「日本酒の日」と定められている10月1日。日本酒を題材に「アイデアを考えて実現して店舗に展示する」という一連のものづくりを行うアイデアソン「SAKETech」が、秋葉原にあるものづくりのためのコワーキングスペース「DMM.make AKIBA」にて開催されました。

日本酒を飲むシーンを面白くするアイテムをかたちにするアイデアソン「SAKETech」

アイデアソンとは、参加者同士で新しいアイデアを考えるためのイベントです。「SAKETech」では日本酒を題材として、日本酒の飲用シーンをさらに楽しくするアイデアを実現させます。

主催するのは、クラウドファンディングサービスを展開する株式会社CAMPFIRE。11月22日にリニューアルする渋谷パルコに店舗を構える次世代型ショールーム「BOOSTER STUDIO by CAMPFIRE」のオープンを記念し、「SAKETech」の開催が決まりました。

「BOOSTER STUDIO by CAMPFIRE」では、最新テクノロジーによって生まれた製品に加えて、CAMPFIREが株式会社パルコと共同運営を行うクラウドファンディングサービス「BOOSTER」を通して商品化された製品の展示が行われます。

SAKETechプログラムの概要

「SAKETech」で生まれたアイデアは、実際にクラウドファンディングで開発資金を調達。その後、協力会社である株式会社テクノラボのサポートを受けながらプロトタイプを製作し、「BOOSTER STUDIO by CAMPFIRE」での展示を目指します。

会場には、アイデアを形にしようと意気込む約30名の日本酒ファンが集まりました。さまざまなアイデアが生まれた、イベントの様子をお伝えします。

「あったらいいな」を形にするアイデアソン

参加者が着席し、開会の挨拶と協賛企業の紹介、イベントの説明が行われました。今回は、石井酒造(埼玉県)、月桂冠(京都府)、三和酒造(静岡県)と日本酒専門WEBメディア「SAKETIMES」の関係者がアドバイザーを務めます。

通常のアイデアソンとは異なり、審査をするのではなく、希望者のアイデアをすべて形にするサポートが行われ、権利も発案者に帰属するのだそう。これは、「個人が挑戦を続け、イノベーションが次々に起こる世の中を多くの人といっしょに創りたい」という「BOOSTER」の理念に基づいています。

続いて行われた参加者同士のアイスブレイクにより、会場の雰囲気は和やかに。いよいよ、アイデアソンのスタートです。

参加者のアイディア出しの様子

「SAKETech」は2部構成。はじめに参加者が個人でアイデアを考え、立候補形式で発表します。そして、そのアイデアに共感したほかの参加者とグループを組み、さらに深くまで検証して、実際に製作を進めるプロジェクトを決定します。

まずは、前半戦の「アイデア出し」から。今回は「日本酒を飲むシーンを楽しくするアイデア」と「お酒の新商品とセットにするアイデア」という2つのテーマが提示されていましたが、前者のアイデアが多く見られました。

グループに分かれての話し合い

参加者は20代から60代まで、幅広い世代が集まっていました。アイデアを練るにあたっては、相談するのも単独で考えるのも自由。しかし、日本酒好きが集まっていることもあり、賑やかなムードで会は進みました。

20分が経過し、10人ほどが参加者の前でアイデアを発表。以下のような、個性あふれるアイデアが生まれました。

  • 日本酒を注ぐと、甘口、辛口などの情報が数値でスマホに表示されるおちょこ。
  • その日に合った燗酒を作れるように、気温や湿度、顔色などから良い頃合いを算出して日本酒を温めるデバイス。
  • 居酒屋で同じお酒を飲んでいる人がわかるアプリ。
  • 水をシリコンの型に入れ、凍らせて作る氷のおちょこ。

