愛知県名古屋市にある酒蔵・金虎酒造は、全国新酒鑑評会で4年連続金賞受賞した「虎変(こへん)」に加え、2020年の「ワイングラスでおいしい日本酒アワード」メイン部門で「大吟醸 名古屋城本丸御殿」が最高金賞を受賞するなど、注目を集めている酒蔵です。

「名古屋を醸す」をテーマにしている酒蔵だけあって、地元・名古屋が誇るエンターテインメント歌舞伎「ナゴヤ座」とのコラボイベントや、年1回テーマを決めて少量仕込みで新しい味にトライする金虎チャレンジタンク(KCT)など、さまざまなチャレンジを続けていることでも知られています。

2020年3月から、にごり酒と梅酒を使った和酒カクテル「Pinky Tiggy(ピンキーティギー)」を発売しましたが、3/14(土)に開催を予定していたお披露目イベントは、新型コロナウイルスの影響のため残念ながら中止に。そんな状況を逆手に取り、「Pinky Tiggy Party ONLINE!!」と名付けたオンラインパーティーを企画しました。

「Pinky Tiggy」完成のストーリーやオンライン上での乾杯、参加者交流の様子、夜の酒蔵見学など、このオンラインイベントの模様をレポートします。

オンラインイベントのドレスコードは「ピンク!」

onlineイベント

「Pinky Tiggy Party ONLINE!!」は、ウェブ会議やオンラインセミナーが無料でできるアプリ、ZOOMを使って行われました。当日のドレスコードは「ピンク」。参加者のみなさんは思い思いのピンク色のアイテムを身に着けて、ZOOMのイベントページにログインします。

参加者は約30名。名古屋を始めとする東海3県はもちろん、東京や神奈川、鹿児島からの参加者もいらっしゃいました。自宅から参加したり、飲食店がお店を開きながら参加したり、なかには外で屋台の順番を待ちながらという方も。

イベントを進行する金虎酒造の専務取締役・水野さんも、専務の同級生で、ZOOMを使って配信を担当する高木さんも、ドレスコードの「ピンク」の衣装を身につけ、「Pinky Tiggy」を注いだワイングラスを片手にスタンバイ。画面の前では、参加者それぞれが「Pinky Tiggy」をグラスやお猪口に注いで、準備万端の状態で乾杯の合図を待ちます。

「1時間と限られた時間のPinky Tiggy Party ONLINEですが、みなさんリラックスして楽しみましょう!乾杯!」

水野さんの掛け声とともに、画面の向こうからも「乾杯!」の声が響きます。金虎酒造の初オンラインイベントのスタートです。

最初に、水野さんから「Pinky Tiggy 」の味わいやオススメの飲み方、誕生秘話の話がありました。画面越しのトークなので、一方通行にならないように、オンライン参加されていたタレントの川本えこさんが合いの手を入れながら、参加者が聞きやすいように進行をサポートします。

「Pinky Tiggy」は、金虎酒造の真っ赤な梅酒とにごり酒を合わせた和酒カクテルです。ピンク色の見た目とは裏腹にアルコール度数14度と結構高め。飲み方は冷やしてストレートか、氷を浮かべてロックで飲むのがオススメなのだそう。

甘い香りとともに口に含むと、梅酒の甘酸っぱさに続いて、にごり酒独特のトロッとした舌触りとお米の甘さが引き立ちます。重たい感じもなくスッキリといただけました。

偶然が産んだ「Pinky Tiggy」の商品開発

「Pinky Tiggy」誕生のきっかけは、水野さんがある梅酒の会に参加した時のことでした。

真っ赤な梅酒「きんとら うめ酒 ローゼル」のほかに、さわやかでキレが楽しめる「きんとら にごり酒 純米」を一緒に持参した水野さん。会の途中、偶然にも参加者がこの2つのお酒を混ぜてつくったのが、ピンク色のお酒。梅酒のしっかりした酸味をにごり酒がうまくコーティングし、かすかに感じる炭酸が、濃い目なのに後味はスッキリを作り出すという絶妙なバランスです。

このカクテルをヒントに商品開発を開始。2年間の時間を経て、完成したのが「Pinky Tiggy」です。続いて、そのキャッチーなネーミングについて話が進みました。

「最初に付けていた名前は、どストレートな『桃色タイガー』でした。その後、素敵なバーで女性が頼みやすい和カクテルという商品コンセプトに合わせて、名称は『ピンクタイガー』へと変遷。さらに音の響きを重視して、現在の『Pinky Tiggy』という名前に落ち着いたんです」と水野さん。

クールな感じもありながら、どこかかわいらしいラベルデザインを手がけたのは、9lives design worksのグラフィックデザイナー・澤口さんです。今回のイベントにも参加されていた澤口さんは、ラベルに採用されなかったデザイン画を紹介するなど、デザインへの想いや普段はうかがえない裏話などを話してくれました。

オンラインイベント中

ZOOMには自分が映っている背景を自由に設定できる機能があります。参加者の中には「Pinky Tiggy」のラベルを背景画像に設定されている方もいて、そのやり方はすぐさま共有。同じように背景画像を変更される方もいました。これも、オンラインイベントならではの楽しみ方ですね。

