兵庫県が誇る銘醸地・灘五郷のなかでも存在感を放ち、高い技術を持って酒造りを続けている白鶴酒造。赤いパッケージに白い丸が描かれた「白鶴 まる」は、お酒コーナーには必ずといっていいほど並んでいるお馴染みの商品です。
白鶴酒造が毎年行なっている「酒蔵開放」は、全国からたくさんのファンが集まるお祭りのような大イベントで、待ちわびている方も多いといいます。2020年は「日本酒を通じて、明るさや楽しさを伝えたい」という思いのもと、白鶴酒造としては初めてオンラインイベントの形式で開催されました。
朝11時から夕方6時まで行われたイベントは、ゲストにSAKETIMESの小池編集長を迎え、オンラインだからでこそ見られる酒蔵見学や3つのテーマのトークセッション、オンライン飲み会、さらには高級日本酒が当たるプレゼント企画も行われました。
全国の日本酒ファンが参加した「白鶴 オンライン酒蔵開放」の模様をお伝えします。
5種類の飲み比べから始まったトークセッション
「オンライン酒蔵開放」は、白鶴の代表的な商品の飲み比べから始まりました。広報の植田尚子さんとSAKETIMESの小池編集長がテイスティングを行います。
乾杯は「白鶴 淡雪スパークリング」
「白鶴 淡雪スパークリング」は、華やかな香りとすっきりとした甘み、さわやかな酸味が特徴の、低アルコールのスパークリング日本酒。乾杯にぴったりな一杯です。
「食前酒にいいのかと思いましたが、食後酒にもぴったり合いますね」という小池編集長のコメントに続き、「チーズやホワイトソースに合うので女子会にオススメです」と植田さん。フルーツポンチに使ってもおいしいというアレンジの提案もありました。
2杯目は「白鶴 大吟醸」。
豊かな香りながら淡麗でキレのある味わいの大吟醸酒ですが、驚くべきは四合瓶で1,093円(税別)というリーズナブルな価格設定です。発売から10年たった今も、変わらず売れ続けているのは、弛まぬ企業努力があるからなのでしょう。
3杯目は「特撰 白鶴 特別純米酒 山田錦」です。
滑らかでやさしい口当たりから次第に山田錦らしい味わいがふくらみ、後口は軽快に切れていきます。「お酒が主役ではなく、食卓で食事ととも楽しんで欲しい」と植田さん。「純米酒らしい旨口でコクがある」と小池編集長が話すように、まさに食事と楽しむお酒のようです。
4杯目は、「白鶴 翔雲 純米大吟醸 自社栽培白鶴錦」。
「翔雲 白鶴錦」シリーズは、白鶴酒造が独自に開発した酒米「白鶴錦」を使った日本酒です。その味わいはトロピカルでジューシー。「高級感があり、上品な甘みのある香りと味わい」と小池編集長も絶賛です。
最後は「上撰 白鶴」。飲み飽きしない親しみのある味わいの白鶴のロングセラー商品です。
「心地よい飲み口で、これを燗にするのが好きなんです。お風呂に入っているような、身体がほどける感覚があるお酒です」と、小池編集長も日常に寄り添うお酒として満足している様子がうかがえました。
「白鶴 翔雲 純米大吟醸 自社栽培白鶴錦」に使われている酒米「白鶴錦」は、午後のトークセッションのテーマにも挙がりました。白鶴錦は「白鶴」の名を冠する通り、白鶴酒造が独自に開発した酒米です。
「山田錦に優るとも劣らない米を生み出す」をコンセプトに、10年以上の歳月をかけて開発した酒米で、2007年に品種登録が完了しました。この酒米は、心白が大きく、雑味となるアミノ酸が少ないため、各蔵の持ち味がはっきりと出る酒米だといいます。
白鶴酒造では、10年ほど前から白鶴錦の自社栽培を始め、2015年には農業法人「白鶴ファーム」を設立し、本格的に農業へ携わっています。白鶴ファームで収穫された白鶴錦は自社商品に使われるため、酒造りに適切かどうかを毎年フィードバックでき、栽培の改善にも役に立っているということでした。
とはいえ、まだ開発されてから10年ほどと歴史が浅いため、そのポテンシャルは未知数です。
2012年に、はせがわ酒店の長谷川社長と「十四代」醸造元・高木酒造の高木顕統さんが白鶴酒造を訪問した際に、「白鶴錦で酒を造ってみるのはどうか」と話が持ち上がりました。そこから交流が広がり、現在では「東洋美人」や「作」、「而今」など13蔵が白鶴錦を使って酒造りをしています。
普段は見ることができない酒蔵の中を見学
2回に分けて行われた蔵見学では、主に普通酒を仕込む「本店三号工場」と、吟醸酒を仕込む「本店二号蔵」を案内していただきました。
白鶴酒造には、本店二号蔵、本店三号工場、旭蔵の3つの醸造所があります。
本店三号工場では、年間を通して主に普通酒を生産しています。その生産量は約1,200万リットルで、一升瓶に換算すると約667万本。白鶴酒造で最も稼働している醸造所です。
1日に20トンもの米を蒸すことができる縦型蒸米機、最大3,600キロの米を取り込むことができる製麹機など、その大きな設備に驚かされます。その一方で、13本ある酒母タンクは、毎日人の手によって櫂(かい)入れという撹拌作業が行われています。
発酵タンクはサイズが大きいため、空気の流れで醪(もろみ)を混ぜることができる特殊な櫂棒を使っているそうです。
機械だけに頼ることなく、必要に応じて人の手を入れるところに白鶴酒造のこだわりを感じました。