こうしてアイデアが出揃い、いくつかのグループが生まれたところで、後半戦に突入します。

メンターからのアドバイス

後半戦は「絞り込み」。前半に出たアイデアのブラッシュアップを目指します。

実現性を高くするチームもあれば、独自性を持たせたグループもありました。参加者は次第に真剣な面持ちになり、少し緊張した空気が会場を包みます。

参加者の発表風景

結果的に、クラウドファンディングで資金調達をしたいと名乗り出たグループのアイデアは以下の3つでした。

  • デバイス上で酒蔵を擬人化させ、銘柄を武器にして戦う「サケGO」というサービス。その蔵を訪れないと起きないイベントもある。
  • 小さいデバイスを徳利やおちょこに付けると、画面上にどのくらい飲んだかを表示してくれるアプリ。自分が気持ち良く酔える量をアプリが学び、ビールならこれくらい、日本酒ならこれくらいと許容量も知らせてくれる。
  • より映えることを目指した、キャンプや宅飲みで楽しめるような光るグラス。アルコール度数によって光の色を変え、お酒のイメージを表現できる。

先ほどのアイデアに比べて、より具体的、魅力的なものとなりました。さらに日本酒を楽しめそうなアイデアばかりです。

異なる切り口のアイデアで、日本酒の魅力を伝える

石井酒造の石井さんアイディアを発表しているところ

クラウドファンディングを利用した日本酒のプロジェクトがまだ少なかった5年前。石井酒造の8代目蔵元・石井誠さんは、業界に先駆けてCAMPFIREにてクラウドファンディングを行いました。今回はその縁もあり、アドバイザーとして参加したのだそう。

実は、今回生まれたアイデアの「サケGO」は、アイデアを聞いてインスピレーションを受けた石井さんと参加者の共同案。いつの間にか発表する立場になっていた、石井さんにお話を伺いました。

石井酒造の蔵元・石井誠さん

「自分たちの視点では生まれないようなアイデアが聞けると思い、アドバイザーとして参加しました。実際、アイデアソンに参加してしまうくらい自分自身が奮い立ちましたね。『これは実現するべき』と感じるアイデアが多く出て、いい日本酒の日になりました。

メーカーは、売上や認知度を上げるためのツールが必要です。味わいやブランドなど、その手段が限られるなかで、今日のアイデアを活かせば、今までとは違う切り口で日本酒の魅力を伝えられると思います」

新たな挑戦が次々と生まれる世の中へ

近年、単なる消費ではなく、創り手の活動に「参加」して「新たな価値を創る」という意識が生まれてきたことを受けて、「個人が挑戦を続け、イノベーションが次々に起こる世の中を多くの人といっしょに創りたい」と考えるBOOSTER。

クラウドファンディングの参加者を応援するべく、「BOOSTER STUDIO by CAMPFIRE」を活用した取引先とのマッチング、CAMPFIRE、PARCO双方による情報発信など、手厚いサポートも行っています。

イベントの主催者である北山さん

「SAKETech」の主催者である北山さんに、プロジェクトに懸ける思いを伺いました。

「これからの時代は機械化が進み、人間の手が空くようになる。自由な時間が増えたとき、アイデアを出してプロダクトを作る"クリエイティブ"が大事だと思ったんです。今回、日本酒が題材だったのは、たまたま僕が日本酒を好きだからですが、想像以上に多くのアイデアが出てわくわくしました。またこのようなイベントを開催したいですね」

アイデアソンの後、参加者はコミュニケーションツール「Slack」に招待されます。アイデアをより現実的なものにして、渋谷パルコ「BOOSTER STUDIO by CAMPFIRE」での展示を目指すのです。

「SAKETech」では、幅広い年代や業種の方が、日本酒を介して真剣にアイデアを出し合いました。それは、クラウドファンディング活用による製品化を踏まえた議論だったからでしょう。

アイデアはどんなところから生まれるかわかりません。例えば、ウイスキーを好きな人とワインを好きな人が日本酒について語り合う。そんな化学反応から生まれたアイデアが魅力的だったら、わくわくしますよね。次は、あなたがプロジェクトを立ち上げる番かもしれません。

(文/大戸麻矢)

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