いつも違う顔が見られた「夜の酒蔵見学」

オンライン蔵見学

水野さんは作業着に着替え、「夜の酒蔵見学」の準備を進めます。

まずは会場を出て急階段を登り、2階の仕込み蔵へ。ここには麹米をつくる麹室があります。中に入ると、奥から現れたのは杜氏を務める木村さん。水野さんが、設備やここで行われる酒造りの工程について、木村杜氏へ質問します。

この時期は、毎日2時過ぎまで1時間おきに酵母の様子を確認していると話す木村さん。前日に担当した蔵人は泊まり込みで対応したそうです。手塩にかけて酒造りを行っているのが伝わりますね。

麹室見学

木村杜氏 (写真左)と水野専務(写真右)

続いて、酒母のタンクが並んでいる1階へ移動します。

杜氏と水野専務

「今造っているこの酒母は『名古屋城 本丸御殿』。今日で2日目です。冷えすぎないよう、温めすぎないよう、機材を使って約20度くらいになるように維持しています。外気よりは少しだけ暖かいこの温度が重要です」と、木村杜氏。

酒母の入ったタンクの外側には水を張った大きなタンクがあり、機材の管を入れて熱を入れることで、この温度を維持しています。

もろみ経過

次に木村杜氏が見せてくれたのは、「醪(もろみ)」と呼ばれる発酵タンク。酒母に麹米と仕込み水を入れて発酵させている途中です。タンクの中を開けると、吟醸香がふわっと漂います。耳をすますと、発酵中のプチプチという音も聞こえてきました。

画面越しでは、色や音、香りは伝わりきらないため、専務の水野さんが映像とコメントでサポート。照明が少なく薄暗い酒蔵の中でしたが、水野さんの自撮り棒を使った撮影で、発酵中のタンクの内側が見られたのが新鮮でした。

蔵見学

蔵見学の最後は、醪を絞るための圧搾機が置かれている部屋です。想像よりも大きな圧搾機に、参加者からも「搾りたてのお酒が飲んでみたい!」という声が上がっていました。

やぶた

これにて夜の酒蔵見学の工程はすべて終了。音声トラブルなどもありましたが、大人数で回るツアーではないため、進行はスムーズです。

会場に戻るまでの間は、配信担当の高木さんが参加者から届いたコメントを読み上げ、質問やコメントを共有しながら進んでいきます。たとえば、「オススメの飲み方はなんですか?」と問いかけると、炭酸割りや牛乳割り、なかにはバニラアイスにかけてなど、酒蔵さんも想定外の飲み方が寄せられました。

この後は参加者同士の交流を深めるため、約10分間の歓談タイムへ。参加者を3つのグループにわかれ、それぞれがトークテーマをもとに歓談するといった流れです。

このイベント以外では交流がない参加者たちですが、使っているお猪口の自慢をしたり、オススメのおつまみを教えあったりと、ほどよくお酒が入った効果もあり、どのグループもとても盛り上がっていました。

1時間のイベントはまもなく終了時間に。参加者の中には、すでに4合瓶の「Pinky Tiggy」を飲みきってしまった方もいらっしゃいました。

最後に水野さんから「僕たちも楽しかったです!またオンラインイベントを企画しますのでぜひ参加してください。ありがとうございました!」と締めの挨拶があり、拍手ととも金虎酒造の初めてのチャレンジは無事に終了です。アンケート結果をみると、ほぼ全員が「楽しかった!また参加したい!」との回答で、参加者の満足度も高かったようです。

「こんな時期だからこそ、新しい手法を試したい」

水野専務と同級生

今回のオンラインイベントを終えて、専務の水野さんにお話をうかがいました。

─  イベント中止からオンライン企画の立ち上げまで、切り替えがはやかったですね。

「日ごろ交流のあるなごや朝大学のメンバーから、以前『ZOOMを使っての蔵見学や飲み会をやってみたい』という働きかけがあったんです。さまざまなイベントがある時期だったので見計らっていたのですが、このコロナショックを機に実現させてみました」

─ もともとオンラインイベントや使用するアプリなどについての知識はお持ちだったのですか?

「ZOOMは以前に参加者として使ったことがあり、映像も音質も良かった記憶はありますが、開催者として自分で使ったことはありませんでした。今回、ZOOMに詳しい同級生に助けてもらったり、Youtuberの知り合いに酒蔵見学用の手ブレしない自撮り機材を聞いて購入したり、操作や進行方法を勉強して挑んだ感じです。

実際にやってみるまで不安もありましたし、途中音声をミュートにしたまま酒蔵見学していたというハプニングもありました(笑)。課題もまだ多いですが、やってみたことわかることもあり学びの多いチャレンジだったと思います」

─ 今後もまたオンラインイベントを開催される予定でしょうか?

「新型コロナウイルスの影響でイベントのキャンセルが相次ぐこの時期にこそ、新しい手法としても有効かなと思います。飲み比べや香りを同じ環境下で楽しめないのは残念ですが、参加者のみなさんから家飲みならではのアイデアもいただけて、こちらも発見がたくさんあり、おもしろかったです。

今回ご参加いただいたみなさんからの評判も良かったですし、日本酒好き同士の交流会や飲食店さんから配信してみるなど、さらにいろいろなアイデアを検討して開催したいと思っています」

チャレンジ精神旺盛な金虎酒造さんの初の試みは、まさに昨今の事情を逆手にとった日本酒の新しい楽しみ方でした。こんなときだからこそ、コミュニケーションを取りながら日本酒を楽しむオンライン飲み会が広がっていく可能性は高そうです。

(取材・文/spool)

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