蔵人の平均年齢は28歳。
国内外でエネルギッシュな取り組みを行う、水戸の蔵元・吉久保酒造の蔵人たちである。

水戸の中心部に堂々と構える吉久保酒造を訪れたのは、陽が落ちかけた夕方。
一見、酒蔵がありそうな雰囲気ではない下町にその建物はあらわれる。
寛政二年に創業され、200年以上酒造りが行われてきたこの蔵元は、元々米屋であるため蔵の中に精米所を持つ。
酒造りに使う水は水戸光圀ゆかりの良質な笠原水源。水戸を代表する蔵元だ。

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蔵は蔵人にとっての仕事場であり日常

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蔵人たちにとって蔵内は仕事場であり、日常であり、かつ生活の場所そのものでもある。
吉久保酒造の蔵はどこかホッとするような懐かしいような、そんな温かさを感じる。
吉久保社長の気さくで、人懐っこい雰囲気のおかげかもしれない。

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世間の中で酒蔵のイメージというと「神聖」「徹底された縦社会」「厳しい杜氏」など、とっつきにくいイメージを持つ人も多いかもしれない。もちろん、それが嘘というわけではない。しかし、切り取られた絵や写真の一部の世界ではなく、実際はそこで働く人々の生活感と日常に溢れている。

立て続けに賞を受賞している凄腕杜氏はどんな厳粛な雰囲気で現れるのかと思いきや・・・・はにかみながら挨拶をしてくれ、足早に作業へと戻っていった時に思わず緊張が解けた。
洗練されたグラフィックを作る天才クリエイターの仕事場が、アナログな鉛筆と紙に溢れているのを見た時と同じような感覚だ。そのリアルな雰囲気に触れると、とても安心する。そして納得がいく。
神様が造ったものじゃない。人間が造っているんだ。だからワクワクしてくる。

見学し始めてすぐに「いったいどんなお酒が飲めるのだろう?」と、あれやこれやと勝手に妄想が膨らんでいく。

蔵に入る前に抱いていた緊張感は、もうどこかに消えていた。

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麹室には蔵人たちが4人。麹菌を振って一晩寝かせた米を切り返す作業。高湿度の中で汗が滲む。蒸し米を挟んで対になった蔵人が両側に立ち、絶妙なコンビネーションで米を切り返していく。

小気味よいスピード感で、次々と作業が終わっていく。時間との勝負。

麹室の扉に付けられた小窓から見える無音の作業風景に思わずみとれていた。

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水戸料理に合わせた辛口・旨口の酒「一品」

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蔵を代表する銘柄は「一品」「爵梅」「百歳」

特にスタンダードな銘柄は「一品」だ。
味わいの特徴は辛口で旨口。その味わいを出すには、麹室の中で通常より長く留まらせること。こうすることで辛口の酒に仕上がる。水戸の料理に合う日本酒でありたいから、だという。

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水戸の郷土料理といえば納豆だが、茨城県にはあん肝、すみつかれ、塩辛や酒盗など、凝縮された旨みを感じる食べ物も多い。そんな旨みに負けない力強さとキレが水戸の酒には必要なのだ。それが地元の日常に入りこむ酒になる。

「地元の人に飲んでほしい。地元を裏切らない」

取材当時は秋。脂ののったカツオにも合うとのことでぜひ試してみたくなった。

地元の蔵人育成に力をかける

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22年前より、吉久保酒造は地元の蔵人採用に注力している。

高校卒業後そのまま蔵人となり、約20年ほどの歳月を経て杜氏となる。

1つ1つ技術を積み重ね、常陸杜氏が生まれる。

 

「東北泉」を醸した佐々木勝雄 杜氏からバトンタッチされ、2014年秋から現在の醸造のすべてを統括する常陸杜氏・鈴木氏が醸す日本酒は、全国新酒鑑評会での金賞San Francisco International Wine Competitionでのダブルゴールド(審査員全員が金と評価)など国内外問わず多くの受賞歴を持ち、注目されている。

吉久保社長いわく、
「海外に若い蔵人を連れて行くと、最初はとても緊張していて、何も話せない。でも、酒のことになると目の色が変わる。海外で受けた様々な刺激がそのまま日本酒造りのエネルギーに転換される。そういう純粋なパワーがある」

みなぎるエネルギーを酒造りに集約する若き蔵人たち。
まずは2016年のお正月、彼らが生み出す日本酒を楽しむ人も多いはず。

「『一品』を飲んだら、地元に帰ってきたという気がする。」
そんな温かくて幸せな声が町中に溢れるに違いない。

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