こんにちは、SAKETIMES編集部、酒匠の山口奈緒子です。

海外で日本酒を造られているという事実をみなさんはご存知でしょうか?

※海外の日本酒事情については、以前もSAKETIMESでご紹介しました。
【わかりやすいSAKEニュース】アメリカ・カナダで盛り上がりを見せる日本酒市場の現状とは?
海外でも造れるの!?海外産の日本酒特集

今やアメリカ・台湾・ベトナム・ノルウェーなどさまざまな場所で日本酒が造られており、「JIZAKE」とも言える日本酒が増えています。

今回は、カナダで造られている日本酒『Yu 悠(以下、Yuと表記。)』についてご紹介したいと思います。

『Yu』を造っているのは『YK3 Sake Producer(以下、YK3と表記)というBC州(ブリティッシュコロンビア州。以下、BC州と表記。)にある醸造所です。オーナーである小林友紀さんと、製造責任者である春日井敬明さんにお話をうかがってきました。

 

1. 「YK3 Sake Producer」とは

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『Yu 悠』という日本酒を説明する前に、まずお酒を造っている『YK3』の説明をしなければなりません。

『YK3 』は上にも書いたとおり、醸造所の名前です。

小林友紀さんと、河村祥宏さんがオーナーで、杜氏を春日井敬明さんが務めています。3人のイニシャルがちょうど「Y.K.」であったことから、『YK3』という名前を付けたそうです。

『YK3』の醸造所はもともとナイプロという別の会社で、『Keyope(清っぺ)』という日本酒を造っていました。経営が厳しくなり2012年には閉鎖。その醸造所を小林さんと河村さんが買い取り、YK3としてリスタートさせたのです。

 

2. カナダで日本酒を造るようになった経緯とは

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『YK3』は 1 のような経緯で始まった会社ですが、なぜ小林さんや春日井さんは日本酒の醸造をカナダで行うことになったのでしょうか?

小林さんの本業は、リスクマネジメント・コンサルタントで、事業者が危険を潜り抜けていくためのサポートをする仕事をしていますが、日本文化を何かの形で広めたいという考えから好きな日本酒の唎酒師(ききさけし)の資格を取得しました。そんな折、共同オーナーである河村さんから酒蔵をバンクーバーでやろうという声がかかり、始めたそうです。

また、春日井さんは愛知出身で、大手カメラ会社に勤めていましたが、脱サラして日本酒の製造側に回る、という異色の経歴をお持ちです。もともと日本酒好きだった春日井さん。「まだまだ可能性はあるが、若手がいない!」というお話を、とある酒蔵さんの講演で聞き日本酒の醸造の世界に飛び込んだそうです。
日本では1999年から長野・滋賀などで日本酒造りに従事。そして、2007年にはカナダ・バンクーバーで日本酒の製造責任者である杜氏として活躍されています。

場所がカナダであろうと、しっかりとした日本酒に造りのノウハウが受け継がれているということですね。

 

3. 原料の調達は造りのプロである春日井さんの目利き

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私たち日本人にとっては、日本酒は「日本でしか造れない」ように感じてしまいます。カナダで日本酒を造るからこその苦悩や、こだわりとはどのようなものがあるのでしょうか?

 

◎飲用の水道水を、さらにフィルタリングして使用

まず気になるのが、原料であるお米やお水はどうやって調達しているのかという点です。日本酒の原料の80%を占めるお水は、日本酒の味わいに直接関わるからです。お水について質問してみると『バンクーバーは水が美しいことでも知られており、大自然豊かな山々の雪解け水を水源にしています。Yuの仕込み水は、この水源からきた水道水を更に精密なフィルターで濾過をします。』と春日井さん。造りのときは、その水をさらにフィルターに通し、クリアな状態にして使用しているようです。日本で酒造りを行っていた経験があるからこそ「お酒造りにふさわしい水」が判断できるのです。

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◎優良なカリフォルニア米のみを選ぶ

また、日本酒の原料で重要なものはお水だけではありません。日本酒はお米から造られる醸造酒ですから、いわずもがな「お米」も重要な原料の1つです。そのお米にはカリフォルニア産の酒米を使用しているそうです。日本から酒米を輸入するのは難しく、コストも高くなります。もちろん、アメリカから輸入ということになるので、多少輸送費などがかかってしまいます。しかし、日本から輸入する場合を考えると、大きな差になります。このカリフォルニア産の酒米についても、春日井さんが品質チェックを行います。そこでチェックを通ったもののみを使用しているそうです。

カリフォルニアと言えば、日本酒の生産が盛んになってきている場所でもあります。日本の大手日本酒メーカーである月桂冠、大関、宝、八重垣の4社も現地に醸造所を設け、「JIZAKE」とも言うべき日本酒の製造を行っています。

この4社が「カリフォルニア」という地を選んだ理由については、ロッキー・シェラネバダ山脈の純度の高い雪解け水が得られるというメリットもあるでしょう。しかし、酒造りに適したカリフォルニア米が生産されているというメリットも大きいはずです。このように、大手日本酒メーカも注目するほど、カリフォルニア米というのは良質なお米なんだろうと思います。

 

4. Yuを通して、カナダ国内に日本酒の魅力の幅広さを伝える

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手塩にかけて造られた、『Yu』 。小林さんは『幅広い層に楽しんでもらいたい』と語ります。その「幅広い層」とは、カナダで言うと、日本食レストランだけではなく、地元のバーでも、ワインを飲むかのような感覚で普通に飲んでもらえることを指しています。醸造所のあるBC州でも認知が低いそう。

『日本酒が地元のお酒として定着し、さらには、最近流通をはじめたオンタリオ州、アルバータ州、そしてカナダ国内でYuの存在を知ってもらいたい。』と続けます。『カナダという環境の中で、日本人の杜氏が伝統を守りつつ、地元の良さも引き出した日本酒を世界中の人に楽しんでもらいたい。日本で造られたお酒が一番いいという考えではなく、もう少しグローバルな捉え方をしたい。海外で日本酒を造っているということに誇りを持ち、それによって日本文化を広めることに貢献できると思う。』

まだまだ現地での日本酒の認知といえば、熱燗(Hot Sake)という認知がまだまだ根強いのもひとつの事実です。まずは、『Yu 』を入口として、日本酒もワインや他の酒類と同じように、色々な種類があり、飲み方、温度も多様に広がることを知ってもらうことはとても意味があることです。

私は世界中で日本酒が飲まれるようになるためには、日本国内のみならず、世界各国の「現地」で日本酒が製造され、飲まれるようになることが必要だと考えています。そして、『Yu』の例にもあるように、海外で造られるお酒についても日本酒として広く捉えられるようになることが重要なのではないでしょうか。ワインやウィスキーも、ヨーロッパ、アメリカ、そして日本でも造られています。現地で造られるからこそ、その文化に定着することができるのです。

そういった意味では、『Yu』はまさにその先駆けですし、日本文化が日本を飛び出して、新しい形で定着していくよい例になるのではないかと思うのです。

また、そういうカナダで花開いた日本文化を逆輸入するのも面白いですよね。

 

【後編】は、近日中に公開します!
後編では、『Yu』の味わいの解説や、どのような購入方法があるのかをお伝えします。

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