手のひらにそっと収まるこぶりな佇まい。蕎麦猪口は、今も昔も人々を魅了してやみません。

民芸運動の父とも呼ばれる柳宗悦は「この蕎麦猪口ぐらい衣装持ちは無い」と表現しました。蕎麦猪口という器が人々に親しまれる理由は、多岐にわたるその姿・使い道によるのでしょう。

そんな蕎麦猪口について、いま一度その魅力をご紹介します。酒器としてお酒そのものをいただくのにも、酒肴を盛るのにも、活躍してくれますよ。

1年中お酒を楽しめる、蕎麦猪口

佐賀県有田町を中心とした地域で盛んな有田焼

冬は燗をつけ、冷えた手で包むようにしてちびちび味わう。
蕎麦猪口の広い口から漂う、ほどよい燗酒の豊かな香りに、心が温まります。

夏はキリッと冷えた日本酒を注いで喉を潤す。
手に持つ蕎麦猪口からひんやりとお酒の温度が伝わってきて、暑さにほてった身体が落ち着いてくるのを感じられますね。

柄や模様が豊富な蕎麦猪口だからこそ、そのときの季節に合わせて、また自分の気分に合わせて、気軽に選んで楽しむことができます。美味しいお酒を選ぶことも大切ですが、そのお酒に合う器を選ぶと、さらに美味しく飲めますよ。

また蕎麦猪口にお酒を注ぐと、思ったよりもたっぷりと入ります。小さな杯では何度も注ぐのが面倒!という酒飲みの方にも、蕎麦猪口はぴったり。

燗をする場合も、蕎麦猪口なら飲みたい分量だけ注いで電子レンジでチンをするだけ。手軽に燗酒を楽しむことができます。

酒肴を盛るときにも活躍!

お酒が用意できたら、肴の用意をしましょう。酒器としておすすめの蕎麦猪口ですが、酒肴を盛るのにも活躍してくれるんですよ。

おすすめの使い方を、おすすめの器とあわせてご紹介します。

土の感触が優しい、小石原ポタリー

小石原ポタリーは、福岡県に古くから伝わる生活雑器である「小石原焼」の流れを汲む窯元と、フードコーディネーター長尾智子さんのコラボレーションによって誕生したブランド。

"料理をおいしくする器"というシンプルなコンセプト通り、その素朴な存在感が料理の色合いを引き立ててくれます。

大根ポタージュを注いでスープカップとして

日本酒のアテにスープは意外でしょうか?
大根と豆乳のポタージュは、日本酒との相性もばっちりです。

茶碗蒸しの器として

だし香る茶碗蒸しも、蕎麦猪口に似合いますね。
季節に合わせて少し緑をあしらうと、蕎麦猪口の"土の色"と、お互いが引き立て合い、さらに上品に感じられます。

茶碗蒸しのつるんとした口当たりは、晩酌のアクセントに最適ですよ。

作家・十河隆さんの粉引ほっこり湯呑

こちらは蕎麦猪口ではなく、本来は湯呑み。ですが、手にすっぽりと収まる心地良い形は、蕎麦猪口と同じように酒器や小鉢としても活躍してくれます。

岡山県玉野市、瀬戸内海を臨む丘の上に工房を構える作家の十河さん。豊かな土の表情が特徴の作風で人気です。さまざまな人の生活に馴染む、優しい陶器ですね。

永遠の酒のお供・白和え

美味しい白和えが一品あれば、軽く一合は楽しめるでしょう。
具材が多く、料理の色合いが豊富なので、ここでは柄のついていない素朴な風合いの器が似合います。

刺身の盛りつけにも

あじの刺身をこんもりと盛ってみました。生姜とねぎをあしらえば、完璧な酒肴です。

蕎麦猪口が生み出す晩酌の特別感

せっかく美味しいお酒をいただく晩酌の時間ですから、肴を盛る器にもこだわってみたいもの。とはいえ、身構える必要はありません。

蕎麦猪口にはさまざまな形や色、質感、柄のものがあるので、お酒や肴に合わせて選ぶことができます。きちんとした器を揃えようと思うとそれなりに費用が必要ですが、蕎麦猪口ならば気軽に揃えることができるのも魅力ですね。

また、料理を盛るのはついつい平たい器ばかりになりがちですが。おかずを蕎麦猪口に盛ってみると、立体感が出て、バランスも良く、目にも楽しい食卓を演出できますよ。

目にも美味しい料理は、きちんと味わって食べたくなります。お気に入りのお酒をちびちび楽しむように、噛み締めて味わって...実に贅沢な晩酌の時間ではありませんか。

酒器としても、肴器としても大活躍の蕎麦猪口。
あなたも、お気に入りの蕎麦猪口を見つけてみませんか?

(文/小鳥あんず)

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