世界にその名を広めつつあるSAKE。海外での醸造を始める酒蔵も増えつつあり、現地醸造の動きはアメリカやアジアだけでなく、ノルウェーやブラジルなど世界各国に広まっています。日本の大手酒蔵が現地に法人を設立することもありますが、日本酒に魅了された外国人がみずからの故郷で酒蔵を立ち上げるケースも見られるようになりました。現在、海外にあるSAKEの醸造所は40を超えるとも言われているのです。

今回は、現地の日本酒愛好家が醸造したお酒のなかから3種類をご紹介します。

若き蔵人が醸す純米酒。メキシコ「NAMI」

まず紹介するのは、メキシコのシナロア州で造られている「NAMI」です。

メキシコでは現在、日本酒がブームの兆しを見せ始めているのをご存知でしょうか。

「Kampai Festival」の様子

メキシコ国内で開催された、和食を楽しみながら日本酒を味わうイベント「Kampai Festival」には、なんと3,500人もの参加があったのだとか。会場ではもちろん「NAMI」もふるまわれました。

「Kampai Festival」で熱心に酒を利く男性

「NAMI」を手がけるのは、現地で大手スーパーや飲食店などを経営する会社です。蔵人は現地の若者が中心で、杜氏も20代後半という若さなのだとか。酒造りに関する指導は岐阜県・三千櫻酒造で蔵元杜氏を務める山田耕司さんが行いました。最新の機械が導入されるなど、かなり近代的な蔵のようですね。

今回は、日本産の山田錦を使った純米酒をテイスティングしてみましょう。

「NAMI」のボトル

「NAMI」のテイスティング

◆香り
注いだ先から立ち上がってくる重厚な吟醸香が印象的です。マンゴーやパパイヤなどの熟れた果実を思わせますね。青々しく若々しい香りが微量ながらもたしかに感じられ、果実の育った畑を歩いているような感覚になりました。

◆味わい
口に含むと、シンプルな甘みとそれを支える爽やかな酸味が感じられます。パイナップルのようなみずみずしい果実を想起しました。甘みの中に、クッキーを食べたときのような穀物香やバター香もあります。

「NAMI」のラベル

◆総括
熟した甘みを感じつつ、爽やかな酸味が全体をまとめているトロピカルな雰囲気のお酒でした。

◆合わせたい料理
ゆずの皮を載せたふろふき大根や、ミルクチョコレート、マシュマロなどの菓子類も合いそうですね。

醸造からわずか2年で金賞!ニュージーランド「全黒」

続いてテイスティングをするのは、ニュージーランドで醸造された「全黒」。氷河と万年雪に覆われたクイーンズタウンで、2015年から造られています。

4種類の「全黒」

杜氏を務めるのは、茨城県で「一品」を醸す吉久保酒造や、YK3サケ・プロデューサーというカナダの酒蔵で修行を積んだ、デイビット・ジョールさん。17歳のときに初めて来日し、そこから日本のファンになったというデイビットさんは、ニュージーランドに酒蔵がないことを知ったときに「これはビジネスチャンスだ!」と思い、酒造りを始めたそうです。

全黒の杜氏、デイビット・ジョールさん

「全黒」の名が業界内に知れ渡ったのは2016年8月。醸造を始めてから2年も経たないうちに、ヨーロッパでもっとも長い歴史をもつSAKEの品評会「ロンドン酒チャレンジ」で金賞を獲得したのです。

地元の水を使いつつ、原料米はアメリカからカリフォルニア米を輸入しています。また、濾過以外の工程では機械を使用しないなど、手造りにこだわっているのも特徴です。

そんな「全黒」のなかから、今回は「雫搾り」を選びました。

「全黒」のボトル

「全黒」のテイスティング

◆香り
上立ち香は麹由来のふくよかな香りがあり、米を食べたときのような甘みも感じられます。

◆味わい
前半はしっかりとボリューム感のある味わいですが、中盤から後半にかけて、白ワインを思わせるシャープな酸味が口の中を抜けていきました。ふくよかな甘みとキレのある酸味。全体的にシンプルな味わいと言えそうです。

◆燗酒
少し温度を上げて、ぬる燗にしてみました。すると酸味がマイルドになり、全体的に丸みを帯びた印象になります。飲み口の薄い酒器を使うと酸味が際立ってしまいますが、厚手の酒器にすると酸味が抑えられてバランスが良くなりました。

◆総括
キレの良い印象的な酸味が特徴のお酒です。肉料理が中心の現地料理に合わせた酒質なのかもしれません。飲むときの温度帯や使う酒器によって、酸味の印象が大きく異なるので、さまざまな創意工夫を楽しめそうです。

◆合わせたい料理
しっかりと脂を感じられるサーロインステーキや、シーフードをたっぷりと載せたピザなど、洋風の食事と合わせながら楽しめる食中酒といえるでしょう。

原料はすべて現地産。オーストラリア「豪酒 Go-Shu」

最後は「豪酒 Go-Shu」。オーストラリアの都市・シドニーから車でおよそ1時間のペンリスにある国内唯一の清酒蔵、サン・マサムネで醸造されたお酒です。

豪酒の菰樽

兵庫県で「白雪」を醸す老舗・小西酒造から技術提供を受け、1988年に試験醸造を開始。1996年から一般販売を始めています。

代表取締役社長を務めるアラン・ノーブルさんをはじめ、働いているスタッフはすべて現地採用のみとのこと。

ほぼ全行程を機械化し、四季醸造による安定供給を実現しました。原料はすべてオーストラリア産にこだわっています。

「豪酒」のボトル

「豪酒」のテイスティング

◆香り
上立ち香はヨーグルトを思わせる、酸味を含んだ甘い香りが優勢。炊いた米のような、香ばしさのある甘みもあります。

◆味わい
アタックでは甘みがしっかりと感じられますが、全体的にスッキリとした味わいで、キレの良いお酒です。後半にやってくる、乳酸飲料を思わせる酸味・甘みも主張が強く、印象的でした。

◆燗酒
ぬる燗にしてみると、香りが抑えめになり、旨味が出てきました。際立っていた酸味が甘みに変わったのか、冷たいときよりもバランス良くまとまっています。

◆総括
上立ち香にあるヨーグルトのような香りから、厚みのある味わいを想像してしまいますが、実際はかなり飲みやすいタイプのお酒です。温めることでじんわりと旨味が出てくるので、幅広い温度帯に対応できると思います。

◆合わせたい料理
冷やして飲むときは、ミルキーなニュアンスを活かして、生牡蠣やローストビーフを合わせてみましょう。温めると旨味がじんわりと出てくるので、魚のみりん干しや西京焼きなどといっしょにしっぽり飲むのもいいですね。

広がり続ける、SAKEの世界

近年、そのレベルをぐんぐんと上げてきた海外醸造酒。今後、日本産清酒の単なる後追いではなく、その地その地の舌に合わせて現地化された商品も多く出てくるでしょう。海外を訪れた際は、そこでどんなSAKEが飲めるのか、チェックしてみるのもおもしろいかもしれません。

(文/小池潤)

この記事を読んだ人はこちらの記事も読んでいます