することで液体中の糖度を減らしていく飲み物です。
国や地域によって若干規定が異なりますが、アルコール発酵をしきらずに糖をたくさん残したものをフランス語でdoux、英語でsweetといいます。
そのあいだにまた呼び名がいくつかあって、残糖度が低いものがフランス語でsec、英語でdryになります。(一部、残糖だけでなく酸度が呼び名に影響する所があります)
この二つを日本語に直訳すると「甘い」と「辛い」になるわけです。
しかし、もともとこの2つの言葉は、あくまで残糖度の度合いを示しているに過ぎず、味わいとして反対と言う意味では無いのではないでしょうか?
だって、砂糖をたくさん入れた珈琲は「甘い」ですが、砂糖を全く入れない珈琲を「辛い」とは言いませんよね。
「辛い」は何をもって辛いのか?
甘さの度合いが残糖度によって変わるのは感覚として理解できます。では辛いと言うのは何をもって辛いのでしょうか?
辛味が痛覚だとすると、日本酒の場合、何によって辛味を感じるかと考えたとき、それはやはりアルコールの刺激なのではないかと思います。
さまざまな他の要素によって変わる場合も有りますが、残糖度が少ないということはアルコール発酵を限界までしているということを意味し、その分、アルコールの生成量も多くなりアルコールの刺激を感じやすくなるわけなのです。
フランス語のsecと英語のdryにはどちらにも共通して、「乾いた」という別の訳があるのも興味深いです。アルコールは揮発性が高いので口内が乾きます。
では、甘口、辛口の使い分けって?
甘いの反対が辛いになる理由をまとめますと、「残糖度が低くなればアルコールが増えて、舌がアルコールの刺激を感じやすくなるために、『辛い』という表現を使う」ということです。厳密には甘いに対して反対の言葉は甘くない(甘味が控えめ)と表現するのが正しいのではないかと思います。
甘さとは、さらに別の観点で、アルコールの刺激をどう感じるかを表現する必要があるのではないでしょうか。
しかし、お客様がこういった視点で「甘口」「辛口」を理解しているわけではありませんので、辛口以外の言葉をお客様から導き出して、ニーズに合った商品をご提案できるようにするのが僕たちの務めです。
付け加えておくと、多くの皆様が甘いと感じているのは、甘い香りを捉えて脳が甘いと判断しているだけで、本当は「残糖がない」という場合も多分にあります。例えばラム酒は残糖度ゼロの蒸留酒ですが、原料のサトウキビの香りで脳が甘いと判断する飲料です。
人間の味覚とは曖昧ですね。
結局、禅問答のようになってしまいましたが、日本酒における味覚表現の奥深さに興味を持っていただけたら幸いです。
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