続いては、本店二号蔵の見学です。本店二号蔵では、最初に試飲した「白鶴 大吟醸」や「翔雲」などの特定名称酒を造っており、四合瓶で10,000円を超えるプレミアム商品「天空」や鑑評会の出品酒といった小仕込みのお酒は手作業で造られています。
それでも発酵室に並んだタンクは全部で90本あり、シーズンで5周するという規模に驚かされます。さらに、その半数以上のタンクが昭和27年から使われているということに歴史を感じました。
配信では、蒸米を冷ますのに使う柿渋が塗られた木製の床や、節のない美しい板を使った麹室のほか、麹室での手作業の再現や、酒母がボコボコと元気に泡立っている様子などを画面越しに見ることができ、オンラインイベントならではの貴重な体験ができました。
「白鶴 まる」の誕生秘話と新たな楽しみ方
白鶴のお酒といえば、最初に思い浮かべるのは、やはり「白鶴 まる」ではないでしょうか。
これだけ認知度が高く、広く販売されているお酒にもかかわらず、冷酒か熱燗か、温度帯を変えての楽しみ方がほとんどです。そこで、トークセッション「『白鶴 まる』のおいしい飲み方」では、「白鶴 まる」を使った新しい飲み方が提案されました。
まずは、「白鶴 まる」を知るために、誕生の歴史から。発売された1984年当時は、一般的な日本酒のラベルには「辛口」 や 「マイルド」 など、味わいに関する言葉が書かれるのが主流でした。そんななか、紙パックのパッケージで「まる」というネーミングはとても斬新な試みだったようです。
この「白鶴 まる」は、実は酸の効いたお酒、甘口のお酒、味の濃いお酒など6種類のお酒をブレンドして造られています。
今でこそ白麹を使った酸の効いた日本酒は増えていますが、以前はほとんどありませんでした。そこで、白鶴酒造では「酸が出やすい白麹を使ってお酒を造ってみよう」と挑戦しましたが、想定したよりも酸っぱいお酒ができあがってしまい、そのお酒はお蔵入りとなりました。
そんな中、開発段階だった「白鶴 まる」は、アルコール度数13%という設定にすると味わいが単調になってしまうという課題にぶつかります。そこで、複数のお酒をブレンドする方法にたどり着いたのですが、お蔵入りとなっていた「酸っぱいお酒」を少量加えてみたところバランスがよいお酒ができたそうです。
「白鶴 まる」について学んだあとは、いよいよ伴(ばん)杜氏と小池編集長による、さまざまな楽しみ方についてのおつまみ談義です。自宅で気軽に試せる3種類の飲み方が紹介されました。
最初のメニューは「マグロのまる漬け」です。「以前、マグロ屋さんと対談したことがあり、その時にマグロをお酒に漬けてみたらどうか?という提案をいただきまして、試してみたらおいしかったんです」と、伴さん。
「白鶴 まる」にマグロの切り身をしばらく浸してから、マグロを食べ、そのまま浸したお酒も一口。
「マグロにはお酒の旨さが染み込み、お酒にはマグロの旨みが移り、どちらもより旨みが乗った味わいになりますね!」と、小池編集長も驚きの表情です。
続いてのメニューは、大衆酒場ではお馴染みの、おでんの出汁を使った「出汁割り」です。
「出汁1:酒1」「出汁1:酒2」「出汁2:酒1」と、比率を変えて味わいの変化を試していきます。「出汁が多い方が好きだな」という伴杜氏は、七味を振ってもよいと言います。小池編集長は「1:1の割合がいいですね」と、自分好みの味を見つける様子が楽しそうです。
最後は「ホットヨーグルト割り」です。
「白鶴 まる」とヨーグルトを同量、ハチミツを少々加えてレンジで1分加熱。「新しい感覚。酒らしさは少なく、ホットカクテルですね」「まるの酸味も残っていて飲みやすい」と、おふたりともに好評でした。
7時間に渡るオンラインイベントを振り返って
より深く白鶴酒造について理解できたところで最後はオンライン飲み会。「白鶴 天空」で乾杯した後、今日のイベントを振り返ります。
「5種類の飲み比べは白鶴の特徴がわかりやすくてよかったですね」と、小池編集長。白鶴酒造のお酒はさまざまな銘柄を手軽に購入することができるので、仲間同士で試せる楽しみ方のひとつだとおすすめしていました。
実行委員長の広報室・大岡和広さんは、「最初はファンのみなさんとお会いできないことで残念な気持ちが大きかったのですが、オンラインだからこそ、普段見ていただけないところまで見ていただけたこと、工場見学などの動画では、各担当が直接現場を紹介することができてよかったです。今までの酒蔵開放とは違う楽しみ方をしていただけたのではないでしょうか」と、一日を振り返ります。
司会を担当した研究室の久保田健斗さんも「温かいコメントをたくさんいただけてうれしかった」と喜んでいる様子でした。
「機械による自動生産ラインだと思っていたのに、ちゃんと人の手で造られていて白鶴のイメージが変わった」という感想が視聴者から届くなど、リアルタイムで白鶴社員への激励のメッセージが多く寄せられていました。
通常では入ることのできない設備を見学できたり、酒造りに携わっている人たちの素顔に触れることができたりと、朝から夕方まで7時間に渡って開催された「オンライン酒蔵解放」。白鶴酒造の新たな魅力を発見できる体験でした。
(取材・文/まゆみ)